写真=iStock.com/fototrav

写真拡大

「パンダで有名な中国・成都には美人が多い」。3カ月に一度、アジアの都市を巡り、20、30代の女性を取材している女性生活アナリストの山本貴代氏はそう話す。背景には5つの理由があるという――。

■中国・成都の美人率は「文革」と関係があった

「中国・成都には、美人が多い」

今から13年前(2005年3月)、中国4都市(北京・上海・広州・成都)で、街ゆく女性のハンドバッグ調査をしたことがある。持ち歩くバッグの中身を全て見せてもらい、写真に収め、そこから生活状況とトレンドを把握するというものだった。

調査した女性は各都市15人ずつ計60人、20歳〜30代前半の未婚もしくは既婚・子なし。一気に4都市を回ったので、各都市の違いが手に取るようにわかった。

当時、地域によってずいぶんと生活ぶりが異なることに驚いたが、最も強く心に刻まれた記憶は、冒頭に書いたことだった。成都は美人が多いのだ。都市別の印象をひとことで言えば、北京の「地味でまじめ」、上海の「薄化粧であか抜けている」に対して、成都は「口紅が派手、写真を撮るときのポーズが上手い、ブランド物を持っている」といったものだった。美人率の高さは誰が見ても明らかだった。

▼どうして中国・成都の女性は赤い口紅をするのか

なぜ、成都には美人が多いのか。

その時、さまざまなリサーチを踏まえて出した結論は、「文化大革命(1966−76)の時、規制が緩かったから」だった。成都は中国の内陸部に位置するから、国・政府の規制がそこまで届かなかったのだろうか。締め付けが緩かったのか。生活に厳しい縛りがなかったので女性たちは自由にオシャレをして、文革直後も真っ赤な口紅もつけていたという。

そうした歴史的文化的な背景もあり、現地の女性たちは今もあでやかなのだと聞いた。

成都は四川省の省都で、2300年の歴史を持つ古都である。

2011年には、日本からの全日空の直行便も就航し、成都はかつてより身近な存在になった。ご存じのように、パンダ繁殖研究基地があり、抽選などしなくてもパンダの赤ちゃんは見放題だ。四川料理もおいしい。「楽山大仏」など多くの世界遺産もある。しかし、周囲に聞くと「まだ行ったことがない」「成都ってどこ?」という人は少なくない。

■パンダより魅力的?「成都に美人が多い5つの理由」

というわけで、本当に今も美人の宝庫かどうかを探るべく、成田から直行便で6時間半、成都へ飛んだ。

女は女に厳しい。女のファッション、メイク、バッグ、靴、アクセサリー、人柄……に対しては基本的に辛口である。私もそうだ。だが、これはもう認めざるをえない。

成都ですれ違う女性はかなりの確率でおしゃれで、美人だ。13年前よりも美人人口が増えた気がする。ファッションも洗練されていて、さっそうと歩く後ろ姿も決まっている。同性なのにへんな話だが、美人がたくさん歩く道をともに歩くというのがとても楽しく感じる。

つてをたどり、成都在住の4人の未婚女子にインタビューすることができた。3カ月に一度、アジアの都市を巡り女子たちにインタビューを重ねている筆者だが、今回の成都女子のレベルの高さには心底驚かされた。取材を重ねて、分かった「成都に美人が多い5つの理由」は次の通りだ。

▼肌が色白できめが細かい理由

●成都に美人が多い理由1
独特の気候・湿度が「色白美肌」をつくる

成都は暑すぎる、寒すぎるということがない過ごしやすい気候の都市だ。また、1年のうち200日は曇り空で日照時間が少ない。東京の年間日照時間は2050時間だが、成都はその約半分の1073時間だ。青空が少ないのはあまり歓迎できない気がするが、シミ・しわの大敵である、紫外線に肌をさらす時間が短いということになる。

曇っていて、湿度が比較的高いため、女性の肌はしっとりしやすい。ただ、曇りがちだとはいって降水量が多いわけではない(2017年の東京の年間降水量1430mmに対して、成都は870mmだ)。よって、快適な暮らしができるのだ。

赤い口紅が印象的な張さん(28歳)は「肌がカサつくことはないし、色も白い人が多い」と話してくれた。確かに、会った女子たちはみな肌のキメが細かかった。

■成都の女性は「口にするもの」が違う

●成都に美人が多い理由2
良質な水が体を内と外からキレイにする

中国8大銘酒のうちの『五粮液』『剣南春』『濾州老窖特曲酒』『郎酒』の4銘柄は四川省で生産されている。これらは、高粱(コウリャン。中国東北部などで多く栽培されるモロコシの一種)やキビ、麦など原料となる雑穀の産地で、おいしい水を得られる土地柄だからこそ商品化できる。

水は、言うまでもなく「美」の源だ。飲んだり、シャワーを浴びたりするから、体の内外に影響を与える。筆者は異国に滞在すると、シャワーの水で髪がばさばさになったり肌が荒れたりすることがあるが、成都では、安宿に泊まっても水で肌が荒れることはなかった。

▼美女たちはなぜ「ひとり火鍋」をするのか

●成都に美人が多い理由3
日常食・火鍋のカプサイシンの美容パワー

四川料理は、日本人におなじみの麻婆豆腐、麻婆豆腐、担担麺、回鍋肉、青椒肉絲、酸辣湯などを含め、中国の他の地方の料理に比べて香辛料を多く使う。この食文化は湿度が高く、夏と冬の寒暖差の大きい気候が関係しているようだ。

