最期は親友と愛犬とともに─『しあわせな人生の選択』はダンディーな終活ストーリー
親父好きにはたまりません。アルゼンチンの名優リカルド・ダリン様(60歳!)の主演映画が、久々に日本上陸です。ダリン様といえば、主演映画『瞳の奥の秘密』(2009年)が米アカデミー賞外国語映画賞を受賞し、知る人ぞ知る存在。これ、ジュリア・ロバーツ主演『シークレット・アイズ』でリメイクされた名作なのだ。で、同作でリカルド様が演じたのは、未解決事件を追及する元判事。上司とのロマンスも描かれ、ダンディーな立ち居振る舞いが魅力的だった。
スペイン、アルゼンチン合作『しあわせな人生の選択』でも、ダリン様の落ち着いた大人の魅力は健在。ただし今回はがんに侵されて余命いくばくもないという設定でして……。リカルド様の笑顔が何とも切ない。
役の設定を聞いてピンと来る方もいるかと思いますが、テーマは終活です。リカルド様演じるフリアンは体調が悪いにもかかわらず治療をやめて、身辺整理をはじめています。そんなフリアンを説得してほしいと、いとこのパウラはカナダに住む彼の友人トマスに連絡。するとトマスは4日間の休暇を取り、マドリードに住むフリアンのもとへ駆けつけてきます。
でも、すでに意思が固まっているフリアンを説得するのは無理。それがフリアンの愛犬(これが名優!)の里親探しや、オランダに留学している息子を訪ねる旅に同行したりと終活に協力するうちに、フリアンの心情を理解するんですな。そして音信不通だった2人が、離れていた時間を埋めるように絆を深めていく。このおっさん同士の……もとい(笑)、男の友情がなんとも微笑ましくて、思わずニヤニヤしちゃう。
でも別れの時間は迫ります。確かにツライ。でもこの映画はみんながみんな、相手を思いやる優しさに満ちていて、こちらまで幸せな気持ちになってくる。殺伐とした世の中だからこそ、一層、心にしみ入るんだなぁ。
*2017年7月1日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国順次公開。
文/中山治美
1969年、茨城出身。映画ジャーナリスト。私の映画好きを育んでくれた伯父の映画看板絵師・大下武夫の個展『スクリーンの仲間たち』が7月16日まで、水戸の常陽史料館で開催中。