府立乙訓高等学校(京都)【後編】

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 前編では、市川監督がどのようにしてチームを改革したかに迫りました。後編ではこの夏の躍進に欠かせない上野 晃徳投手にインタビュー。さらに夏へ向けての意気込みを教えていただきました。

エースの上野投手へインタビュー!

上野 晃徳投手(府立乙訓高等学校)

――実戦復帰、おめでとうございます。

上野 ありがとうございます。ボールにばらつきはありましたけど、ボールの威力は手術前よりも増していたような感覚がありました。

――昨年夏の最速は141キロでしたが、さらに速くなっている感覚がある?

上野 もっと出ていそうな感覚はあります。投げられない間、走ることや体幹トレーニングなどを徹底的に行ったので、その成果もあるのかもしれません。

――現在の持ち球を教えてください。

上野 スライダー、カーブ、そして最近、習得したフォークボールです。

――昨年の夏には投げていなかったタテの落ちるボールを習得した。

上野 元プロ野球選手で現在、うちの高校の教員として指導してくださっている染田 賢作コーチ(元横浜)に教わりました。人差し指と中指の二本だと抜けそうな感覚があったので、「親指と薬指を横に添えて、4本指で握るイメージでやってみたら」と言われて。これが自分にはしっくりはまりました。先日の練習試合でも投げてみましたが、夏に使っていける手ごたえを感じました。

――高校最後の夏に向けての意気込みをお願いします。

上野 秋と春はまったくチームの力になれず、もどかしさと悔しさで一杯でした。低めへの意識を強く持ち、連打を喫しない投球を心がけ、夏の勝利に貢献したい。部員全員で設定した甲子園出場という本気の目標を達成する。今はそのことしか考えられません。

121名の思いを結集し、2016年夏へ

「甲子園に出場する力を持ったチームとの練習試合を積極的に組んできました」と市川 靖久監督。全国レベルの強豪との戦いを通し、「バッティングにおける精度と質の違いを強く認識させられた」という。

「甲子園に出るチームは高めの甘い球を一回で仕留めてしまうんです。失投をとらえる精度がうちとはまったく違う。それでいてボール球に手を出さない選球眼も備えている。甘い球を投げさせるように仕向け、その甘い球を一回で仕留める。大きな差を感じました」

 甘い球をとらえる精度を上げるべく、今年からは打撃練習のアプローチ法を変えた。「それまでは一人の選手が連続で100球打つようなやり方が当たり前でした。でも100球すべてのボールで集中するのは困難ですし、打ち損じても『まぁいいか』となりがちです。これは練習法としては質が低いと判断し、同じ100球を打つにしても、1セット10球を10セットといったように細かく分けるやり方にシフトしました」

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ゲームノックの様子(府立乙訓高等学校)

 打撃練習の1球目はバントをすることが半ば慣例化していたが、そのスタイルも一切廃止。本番を想定し、初球から打ち損じなく、「一回で仕留めていける」打撃をチーム全体で追い求め、並行する形で「外角ギリギリのコースへの対応力」の向上にも努めた。

「甘い球を仕留める力は大切なのですが、強豪になればなるほど、甘い球は減り、外角への厳しい球が増えてくる。うちだとその球にバットを当てることが精いっぱいになってしまうのですが、強豪校は野手の間を抜いていくようなヒットを生み出すことができる。厳しいコースに対して強くバットを振れる打線を作るべく、ボール気味の厳しい球をあえて打っていく練習メニューを増やしました」

 投手との勝負に臨む際の打席での考え方にも変革のメスは入った。「強豪になればなるほど、甘い球は少なくなるのに、うちのバッターたちは甘いところに狙い球の照準を絞り、来る確率の低い球を延々と待っている傾向が強かった。そうではなく、照準を外角ギリギリのところに設定し、しっかりと前足を踏み込んだ上で、真ん中からインコースの球に対応していこうと。その方がトータルでいい結果が生まれるはずだと」

 西屋 龍之介主将は「まだまだですが、チームの打撃の質は着実に上がっていると感じる」と証言した。「今思うと、以前のやり方はバッティングセンターで打っているような感じだった。練習のやり方を変えて1球に対する集中力は間違いなく上がりましたし、厳しい球に対する対応力も上がってきた。厳しい球を強く振ることができれば、たとえ凡打に終わっても相手にダメージを与えることができる。夏までにさらに精度を上げて行き、相手にプレッシャーを与えられる打線を作り上げたいと思っています」

 最後に「夏へ」というテーマで西屋主将に結んでもらった。

「1点にこだわった野球ができるかどうかが、夏の明暗を握ると思っています。チーム全体の走塁力も上がり、三盗の技術も身についてきた。市川監督の指導の下、1年前に比べると、走・攻・守のすべてにおいて、きめの細かい野球ができるようになったことは大きな自信になります。

 京都にはセンバツでベスト4まで勝ち進んだ龍谷大平安がいます。京都を制し、甲子園に出場するためにも、甲子園で勝ち抜けるチームを作ることを目標に置き、夏本番までの日々を過ごしたい。今は部員全員の気持ちが一つになり、同じ方向を向けていると感じています。腐ってるい選手なんか一人もいない。マネージャーを含めた部員121人の思いを結集し、全力で夏に臨みたいと思います」

 公立の雄・乙訓の熱き一丸野球に要注目だ。

(取材・文/服部 健太郎)

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