課題多すぎ!? 個人型DCやってみた人たちの「イデコあるある」
2017年1月から個人型確定拠出年金、通称「iDeCo(イデコ)」の適用範囲が拡大されて、はや5カ月が経過しました。
筆者もこれまで、ファイナンシャルプランナー(FP)として、多くの方にイデコの説明をしてきましたが、掛け金が全額所得控除できる「節税効果」に魅力を感じて、イデコを始める方が多いようです。
しかし、実際に制度がスタートするとさまざまな課題が出てきたことも事実。以下では、イデコをやってみて気づいた、「イデコあるある」をご紹介していきます。
中小企業では後回しにされることも…
1.口座開設が意外と大変
イデコの口座開設は意外と面倒。口座開設のための提出書類には、大きく以下の2つがあります。
・自分で記入/捺印するもの
・勤務先で社判をもらうもの
自分で作成する書類には、基礎年金番号などを記載する必要があり、「家の中をひっくり返して年金手帳を探した」といった話もよく耳にしますが、これは面倒でもやるしかありません。本当に大変なのは、勤務先で社判をもらう書類です。
大手企業であれば、イデコの範囲拡大に際して、人事部や総務部などの担当部署が対応を進めてきたため手続きはスムーズです。しかし、中小企業では、担当者や経営者の制度理解がまだまだ不十分のようで、社判の押印に難色を示されたり、後回しにされたりするケースが見られます。
また、従業員がイデコを始めるには、企業側でも国民年金基金連合会へ「事業者登録」を行う必要があります。ある程度の規模の会社であれば登録済みですが、中小零細企業は初めて登録するところも多く、「登録すると社保や税金面でデメリットがあるのでは」などと的外れなことを言われる場合もあり、一社員が交渉するのは大変なようです。
やっとの思いで書類を提出しても、口座開設までには、最大3カ月程度の時間がかかります。これは、口座開設を行う金融機関が国民年金基金連合会への登録・照会などを行うため。前述のように、勤務先が初めて事業者登録を行う場合、口座開設にはさらに時間がかかります。
民間では考えられない悠長な処理ですが、仕方ないのかもしれません。
既に「マッチング拠出」している場合
2.実は勤務先でマッチング拠出していた
イデコの範囲が拡大されることで、「会社員が対象になる」という情報が世間にあふれましたが、実際には、下記2つの場合は対象外です。
・既にマッチング拠出している
・会社の規約でイデコを認めていない
マッチング拠出とは、勤務先の企業が拠出している掛け金に、従業員が自身の給与の中から「上乗せ」をする制度です。イデコは勤務先の年金制度にプラスして、個人でも毎月2万3000円か1万2000円(勤務先の年金制度によって上限が変わる)を積み立てられますが、マッチング拠出が可能な企業の場合、既にこの枠を使っている可能性があります。
いざ口座を開設しようとして、勤務先の担当者と話をすると、実は既にマッチング拠出をしており、自分でも忘れていた、といったケースもあります。また、枠を使い切っていなくても、マッチング拠出が可能な企業の場合、「規約」でイデコへの加入を不可としている企業も多いのです。
しかし、これらの規約は従業員に不利であるため、今後は改正されていくでしょう。
「体制整備」や「投資教育」が課題?
3.運用先に悩んで結局、定期預金…
口座を開設し、運用のための商品を選ぶのですが、この時に「何がよいのか」という相談を受けます。しかし、これは非常に困る質問で、イデコの場合、多くの商品に元本保証がなく、商品によっては資産が減ってしまう可能性もあります。
そのため、無責任に「これがよい」とは言いにくいのですが、個人的なスタンスとして、以下の3つのことをアドバイスしています。
・投資信託は手数料の高い「アクティブ型」よりも、手数料の安い「インデクッス型」がオススメ
・国内投資か、海外投資かは自分で選ぶしかない
・よく分からなければ、まずは定期預金にする
しかし、実際のところは定期預金にしている方がほとんどです。口座を開設すると、ひとまずは掛け金が定期預金に貯まるため、何となくそのままという方も多いのでしょう。定期預金に投資効果はほぼありませんが、「掛け金の所得控除」による節税効果はあります。また、世界的に株高である現在、投信に投資しても「高値掴み」になる懸念もあり、「今のうちは定期預金」というのも、あながち間違いではないのです。
国の思惑としては、イデコを通じて、個人が株や債券に投資してくれることを期待しているのだと思いますが、現状、積極的な投資を行っている方は少ない印象で、投資へのより一層の啓蒙が必要です。
国の年金制度がアテにならない以上、自分自身の資産を賢く築くしかありません。“アンテナ”の高い人は既に始めているイデコですが、裾野を広げるために、手続きの簡素化や迅速化、企業側の体制整備、個人への投資教育、などの課題をクリアしていく必要があると感じています。
(株式会社あおばコンサルティング代表取締役 加藤圭祐)