「怒鳴る」に待った、「伸び伸び」にも注意 元メジャーリーガー岩村明憲氏が語る指導論
![ルートインBCリーグ・福島ホープスで選手兼任監督を務める岩村明憲氏【写真:岩本健吾】](https://image.news.livedoor.com/newsimage/2/8/28314_1588_ac38405c_beab97d6-m.jpg)
子供の指導には「あまり感情を入れない方がいい」
2015年からルートインBCリーグ・福島ホープスで選手兼任監督を務める岩村明憲氏。昨年11月から球団代表の肩書きも増え、福島では3足のわらじを履いて、地元に愛され、かつ勝てるチーム作りに奮闘している。一方で、グラウンドを一旦離れれば2児の父。レイズに移籍した2007年に誕生した長男は9歳になり、野球をプレーするようになった。休日には、長男の所属チームの子供たちを試合会場まで引率することもあるという。
「俺は指導はしないよ。普段、子供たちを指導してくれる人がいるから、そこには入らない。ただ『こういう風にやったらいいかもね』という話を、指導者にさせてもらうことはある。『指導にはあまり感情を入れない方がいいよ』ってね。感情が入ると、やっぱり人って誰かを贔屓してしまう。贔屓してしまうと、いろいろなバランスが崩れるから、淡々とやった方がいい。人間だから感情が入るのは当たり前なんだけどね」
一昔前までは、少年野球の監督やコーチが子供たちに大声を張り上げて指導する姿が一般的だった。いわゆる、スポ根。根性論が全盛期の話だ。だが、最近では、ティーチング(teaching:技術や知識を教えること)とコーチング(coaching:やる気や可能性を引き出すこと)の使い分けが重視され、子供たちに対する指導方法にも変化が見られる。昔ながらに押しつける指導はやめて、子供たちに伸び伸びと野球をプレーさせようというスタイルが増えているが、岩村氏はこの「伸び伸び」のあり方にも注意が必要だと話す。
チャンスで強いか、ピンチで強いか――我慢する力の大切さ
「『伸び伸び』といって、好き勝手にやらせるのは違うと思う。やっぱり基礎は必要だよね。中学高校と進む中で、『お前、そんなことも聞いてないの?』ってなるから。ダメな指導者は『伸び伸び』という言葉に囚われ過ぎて、肝心なことを伝えられていない。それだと、子供が上に行ってから苦労するから、そこは小学生からしっかり教えてほしいね。
それと同時に、ピンチを迎えた時に我慢する強さも身につけてほしい。プレッシャーに押し潰されそうになった時、自分で耐え抜く精神力があるかどうか。チャンスで強いか、ピンチで強いか。チャンスの時なんて、誰だって何とかなるもの。だけど、徳俵に足が掛かったピンチの状態で堪えられるか。そこから簡単には相手を押し返せない。でも、最後でうっちゃりに持っていけるか。あるいは、いなせるか。ヤバイと思った時に逃げ出さないで我慢する力って、野球だけじゃなくて生活の中でも一番大事だよね。
ただ、小学生の野球指導で全国的に問題になっているのは、いまだに自分のエゴで怒鳴り散らす指導者が多いこと。エゴで怒鳴っても子供たちの精神力は鍛えられない。高校生が相手じゃないんだから。小学生にはできないこともある。そこを怒鳴り散らさずに付き合うのが指導者だと思う」
選手という立場に加え、監督、指導者、球団代表、父親など、様々な角度から野球と向き合う中で、子供の頃に身につけた「野球の基礎」の大切さを改めて感じることがあるという。
恩師・中西太氏の教え「先輩になった時、若い奴を教えていけ」
「子供の頃の練習は、今、教える立場になっても、全部生きているって言える。自分がこういうことを教えてもらったな、ああいうことを言ってもらったなって、教える立場になったからこそ分かることもあるよ」
監督になった今でこそ、教えることは役割の一部だが、選手に専念していた頃も、たびたび後輩に技術指導することがあったという。それは、ヤクルト時代に特別コーチとして指導を受けた恩師、中西太氏の一言がきっかけだった。
「中西さんに言われたんだよ。『お前が先輩になった時、若い奴を教えていけ。そうしたら、その言葉が自分に跳ね返ってくるから』って。自分のバッティングを感覚だけじゃなくて、言葉で説明しようとする時に、自分でも『こうだったな』って復習することができるから、自分のためにもなる。だから、後輩たちをいっぱい教えてみろって。
心の狭い奴は、自分の技術を後輩に教えて、もしその後輩が活躍したら、自分が試合に出られなくなっちゃうわけだから、教えないし、潰そうとするよね。だけど、後輩を教えることで、自分でも理解が深められれば、自分の成長にもつながる。だから、俺は昔からそうやってる。でも、最初から言葉で説明するんじゃなくて、まずは自分の目で俺のバッティングを盗んでくれって思うね。とにかく自分で見て盗んで、見よう見まねでやってみて、それで分からないことがあったら聞けばいい。そこに向上心がなければ伸びない。最初から教えてもらうのは、3日坊主で終わっちゃうから」
左打ちの理由は「掛布さん」、真似から始まった打撃スタイル
「学ぶ」という言葉は「まねぶ」とも読み、「真似る」と同じ語源を持つ。見て盗んで真似ることは、つまり学ぶということ。野球教室などで子供たちに指導する時、まずは誰かを真似て見るように勧めるそうだ。
「どんな打ち方でも構わないよ。例えば、山田哲人、柳田、筒香、坂本。今の人気選手の打撃を見よう見まねでやればいい。その代わり、しっかり見ておかなければならないところもある。みんなに共通しているのは、軸がぶれないこと。軸さえしっかりしていれば、どういう形でバットを振ってもいい。
俺は小学生の頃、掛布(雅之)さんの真似をしてたんだよ。だから、左打ちなの。それまで右打ちだったんだけど(笑)。掛布さんに憧れて、テレビで試合を見ながら真似をした。ああでもない、こうでもないって、自分でいろいろ工夫しながら、スムーズになるところまで、どんどんバットを振った。親からは『最短距離でバットを出せ』って言われてたんだけど、『いや、掛布さんはこうだよな』とか思いながら、自分でやったのを覚えてる」
真似ることから始まった打撃で、ヤクルト時代の2004年には44本塁打を記録。ついには、海を越え、メジャーの舞台で戦った。NPBとメジャーで戦った17年で積んだ経験は、岩村氏にとって貴重な財産だ。この財産は、我が物と独り占めにするのではなく、広く日本野球界に還元していくつもりだ。日本球界をより発展させるためにも、まずは福島から。2017年も3足のわらじを履いて、力強く前進する。