長崎総合科学大学附属高等学校(長崎)【前編】
長崎市にある長崎総科大附はサッカー部、野球部の躍進により、近年、知名度を高めている。サッカー部は国見高校サッカー部を全国クラスの強豪校へ導いた小嶺 忠敏氏が2008年に監督に就任。全国高校サッカー選手権大会にも出場するなど、今や全国クラスの強豪となっているが、野球部も着々と力を付けており、昨秋は長崎県大会準優勝を収め、初の九州大会出場を決めた。そんな長崎総科大附は6年前まで9人ほどだったチーム。そんなチームがいかにして県内上位を狙えるチームへ成長していったのだろうか。
渡瀬 尚監督(長崎総合科学大学附属高等学校)
「私が監督に就任した時、部員が9人しかいなかったんですよ」
同校を率いる渡瀬 尚監督は当時を振り返った。2010年に監督に就任するまでは長崎日大の指導者として、2007年夏、2009年夏に甲子園出場を果たすなど指導者としても実績ある渡瀬監督だが、部員が少なかった当初はなかなかまとまらず、勝つこともできなかった。それでも少しずつ部員が集まっていき、ちょうど今の2、3年生の新チームがスタートした昨秋、 「部員も集まってきて、当時と比べれば技量も高い選手も出てきたので、勝負の時と捉えていました」
と、秋季大会を勝負の時と位置付け、逆方向へ徹底させることに取り組んだ。引っ張りすぎて引っ掛ける打者が多いので、その修正と、逆方向へ打ってどんどんつなぐという意識であった。そんな長崎総科大附は投手陣も好調だったということもあり、昨秋快進撃を見せた。県大会初戦で北松西を10対0で下し、2回戦では鎮西学院を7対1で破り、ベスト16進出を決めた。そして迎えた3回戦の相手は大村工。
昨夏のベスト8だった大村工との試合が一番重要と考えていた渡瀬監督は、「選手たちには調子、気持ちもピークにもっていくように言いましたね。実際この試合がピークだったと思います」。こうして万全の調整で臨んだ大村工戦。この試合に先発したのは、それまで2試合投げてきた最速137キロ右腕・東山 輝星(2年)ではなく、軟投派だがカーブがウリの野付 陽太(3年)だった。野付を登板した理由を伺うと、「大村工打線を見ると、野付のカーブが良いかなと思ったのですが、これがはまりました」
野付は独特の軌道を描くカーブを武器に大村工打線に5回まで無失点の投球。打線は大村工のエース・松尾 心太郎をなかなか打ち崩せずにいたが5回、今まで取り組んでいた右打ちが嵌って、7点の大量得点。ポイントと位置付けていた大村工戦に9対3で勝利し、さらに準々決勝、準決勝も勝利し、初の九州大会出場を決めたのであった。
[page_break:調子が良い選手を見極めるには?]この大会を振り返って渡瀬監督は、「選手たちが取り組んできたことが発揮されましたが、能力があるけれどもどこか取り組みに甘さがある2年生と、能力はそこまで高くないけれど、取り組みも素晴らしく、精神的にも強い3年生がお互いの弱点を補いあって、チーム一丸となって勝てた秋だったと思います」と語った。
県大会決勝では海星に1対17、九州大会初戦では日南学園に0対11で敗れ、いずれも甲子園出場校に大きな差を付けられる結果となったが、さらなる上昇へ向けて、手応えを掴んだ秋となった。
調子が良い選手を見極めるには?渡瀬監督の話を聞く選手たち(長崎総合科学大学附属高等学校)
ここに至るまでの過程として長崎総科大附ではどんな取り組みがあったのか。それは突出した選手がいなくても、チームが決めた守りごとを徹底したのだという。このことと、勢いを生み出すための選手起用が実を結んだといえる。
勢いある戦いができるために渡瀬監督が心掛けることは、学年に関係なく、状態の良い選手を使うこと。「やはりここは指導者の観察力が試されますね。3年生だから使うというのではなく、調子の良い選手を使う。その見極めは普段の練習内容だったり、試合の結果だけではなく、内容も見ていきますね」
調子が良ければ当然ながら自分の力を発揮しやすい。長崎総科大附はそういう見極めが的確であり、さらにチームとしての戦略がしっかりと徹底されていたからこそ、チーム力の高さで昨秋は九州大会出場を果たしたのだろう。そして、その見極めとして重要なツールになっているのが野球日誌だ。書く内容は、今日の練習内容。何がダメで、何が良かったか、監督がミーティングで話したこと、それについての自分たちの意見と、書く内容はかなり豊富だ。
渡瀬監督曰く、「一教師ですから、やはり全学年の生徒について把握しておきたいというところですね」。どんな気持ちでこの日誌を書いているのか。選手たちの心の状態を掴みながら、日々の練習、練習試合で観察している。監督が選手たちのどこを見ているかというと取り組む姿勢だ。
「たとえば守備が苦手な選手ならば、守備練習をしているか。苦手なことに対してしっかりと取り組んでいるかですね。また打撃面で不調に悩んでいた選手がファール、ファールで粘って最後にヒットを打った場合、自信を取り戻してきているので、再び起用するとまた元の鋭い当たりが飛び出します。苦しい中でも自分で掴んだ選手はしっかりと結果を残します。自分の課題に対して、不調に対して考えながら乗り越えられる選手は強いと思います」
ただ調子が良いだけではない。安定して力を発揮できるためには、苦しい中でもそれを乗り越える努力ができる選手が強いということだ。今年はそういう選手が少しずつ多くなっているようだ。
快進撃ができた時は、すべてがうまくかみ合ったとき。だが、それに至るまでにチームとしてどんな取り組みをしてきたかが大事になる。後編では組織力を強化するための方法をさらに具体的に伺いました。
(取材・文/河嶋 宗一)
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