香辛料の中でも唐辛子に含まれるカプサイシンによる発汗作用が健康に効くと言われる。また、カプサイシンがコレステロールなどの体脂肪の分解を促し、肥満防止、ダイエット効果があるとも言われる。取材した4人の成都女子も、そうした健康・美容情報に敏感だった。

全員が「辛いものは大好き」だと言い、今日本でもブームの火鍋(中国がルーツの辛味の強い鍋料理)は「だいたい週に2〜3回は食べる」という。火鍋のデリバリーもあれば、街中には、回転ずしのように目の前を通り過ぎていく具材をとって食すシステムの「ひとり火鍋屋」もあった(内装がスタイリッシュで味もおいしく、日本に上陸したら、大人気になるだろうなぁと思わず日本への出店を考える筆者であった)。

■ワーキングウーマンはみな広いマンションを購入していた

●成都に美人が多い理由4
ひとりで約100平方メートル超マンションの悠々自適

今回、成都女子たちに話を聞いて一番驚いたのが、みな独身なのに、広い部屋に住んでいるということだ。就職したら、ローンを組んで床面積約100平方メートルくらいの分譲マンションを買うのが当たり前だという。

成都での大卒OLの月給は、3000元〜5000元くらい(約5.1万円〜約8.6万円)だが、毎月2000元をローン返済に回している女性も少なくないそうだ。

最近は地価や物件価格も高騰しているようだが、上海などに比べたら格段に安い。しかも、ひとりっこなので、たいてい親が頭金を払ってくれる。「マンションは買ってもらった」と全額を親に甘えてしまうケースも少なくないそうだ。前出・張さんもマンション(広さは130平方メートル、10年前に購入)の資金を親が全額負担(80万元、約1200万円)してくれたそうだ。ちなみに、今、同程度の物件を購入しようとすると3倍以上の260万元(約4470万円)ぐらいはかかるそうだ。

男性も働き始めるとマンションを買うことが多く、結婚すると自分所有の物件を人に貸して家賃収入を得て、新しいマンションをふたりで投資的に買うのだという。投資はマンションのほかに株やファンドもやっていることが多い。

▼「手元にあるお金は遠慮なくおしゃれに使っています」

……というように総じて衣食住にあくせくしなくてすみ、ひとりっこゆえ親の支援を独り占めできる、ゆとりある生活が若い女性たちを不美人にするはずがない。

取材した4人は異口同音に語る。

「生活に不満はありませんし、ストレスも感じません」
「お金はあればあるだけ、遠慮なくおしゃれのために使っています」
「貯金はあまりしないです。将来に対する不安も特にありませんから」
「今後も生活のレベルは落としたくない」

まさに消費生活を存分に楽しみ、人生を謳歌しているといった感じだ。取材したひとりの口紅は資生堂の最高級ブランド「クレ・ド・ポー ボーテ」で、口紅1本700元(約1.2万円)だ。

ただ、130平方メートルのマンションにひとりで住む張さんに「ホームパーティーなどをするのか」と聞くと、「しませんよ」とのこと。家族は集うけれど、友達は来ないようだった。ひとりぼっちでさびしいのではないかと思うのだが、「猫と一緒に暮らしている」とのことでそんな雰囲気はない。ワーキングウーマンとしてしっかり自立している印象を受ける。食事も、外食費が安いので外で食べることが多いという。ちなみに、中国のマンションのキッチンは、部屋の大きさに反比例して小さい。

■中国共産党の規制が少ないから女性は派手なメイクをする

成都は、上海ほどの規模の大きさはない。しかし、経済はほどよく上向きに安定し、人々はリラックスして暮らしているように見える。多くの女性は穏やかな表情をしている。「上海の人たちは、出世したい人が多い。競争社会でストレスがあって大変だと思う」(楊さん)。そんな大都市すぎない環境であることも、美人量産の背景にあるのかもしれない。

「成都は他の都市と比べてメイクはやや派手。そして、おしゃれだと思う」(楊さん)

「女性たちは結婚してもメイクしておしゃれすることを忘れません。私の50代後半の母は今もあでやかな口紅をつけ、化粧もしっかりしています」(同上)

「友だちと会うときは、負けないようにお化粧します。写真も撮るし、みんなきれいにしている」(張さん)

中国全体では女性より男性のほうが多いが、成都のある四川省は女性のほうが多い。それだからか、四川省は女性の相対的な地位が高くて強い。

なお、取材した女性たちは日本での留学・就職経験もあり、「成都は、日本の福岡・博多に似ている」と言っていた。いわく、成都も博多も、気候がよく食べ物がおいしく、おしゃれな人や美人が多い、と。また、街の形態もともにぎゅっとコンパクトに集まっていて、生活レベルも高い、とも。

▼赤い口紅をすることに何の躊躇もない

●成都に美人が多い理由5
文革のとき、厳しい規制を受けなかった

北京や上海など大都市に比べ、中国共産党の統制が、成都ではやや緩い(ような気がする)。15年前の分析結果は、現在もそのまま当てはまめることができるのではないか。そうした締め付けのないのんびりした環境だからこそ、女性たちは派手な赤い口紅をすることに何の躊躇もない。つまり、「街」が美人を作っているのかもしれない。

そして今回、「歴史ある都市に住んでいる」という誇りのようなものも、成都の女性の凛としたいでたちに関係しているように感じた。劉さんは言った。

「何百年の国(アメリカ)と、何千年の都市(成都)では話があわないんですよ」

成都の美人は、一日にしてならず。ということなのだろうか。

(女の欲望ラボ代表、女性生活アナリスト 山本 貴代 写真=山本貴代、iStock.com)