月面探査レース、日本チーム「HAKUTO」の「その先」 進む民間企業の宇宙開発
民間チームによる世界初の月面探査レースが進行中です。日本から参加している唯一のチーム「HAKUTO」は、優勝を目指すと同時にその先の、民間宇宙開発への架け橋です。
世界初、民間企業による月面探査レース
もはや宇宙は、国家が威信と技術力を見せつけるだけの場所ではありません。さまざまな民間企業が宇宙開発に乗り出しており、その技術革新には目をみはるものがあります。そしていま、民間企業による月面探査レースという興味深いコンテストが開催されています。
実際に月へと打ち上げられる、チーム「HAKUTO」の「フライトモデル」(画像:HAKUTO)。
グーグル社(アメリカ)がスポンサーとなり、Xプライズ財団が運営するコンテスト「Google Lunar X Prize」は、世界初の民間による月面探査を競うレースです。参加各チームは探査車(ローバー)を月面に送り込み、500メートル以上走行させたのちに地上へ画像や動画を送信するというミッションの達成を目指します。賞金総額は3000万ドルで、優勝チームには2000万ドルが与えられる壮大なコンテストです。
そしてこの「Google Lunar X Prize」に日本チームとして唯一参加しているのが、ispace社(東京都港区)の運営する「HAKUTO」。出自もさまざまなメンバーが一堂に会し、いままさに探査車「SORATO(ソラト)」の開発を進めています。この「SORATO」という名称は「宙の兎(そらのうさぎ)」から連想されたもので、一般公募から決定されました。
なお「Google Lunar X Prize」には、2017年末までに探査車を打ち上げるというタイムリミットがあります。2007(平成19)年にスタートした同プロジェクトには当初、世界各国から32チームが登録しましたが、2017年現在ではHAKUTOを含む5チームがファイナリストとしてコンテストに参加しています。なお、HAKUTO以外のチームはイスラエルの「SpaceIL」、アメリカの「Moon Express」、国際チームの「Synergy Moon」、インドの「Team Indus」です。
ロケットはライバルと相乗り?
HAKUTOはオフィシャルパートナーとしてKDDIを、そしてコーポレート・パートナーとしてIHI(石川島播磨重工業)、Zoff、JAL(日本航空)、リクルートテクノロジーズ、スズキ、セメダイン社を迎え、さまざまな技術提供を受けています。さらに2017年2月には、クラウドファンディングキャンペーンを開始、プロジェクトは順調に進んでいるように見えます。
これまでのHAKUTOの探査車開発も順調でした。2011(平成23)年には「プロトタイプモデル1」が完成し、2012年、2013年とプロトタイプをバージョンアップ。2014年にはSORATOの現行デザインにもつながる、「プリフライトモデル1」が完成します。そして2015年までこのプリフライトモデルの完成度を高め、2016年8月には実際に打ち上げる「フライトモデル」のデザインが完成したのです。
プリフライトモデルでHAKUTOのデザインの大枠が定まった(画像:HAKUTO)。
しかし2016年、打ち上げに利用されるロケットの変更が急遽発表されます。当初HAKUTOはアストロボティック・テクノロジー社(アメリカ)が運営するチームのロケットに相乗りする予定でしたが、同チームは独自の宇宙開発を目指すとしてコンテストからのリタイヤを表明。HAKUTOのチームは別の打ち上げ方法を探さなければならなかったのです。
そこで白羽の矢が立ったのが、インドの「Team Indus」。同チームはインド宇宙研究機関(ISRO)のPSLVロケットで着陸機(ランダー)と探査車を月面に送り込むのですが、HAKUTOは滑り込むような形でTeam IndusとPSLVロケットへの相乗り契約にこぎつけることができたのです。
HAKUTOの「その先」を見据えて
こうして、打ち上げ手段を確保したHAKUTO。チームの探査車が搭載されるPSLVロケットは、2017年12月28日にインドからの打ち上げが予定されています。しかし、HAKUTOが目指しているのは、「Google Lunar X Prize」による賞金獲得だけではありません。
月面での資源探査を目指すispace(画像:ispace)。
昨年12月、HAKUTOを運営するispace社はJAXA(宇宙航空研究開発機構)と共同で「月面での資源開発に関する覚書」を締結したと発表しました。これは月資源のマッピングから発掘、貯蔵、配送、販売、使用に関するプランをまとめたもの。たとえば月で十分な「水」が確保できれば、飲料用としてだけでなく電気分解して燃料として使うことも可能です。そして月で燃料が確保できれば、火星などさらなる宇宙探査の前線基地として月が利用できる可能性もあります。
さらにispace社は今年3月、ルクセンブルク政府と協力して質量分析計を探査車に搭載することを発表しています。この質量分析計で月面を移動しながら観測し、氷の分布や土壌の物質構成などを調査する予定です。
このように、月面レースを超えさらなる飛躍を目指すispace社、HAKUTOはその飛躍のための架け橋といえるでしょう。日本発の民間企業による宇宙開発のモデルケースとして、今後も大いに注目されそうです。
【写真】HAKUTOが相乗りするPSLVロケット
HAKUTOの打ち上げは2017年12月28日を予定(画像:HAKUTO)。