NHK連ドラ、どっちも最終回で交通事故展開の謎「奇跡の人」「コントレール〜罪と恋〜」

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「コントレール〜罪と恋〜」(NHK 金 よる10時〜)
脚本:大石静 演出:柳川強、橋爪紳一朗 出演:石田ゆり子、井浦新、原田泰造ほか。

プレミアムドラマ「奇跡の人」(NHK BS プレミアム 日 よる10時00分〜)
脚本:岡田惠和 演出: 狩山俊輔、田部井稔(AXON)出演:峯田和伸、麻生久美子、住田萌乃、宮本信子ほか。


4月からはじまった連続ドラマがそれぞれそろそろ最終回を迎えはじめた。
ひと足早く、6月10日(金)に終わったのは、夫を殺した男と愛し合ってしまう禁断の「コントレール〜罪と恋〜」。6月12日(日)には、「ヘレン・ケラー」の物語を現代日本に置き換え、ロックバカと少女の交流を描いたプレミアムドラマ「奇跡の人」が終わった。
毎週見ているドラマがどんなふうにまとまるかはドラマを見る楽しみのひとつ。いろいろあった中、たいてい最後にもうひとつ仕掛けてくるものとはいえ、驚いたのが、この2作、どちらも主要人物が交通事故展開だったのだ。

「コントレール〜罪と恋〜」は、主人公(石田ゆり子)の想い人(井浦新)が、殺した男(主人公の夫)の愛人(夫には愛人がいたという複雑な展開)を車から守ろうとして意識不明の重傷に。
「奇跡の人」では主人公(峯田和伸)が、突然出て来た幼児連れ去り犯の車の前に立ちふさがってひき逃げされてしまう。
道路に血まみれで倒れる男、薄暗い病院、慌てて駆けつける女(「コントレール」では石田ゆり子、「奇跡の人」では主人公の想い人〈麻生久美子〉)。誰かを助けるために格闘の末眠る男の姿を見て、改めて愛情を確認する女。
そして、どっちの男も無事に退院する。2作は、大石静と岡田惠和が示し合わせたかのように全く同じシチュエーションを通りながら、そこからまったく違う方向へ舵を切っていく。
「コントレール」は、女とその夫を殺した男は強く強くお互いを求め合う。だが、いくらあやまって殺したとはいえ、残された子供にとっては父を殺した男。幼い子供にはその事実は重いだろう。そんなことを考えて、女は苦渋の決断を・・・。
「奇跡の人」は主人公の事故による不在をきっかけに、聴覚や視覚が自由に使えない娘(住田萌乃)が、ついに、自分の周囲にいる人間の個性を判別できるようになり、物には名前があることを知りはじめる。ヘレン・ケラーの「奇跡の人」における感動の「ウォーター」の展開だ。

結果的には、2作とも、交通事故というベタな事件を使いながら、その後、それをすっかり忘れてしまうくらいの内容で、それはまるで、小骨のまったくないふっくら焼けた白身魚を食べているような満足感を覚えた。どちらもメインキャラが交通事故で不在の穴を、これまでずっと彼らの幸福のためにやや損をしてきた脇役によって埋めることで、彼らに光を当てるのだ。
「コントレール」は、事故に遭った男に対して、主人公の夫となった刑事(原田泰造)がつぶやく台詞がいい。
善と悪の間で揺れる心を、この役特有の照れにくるみながら語らせた。これまでずっと、都合のいい人の役割だった男にも違う側面があることを描く。原田泰造の陰影ある芝居も説得力がある。
「奇跡の人」は、事故にあって、まさか主人公まで身体が不自由になってしまったらどうしようかとハラハラしたが、とても穏やかで幸福な終わり方を迎える。主人公の事故がもたらしたのは、主人公の想い人の元夫(山内圭哉)が捨てた娘の面倒を主人公に代わって少しの間、見ることだ。目が見えない耳が聞こえない言葉も話せない我が子から逃げた男が連続ドラマのなかですこ〜し変化していくところに希望があった。

事情に振り回されず、物語をしっかり描く余裕は、もって生まれた才能なのか、たくさん書いてきた経験が成せる技なのかわからないが、「コントレール」の大石静も「奇跡の人」の岡田惠和もヒットドラマを多く手がけてきた巧者。どちらも向田邦子賞受賞者で審査委員でもあって、後輩の脚本の講評もする立場のふたりは、もしかしたら、あえて「交通事故」というクリシェを用いながら、ドラマの完成度を落とさないお手本を見せたのではないかとすら思ってしまうほど。

以前、とあるドラマ関係者に聞いた話だと、最終回目前になると撮影スケジュールが押してロケなどを行う余裕がどんどんなくなってくる。そういう時、病室のシーンはセットが作りやすいし、何かと便利なのだそうだ。

2作のドラマの撮影事情はわからないが、そもそも脚本家は小説家とは違って、撮影場所や俳優のスケジュールなども考えて書かなくてはならないという制約が多い。そのなかでいかに独自のドラマを作るか、それを乗り越えた者だけが生き残っていく。「コントレール」も「奇跡の人」もドラマの前線を走り続ける作家たちの鮮やかな職人技を見せつけられた。
(木俣冬)