仙台育英vs東北
東北vs仙台育英。宮城を代表する強豪校同士の一戦が東北大会準決勝で実現。石巻市民球場の内野席は満員。外野席も埋まっている状況であった。石巻は仙台から車で1時間ほどの距離にあり、さらに球場自体も最寄駅の石巻駅からかなり離れた場所にあり、アクセスは良いとはいえない場所だが、それでもこれほどの客が集まるのだから、相当関心が高いことがうかがえる。
両校はこの春、地区予選でも対戦しており、このときは12対6で仙台育英が制しているが、この試合は東北が優勢に試合を進めた展開となった。
まず1回表、東北は一死から2番杉澤 龍(2年)が右前安打で出塁。さらに3番野田陸翔(3年)が左前安打。杉澤は三塁に陥れると、野田も二塁へ進塁。そして4番布施 東壱(3年)の適時打で二者生還。2点を先制する。3回表にも杉澤が四球で出塁して、さらに二盗を成功。二死三塁から相手の敵失で1点を追加して、3対0。序盤の3点は杉澤が起点となり、東北が試合の主導権を握る。
3回裏、仙台育英は5番杉山拓海(3年)の適時打で1点を返したが、4回表、植木 利久(3年)が高めに入った直球を捉えて高校通算18号本塁打を放つ。
植木は、春季県大会決勝で左ひじに死球が当たってしまい、しばらく試合出場できなかったが、徐々に復調。元から長打力は素晴らしいものを持っていた逸材だったが、芯でコンタクトする確率を高めることを課題にしていた植木は、左ひじの使い方を見直した。インパクトの時にしっかりと力が入るように左ひじを若干引く動作を入れた。まさに植木にしかない感覚で打っているが、この感覚を身に付けたのは今春から。この動作を取り入れたことで、飛距離も伸びたという。東北はけが人もいる状況で、正捕手の布施も右ひじの状態が良くない。今までは一塁手がメインだったが、三塁・ライトもこなすようになった。そこを難なく守れることには自信を見せているようだ。
サヨナラ本塁打を打った杉山拓海(仙台育英)だがこれで火が付いたのが仙台育英の先発・佐川 光明である。
立ち上がりから不安定な投球が続いていた佐川はベンチに戻ると、仙台育英の佐々木監督からこう言われた。「もう恥は十分かいただろ?あとは夏につながるもの、収穫になるものを残していかないとダメだぞといわれ、このままでは終われないので、燃えました」これで吹っ切れた佐川は、気合満点のピッチング。球速は130キロ中盤だが、手元での勢いが違う。植木に本塁打を打たれた後、佐川は無失点に抑える投球。それまで被安打6、四球2、三振0だったが、本塁打を打たれてからの6イニングは、7奪三振、無四球という圧倒的なピッチングを見せた。「もう気持ちだけで投げていました」と佐川が話すように投手は気持ちが大事だというのが分かる。
そして仙台育英打線も東北の先発・葛岡仁(2年)を捉えはじめ、6回裏、佐藤 令央(3年)の適時打、1番西巻 賢二(3年)の適時打で5対3と2点差に迫る。しかしここから葛岡も粘り強い投球を見せて、9回裏、一死まで仙台育英を追い詰めた。だがここから仙台育英は粘りを見せる。2番若山 壮樹の安打で出塁。3番山田利輝(3年)の右中間を破る二塁打で一死二、三塁。ここで4番佐川が二塁ゴロ。内野ゴロでまず1点差と思われたが、佐川が全力疾走で、内野安打に。一死一、三塁となった。この内野安打に大盛り上がりの仙台育英ベンチ。そしてここまで2安打を打っている杉山が高めのストレートを振り抜き、レフトスタンドへ消える逆転サヨナラ3ランで、ライバル対決に終止符を打った。
仙台育英は「後半の粘り強さ」をテーマにこの春は戦っていた。この勝利に、西巻主将も「自信になったと思います」と胸を張る。佐川は「全力疾走もそうですけど、諦めずに全力プレーすれば、神様が微笑んでくれるんだなと思いました」と激闘の試合を振り返った。
敗れた東北ナインは、「詰めが甘かった」と淡々と試合を振り返った。夏へ向けて、東北ナインは後半の戦い方が課題となった。劇的な幕切れで終わった今回の直接対決。夏も再戦が実現すれば、激しい攻防が実現できそうだ。
(文・写真=河嶋 宗一)
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