妊娠中の女子高生に府立高が「体育実技」要求…弁護士「憲法違反の可能性」
京都府立の全日制の高校が2015年11月、妊娠中の3年生の女子生徒(18)に対して、休学を勧め、卒業するには、体育の実技をすることを求めていたことがわかり、物議を醸している。
報道によると、昨年8月ごろ女子生徒の妊娠が発覚すると、高校側は11月ごろ、出産準備に専念するため休学するよう勧めた。その際、女子生徒に、体育の成績が「1」のため卒業できず、球技や持久走などの実技の補習が必要となると説明したという。
文部科学省は、妊娠と学業は両立できるという見解を示し、高校の対応を批判している。高校側は今後、女子生徒への対応を改める意向を示している。
女子生徒は、同級生たちと一緒に卒業することを望んでいるという。身重の生徒に対して、卒業の要件として、体育の実技を受けることを求めることは、法的には問題ないのか。憲法の問題に詳しい作花知志弁護士に聞いた。
●高校にも一定の「裁量」があるが・・・「今回の高校の一連の対応は、憲法で保障された教育を受ける権利や幸福追求権といった人権を制約する行為として、違法と判断される可能性があると考えられます」
作花弁護士はこのように指摘する。具体的にはどういうことか。
「憲法26条1項は教育を受ける権利を保障しています。 そして同時に、子どもがその学習要求をみたすための教育を自己にほどこすことを、大人一般に対して要求する権利(学習権)を保障していることを意味すると考えられています。
さらに、憲法13条が『生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利』を保障しています。妊娠中の女性が安全に出産をすること、母体を守ること、胎児を守ることは、憲法で保障された人権だと考えるべきです」
すると、高校が、妊娠中の女子生徒に対して、休学を勧め、卒業するには体育の実技をすることを求めたことは、こうした人権との関係から問題があったということだろうか。
「教育を受ける権利は、社会権としての側面があります。憲法の基本的な考え方として、社会権を制約する国の行為は、自由権の場合と比べて裁量が広く認められる傾向があります」
●「剣道の実技履修拒否」をめぐり最高裁まで争われたケースも今回の高校の対応は、「裁量の範囲」なのか。
「1996年3月8日の最高裁判決が参考になると思います。この裁判は、高等専門学校において、信仰上の理由で、必修であった剣道実技の履修を拒否した学生に対する退学処分の違法性が争われた裁判でした。
最高裁は、正当な理由のない履修拒否と区別することなく、代替措置が不可能というわけでもないのに、代替措置について何ら検討することもなく退学処分をしたという校長の措置は、裁量権の範囲を超える違法なものであると判断しました。
報道によると、事件を受けて京都府教育委員会高校教育課は、『高校には、それぞれの生徒の状況に応じて配慮するようにと言っている。妊娠も、病気やけがと同様に配慮が必要』との見解を示した上で、妊娠した生徒の体育授業について『実技ではなく、リポート提出や軽微な体操で配慮できる』とコメントしています。
また、スポーツ庁学校体育室は『体育の評価は実技だけではない』とした上で、学習指導要領にある評価の観点は運動技能含め知識や意欲など4点で、『妊娠や障害など考慮すべき一つ一つのケースを明記せずとも、現行の記述で生徒の人権に配慮した授業は行える』とコメントしています。
こうした意見を踏まえると、妊娠中の3年生の女子生徒に対して、休学を勧め、卒業の要件として体育の実技をすることを求めたことは、正当な理由なく、代替措置が可能なのにそれを検討することなく行われたものであり、憲法に違反するものであった、と評価される可能性があると思います」
作花弁護士はこのように分析していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
作花 知志(さっか・ともし)弁護士
岡山弁護士会、日弁連国際人権問題委員会、国際人権法学会、日本航空宇宙学会などに所属。
事務所名:作花法律事務所
事務所URL:http://sakka-law-office.jp/