奈良時代に10年間だけ都だった「長岡京」をご存じだろうか。平城京と平安京に挟まれて知名度的にはやや弱いものの、桓武天皇の勅命で遷都された場所ということもあり、歴史的には重要な場所だ。

そんな長岡京が存在した京都府向日市(むこうし)が、AR(拡張現実)機能によって長岡京や都にまつわる人物について知ることができるスマホアプリ「AR長岡宮(iOS、Android対応)」を2014年から提供しているのだが、最近になって「怨霊」と記念撮影ができるとツイッター上で話題になっている。

あなたの後ろに怨霊が

向日市のサイトによると、「AR長岡宮」はスマートフォンやタブレット端末で長岡京の理解を深めることができる復元・体感アプリで、「長岡宮(編注:史跡としての長岡京の名称)の建築物やゆかりのある人物などが出現し、いにしえの長岡宮を現地で体感できます」と紹介されている。


一見普通の観光アプリといった感じだが

一見、手堅い教育・観光アプリのようにも思えるが、ツイッターであるユーザーが次のように投稿した。

早良親王(さわらしんのう)とは桓武天皇の実弟(皇太弟)だが、長岡京遷都の責任者であった藤原種継暗殺事件が起きた際、首謀者として捕えられた人物だ。無罪を訴えたものの聞き入れられず、淡路島に流罪となる途中で絶食して亡くなった。その後、桓武天皇の近親者が相次いで亡くなる、天変地異や悪疫蔓延が起きるといった異変が起き、早良親王の祟りとされ、「怨霊」になったと見なされることもあったようだ。

そんな怨霊と一緒に記念撮影ができるとあって、「AR長岡宮」に興味を持つユーザーが次々と現れている。

リリース当時の投稿だが、実際に怨霊を撮った画像を見ると、なかなかの怨霊ぶりで、おわかりいただけるだろうか状態だ。

ユニークな試みではあるが、なぜわざわざ怨霊を登場させることにしたのか。「AR長岡宮」を管理する向日市文化財調査事務所にJタウンネットが確認したところ、次のような理由を話してくれた。

「長岡京はいくつかの遺跡はあるものの、建築物は残っていません。復元をするにも費用の問題から難しく、広く普及しているスマートフォンやタブレット端末を利用して、AR・VRで長岡京の建物を見ていただこうと考えました。しかし、建物を見られるというだけでは面白くありませんし、何か楽しめる仕組みをと考え『怨霊』を登場させました。より楽しめるようにスマホの時計と連動し、怨霊は16時から翌6時までしか登場しません」

ただし、早良親王が怨霊になったとするのは失礼な話であると考え、アプリ上はあくまで単なる「怨霊」であり、「早良親王の怨霊」といった形で登場するわけではないという。怨霊が出現するアプリで遊ぶと祟られてしまうのではと危惧してしまうが、担当者は「今のところ祟られたという話はない」と苦笑する。

「早良親王を怨霊視するようになったのは比較的最近です。そもそも、怨霊によるとされた出来事は、平安京でのほうがはるかに多いものですよ」

怨霊だけでなく、平安時代に編纂された歴史書『続日本紀(しょくにほんぎ)』を参考に、長岡京で起きた出来事が記録上の同じ月日、同じ場所で起きる仕掛けもあり、桓武天皇や坂上田村麻呂など54キャラクターが登場する。

2017年12月には『怨霊退治モード』という機能を追加し、長岡京のことを学びながら、遺跡や桓武天皇を「怨霊」から守るというゲームも楽しめるようになった。


怨霊、結構デカくない!?

「1度利用していただいただけで飽きられては残念ですので、繰り返し長岡京を訪れたくなるような機能を盛り込みました。将来的には関連する史跡や遺跡間の連携、例えば坂上田村麻呂が多賀城を訪れた日には、現地に坂上田村麻呂が出現するといったこともできればと考えています」

ちなみにアプリ自体は長岡京にいなくてもさまざまなコンテンツを楽しむことができる。奈良時代ファンにはおすすめだ。