写真=iStock.com/PhonlamaiPhoto

写真拡大

世帯主が30〜40代の場合、3割以上は「貯金がまったくない」という。子供の教育費や住宅ローンなど支出が多く、そのまま貯金ゼロを続ければ、老後破綻は避けられない。ファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんは「貯金ゼロの人には、共通した浪費習慣がある」という。いったいどこに問題があるのか――。

■「レジ横」「小腹」の誘惑に負ける人は人生に負ける

「ぜいたくなんか全然していないのに、貯蓄できないんです。どうやったらお金を貯められますか?」

家計相談でよくある質問です。貯蓄できない理由がわからない方は、自分の消費衝動をコントロールできていない可能性があります。ふらふらっと用事もないのにお店に入ったり、テレビの通販番組やネットのECサイトでついつい買ってしまう。それも無意識に。そんな浪費習慣が隠れていることが多いのです。

▼「貯金ゼロ」30〜40代の3割以上という真実

30〜40代の3割以上が「貯金ゼロ」という驚くべきデータがあります。

金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」(2016年)によると、「金融資産(預金や株、投資信託、保険年金など)がある」と答えた2人以上の世帯は、世帯主が30代の場合は69%(貯金額の平均は395万円)で、同40代の場合は65%(貯金額の平均は588万円)でした。

今回問題にしたいのは、30代の31%、40代の35%の世帯で「貯金がまったくない」と答えていることです。

言うまでもありませんが「貯金ゼロ」では、万が一、病気やけがをして働けなくなったら大変です。いくら子供の教育費や住宅ローンがある世代だからといっても、今後さらに寿命が延びると言われる中、老後の生活費のことを考えると、現役時代にお金が貯められない生活習慣は改めるべきでしょう。

■財布のひもが「ユルユルの人」の共通点3

長年、家計相談を受けていると「お金が貯まらない」と相談してくる方にはいくつかの共通点があることに気づきます。

【1:コンビニや駅ナカの商業施設などに習慣的に立ち寄る人】

24時間営業のコンビニエンスストアはとても便利です。だから、利用頻度が自然と高くなります。ただ、店側も客に「ついで買い」「衝動買い」してもらえるように品ぞろえや商品の配置などを工夫しているので、注意が必要です。

ペットボトルだけ買うつもりが、レジ横のからあげ、フランクフルト、おでんなども買ってしまう。小腹の誘惑に負けてしまう。スーパーでもレジ横に、ようかんやあられなどのお菓子やスイーツが置いてあります。食材など2000円の買い物をする際、レジ前・横の100円程度の商品は不思議とリーズナブルに感じられるものです。レジ待ちをしていると、ついつい、これらをカゴに入れてしまう人は多いのではないでしょうか。

このような「ついつい買い」はトータルにすると、週単位・月単位ではそれなりに大きな金額になるはずです。

どうすれば浪費を防ぐことができるでしょうか。答えは、なるべくコンビニに行かないこと。これに尽きます。ペットボトルを買う回数が多いのなら、自宅から鉄瓶などで沸かしたおいしいお水を持って出かける。小腹対策にはひと口サイズのお菓子をバックに入れておく。そうすればコストはぐっと抑えることができるはずです。

【2:ポイント還元に目がない人】

ポイントを貯め続けている人はとても多いですが、本当にお得なのでしょうか。例えば、「10%ポイント還元」と「10%割引」。このふたつは似て非なるものなのです。

どちらも10%なので同じ水準の「お得感」に思えます。しかし、実際に計算してみるとどうなるでしょうか。

前者は10万円の商品を買うと10%のポイントが付くということです。つまり、10万円で11万円の買い物ができることを意味します。すると割引率は差額の1万円を11万円で割って9.09%という計算になります。

一方、後者の10%割引はどうでしょうか。これは10万円の商品を買ったら1万円が返ってきます。こちらの割引率は1万円を10万円で割った10%。よって、より得なのは後者のほうなのです。しかも、10%割引で得た現金はどのお店でも使えますが、ポイントはそのお店でしか使えないことが多いはずです。

