人気小説は「ライブ感」から生まれる 投稿サイト出身作家に聞く

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小説投稿サイトで注目を集めた小説が書籍化。そんな事例が当たり前となった今、ライトノベル作家たちを取り巻く環境も大きく変わりつつある。

「小説家になろう」への投稿をきっかけに『火刑戦旗を掲げよ!』でMFブックスからデビューしたライトノベル作家・かすがまるさん。そんな彼へのインタビューの中で、小説投稿サイトの存在の大きさや、執筆時に生まれる読者との「ライブ感」など、今までになかった新しい潮流を垣間見ることができた。

第2回はインターネット発小説ならではの、変わりつつある作者、編集者、そして読者の関係についてお話をうかがった。

(取材・文/金井元貴)

■乱立する「ライトノベル作家デビュー指南サイト」



――かすがまるさんは現在専門学校で講師としてライトノベルの書き方を教えていますよね。インターネット上ではライトノベルの書き方を指南するサイトや、プロデビューをするための方法が書かれたページが結構ありますが。

かすがまる:そうなんですよね。おそらくそれだけ需要があるということなのだと思いますけど…。ライトノベルは他の小説と比較しても敷居が低いというか、本来であれば扱っているテーマの重い軽いで(小説のジャンルを)決めてはいけないところがあるのでしょうけど、比較的入りやすいのだと思います。

また、ライトノベル発でアニメ化、コミカライズした人気作品を楽しむところから入っていって、自分もライトノベルを書いてみようと考えている人も多いです。成功例を自分も辿ってみたいというか。イラストを描くって意外とハードルが高いものですが、文章ならば自分も書けるんじゃないかと思う人もいるようです。

でも、なぜあんなに「ライトノベルの書き方」サイトがあるんだろう。謎ですよ。

――サイトを見てみると、書き方からデビューの仕方までさまざまです。お金の話をしているページもありましたね。

かすがまる:ライトノベルは文章力も大切ですし、その一方でアイデア勝負なところもあります。いろいろなところにニーズがあって、今まで書いてきた人も自分の考え方を伝えたいという想いがあるのかもしれない。

――こういう「書き方」指南サイトってどのへんまで参考にすべきなんでしょうか。

かすがまる:正解はないけれども、参考にすべき例はたくさんあるという感じだと思います。作風もレーベルによってがらっと変わりますし、新人賞の傾向もその年によって異なります。これが正解でこうすれば売れるという方法は知らないし、出版社の編集者も(売れる形について)ぼやっとしたものはあるかもしれないけれど、明確なものを持っている人は少ないように思います。

■加筆修正? 書き直し? 編集者とのやりとり

――ライトノベル執筆の際には、編集者とどんな話をするんですか?

かすがまる:すでに投稿サイトなどにアップしているものと、全く新しい作品をこれから書いていくというものでは話の内容が全然違います。

前者の場合は投稿サイトにアップされているので無料で読めてしまうから、書籍化した際にどれだけ付加価値がつけられるかという話が中心になります。例えば巻末にサイドストーリーを付けてみよう、誰のエピソードを書きましょうか、というようなところですね。「こうすれば読者は嬉しいよね」という話をします。

――編集者からの加筆修正などの注文は多いんですか?

かすがまる:うーん…(苦笑)。これは言ってもいいものか分からないところなのですが、そのレーベルによって度合いは違うという回答ですね。作品によっても異なるのでしょうけど、書き直しさせられるところもあれば、そうではないところもあるよ、と。

私の場合はどのように付加価値をつけるかという話をしていました。

――作家さんの中には「推敲」、特に文章を削るところに心血を注ぐ方もいます。

かすがまる:私個人の話でいえば、「削る」のはわりと過酷な作業でして(笑)。でも、結果面白くなるのは間違いないんです。プロとアマチュアの差というのはそういったところに出てくるのかなとも思いますね。



■変わりつつある作家と読者と編集者の関係

――ここまでお話をうかがってきた中で、作家と編集者のこれまでの力関係みたいなものが大きく変わろうとしているのではないかと思ったんですね。以前は「作家の育成込み」で編集者と二人三脚でやっていくというイメージがありましたが、デビューしやすくなったということが、力関係を崩す方へ向かうことも考えられます。

かすがまる:以前のことは私も分かりませんが、正直に言えば、作家の立場はそこまで強いものではありません。特に今は作家本人よりもコンテンツそのものが評価される時代になっているように思います。

――そうなると、コンテンツ重視の色が強まって、作家の育成は二の次になってしまうということになるのではないですか?