また、「ポイント5倍デー」などの日は、ポイントほしさに家にまだストックがあるモノでも「いずれは使う・食べるから」と多めに買ってしまうことがしばしばあります。ポイントが貯まるからと余分なものまで買って支出が多くなってしまっては本末転倒です。

■なぜ単純なセールストークに乗せられてしまうのか

【3:セール中のお店をなにげなくのぞいてしまう人】

家計相談で「貯金ができない」と訴える人は、ぜいたくはしていないと言いつつ、よくよく聞いていくと、「安く買う」ことに執着する共通点があります。「セール」という言葉に弱く、「今買わなくては!」と焦燥感を覚える、と彼らは言います。

例えば、あるお店に入って、5万8000円のバックがあったとしましょう。通常、買うモノを選ぶ時、自分の好みに合うか、品質は確かなものか、といったポイントをチェックし、他の商品とも比較検討して最終的に購入するか決めるはずです。

しかし、通常価格8万3000円のところ、2万5000円割引の特別価格5万8000円と表示されていると「2万5000円も安くなっている」というインパクトに影響され、「自分はラッキーだな」と思う人は少なくありません。

行動経済学に、「アンカリング効果」という概念があります。最初にみた印象的な数値や情報が、その後の意思決定や購買基準に影響を及ぼす、という心理効果を指すものです

だから、「通常価格8万3000円のところ、2万5000円割引の特別価格5万8000円、でも今日ご購入のお客様は、さらに1万円割引の4万8000円になります」といったセールストークを展開されると、もう財布のひもはユルユルです。予算オーバーでも買わなくては損をしてしまう気持ちになるかもしれません。

▼お金の習慣を変える第一歩「レシートの扱い方」

こうした浪費習慣を改めるには、どうしたらいいでしょうか。

家計相談の際には、毎日「その日1日の支出額を振り返ってください」とお伝えしています。レシートや領収書、カード支払いの控えなどをすべて財布から取り出して見て、1日で合計いくら使ったのか、そのお金は使ってよかったのか悪かったのか。反省会を開くのです。

慣れてきたら、レシートや領収書に、○△×をつけてみましょう。

たとえば、タクシー代です。「公共交通機関だと疲れて仕事に支障がでてしまう」という理由での乗車は「○」。でも、「雨が降ってきたから」という理由は「△」。「準備作業に手間取り、待ち合わせ時間に間に合わない」という理由は「×」といった具合に。自分なりのルールを決めて、「△」「×」の乗車を少なくしていくのです。

■大量の「買い置き」、賞味期限切れで結局ムダ

もちろん、タクシー代だけではなく、「食費」などでも同じようにチェックします。そうやって1カ月分ほど自分の買い物・消費動向を確認すると、「癖」がよく見えてきます。節約ポイントも明確になっていきます。

また、お金を貯める方法の王道のひとつには、現状の家計割合を算出し、比率の多い費目を改善するというものがあります。

以前、家計相談に応じた30代の夫婦共働きの2人世帯では、手取り収入の20%を食費(外食別)にかけていました。世帯収入は計45万円で食費が9万円だったのです。この比率は高いため、収入の15%を目標におさえることになりました。

まず、「○△×」でレシートをチェックしてもらったところ、使い過ぎの原因のひとつは「食へのこだわりの強さ」であると判明しました。国産品や有機野菜にこだわっていて、結果的に割高なものを買っていたのです。

もうひとつの原因は「買い置きの多さ」でした。まだ十分にストックがあるのに、セールで安いからとまとめ買いする。でも、乾物、缶詰などは賞味期限がすぎて、結局ムダにしてしまうこともわかりました。

そうやって「使いグセ」にチェックを入れることで、食費の割合は16%にまで下がりました。

自分やご家庭のルールでかまいません。レシートに「×」のつく買い物を減らしていくことで、お金は徐々に貯まっていくはずです。

(社会保険労務士 井戸 美枝 写真=iStock.com)