かすがまる:それは私の口からは言えないけれど、小説投稿サイトにアップされて人気が出ているものが書籍化していくという流れができつつあるように感じますね。作家の立ち位置は今後かなり厳しい状況になっていくのかな、と。

――プロとアマチュアの垣根みたいなものもかなり低くなりつつある気がしますね。

かすがまる:そういう意味では、純粋に物語を書くことを楽しむ姿勢を作家側が持っていないと、書き続けていられない状況になってきているのかもしれません。

――小説投稿サイトの力が強すぎてしまっているのではないかとも思います。そこで人気がある文体や設定に揃えるわけですから。

かすがまる:まず出版ではなく、その前に一度投稿サイトにアップし、読者からの反応を見て、もし人気が出なければ書籍化をしないと判断されることもあると聞いたことがありますね。

ただ私自身は投稿サイトを否定しているわけではまったくなく、投稿サイトが先行するという流れもありなのではないかと思います。

――今までの流れとは逆ですよね。インターネット上の小説がオリジナルになり、本はその上で付加価値を付けて売られる。

かすがまる:これはニコニコ動画からの流れもあると思うのですが、作り手と受け手の垣根がすごく低くなっていますよね。

日本はアニメやマンガ、ライトノベルといったサブカルチャーの土壌が豊かで、誰もが作ろうと思えばできる環境にあると思います。そういうところから生まれて大ヒットをしたり、有名になったりすると、「自分たちの仲間が売れた!」という意識が芽生えるんです。

「小説家になろう」でもその距離感の近さはあって、容赦なくコメントしてくるし(笑)いきなり肩組んでくるみたいな感覚ですよ。熱心なファンであればあるほど、一緒に物語を作っている感じがあるのではないですかね

■キーワードは「ライブ感」。投稿サイトで何が起きている?

――作家が中心にいて、読者たちと一緒に作り上げていく感覚って、普通の本ではまず持つことすら難しいですよね。

かすがまる:編集者よりも読者との距離が近いですからね。ライブ感が非常にあるというか。

――読者からは「次の展開はこうだろうな」と予想するものもあれば、「こうしてほしい!」という要望的なコメントもあるでしょう。その中でもちろんアドバイス的な意見も寄せられると思いますが、かすがまるさん自身はそういったコメントをどう受け止めるのですか?

かすがまる:「小説家になろう」で投稿しているものについては、感想欄はすごくよく見ます。楽しんでもらえているかどうかはチェックしますし、好意的なコメントが多くないとやはり書いていて楽しくありませんから(笑)。

ただ、先読みをされたときは、「こっちはもっと面白いことを考えているぞ」と思ったり。最初に中学生の頃に小説を書いて友達と見せ合ったという話をしましたが、本当にそんな感じですね。仲間内の盛り上がり感があります。

――作者と読者の距離が近ければ近いほど、そういったライブ感が生まれるわけですね。すごくクリエイティブな雰囲気ですよね。

かすがまる:先読みされたら、こちらは良い意味で予想を裏切りたいというモチベーションが生まれますからね。「この人物を少し押し出してみたらどう反応が来るだろう」とか、いろいろな実験もできますから。

――まさにライブ感満載の現場なんですね。

(第3回へ続く)

■かすがまるさんプロフィール

東京都出身。2014年1月よりネット上で連載開始した『火刑戦旗を掲げよ!!』にて、小説家になろう大賞2014、MFブックス部門の優秀賞を受賞する。本職は学習塾の講師で担当は数学と国語。

■新潟アニメーション

新潟市に拠点を置くアニメーション制作会社。「ニイガタからアニメーションの新たな可能性を世界へ発信する」というビジョンを掲げ、2014年2月創立。現在、地元テレビ局の番組内アニメ制作、アニメCM制作、ゲームOPアニメ制作、遊戯機器アニメ制作、TVシリーズのデジタルペイントなどを手がける。近年ではとくに新潟におけるアニメのデジタル制作の体制構築に注力している。

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