まさかの、かかとかさかさ再登場「真田丸」18回

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NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
5月8日放送 第18回「上洛」 演出:田中正


謎がなくなったらおわり


「人は何か酷く悲しい目にあったとき、それまでのことをすべて忘れてしまうことがあるのでしょうか。
別人として生きていくことができるのでしょうか」 
問いかける真田源次郎信繁(堺雅人)に千利休(桂文枝)は、
「人の心は謎」「わからしまへん」と答える。

この答えのごとく「真田丸」はこれまでずっと謎めいた人の心のも表裏や移り変わりを描いてきた。
その最たる人物が信繁の父・真田安房守昌幸(草刈正雄)だが、18回の彼はちょっとわかりやすかった。
豊臣秀吉(小日向文世)の元へ上洛することを渋り続け、母とり(草笛光子)の助言によってようやく上洛したものの、古寺に泊まらされるという待遇の悪さ(信幸〈大泉洋〉いわく“ないがしろ”)にわかりやすくしょんぼりし、挙げ句、徳川家康(内野聖陽)の“与力”になるよう命じられ「どこで間違った?」とわかりやすく困惑する。
信幸と信繁、息子ふたりが手前にいて、その奥で座っているお父さんのカットでは、奥にいるから当たり前とはいえ叱られた子犬のように小さく見えた。

人間、謎が多いほうが大きく見えるのかもしれない。
その証拠に、秀吉は相変わらず謎に満ち満ちている。
太政大臣になったことを、寧(鈴木京香)の前では大喜びして見せたかと思うと、茶々(竹内結子)の前では憂いて見せる。叔父・信長が亡くなっている茶々に気を使っているのか、手に入れるまではできるだけいい顔をしておこうという作戦か。
何を考えているか底が見えず不気味な秀吉。昌幸の表裏切り替えなんてかわいいものに見えてくる。
上洛した昌幸を雑に扱い、みかねた信繁が茶々を使って説得してようやく自ら会見した時には、献上品の毛皮を着て(三成〈山本耕史〉にはかなりばかにされた品)現れる。そして、キラキラした瞳で(照明の力すばらしい)、昌幸を褒め、ちょっと持ち上げといて、直後、落とす。家康の与力になれと残酷な命令をニコニコした顔で。しかも「“家臣”でなく“与力”だ。」と。“与力”という立ち位置がわかりにくいうえ、いろいろ考えると微妙なのだ。そんな待遇を与えてもやもやさせるとはどSにもほどがある!! こんな上司もったらメンタルが不安定になる。彼の女と近しくなったら殺されちゃうし。くわばらくわばら。

ところが、このこわい上司に信繁が心酔しはじめている。お父さんのことも気にかけながらも、殿下のことを悪く言わず、逆にかばう。この抗えない妙な魅力も秀吉のポテンシャルなのだろう。
秀吉にないがしろにされたお父さんを自腹で太夫を雇ってもてなす信繁は、自腹接待の現代サラリーマンの悲哀を感じさせた。
こんなふうに息子に気を遣われてしまう昌幸。これまでは真田家を守るためにあっちにつきこっちにつく自由な男として、はおっている毛皮もワイルドの象徴に見えていたのが、ただの喧嘩大好きのヤンキーみたいに見えてきてやや残念。信幸まで「生まれてくるのがいささか遅すぎたのかもしれんなあ」なんて言うとは、そんなに力でのしあがりたい、世が世ならクローズみたいな世界に生きたい男だったのか? と驚いた。

だが、このまま父子そろってしょんぼりのまま終わってしまうと、視聴者のテンションも下がってしまうと思ったのか、記憶をなくして出雲阿国(シルヴィア・グラブ)の一座に入っていた松(木村佳乃)の記憶が戻るエピソードを加えて、バランスをとる。
松との再会に「つらいことがればそのぶんよいこともある 世の中ようできとるわい」と少し元気になる昌幸。
「生きておっただけでもうけもんじゃの」とまで。これこそそもそも昌幸の生き方そのものだったはずだが、つらいことがあってあやうく忘れかかっていたのだろう。

松の記憶が戻るきっかけが、例の「かかとかさかさ」女子トークであったことは、「黙れ小童」以来の熱狂を生んだ(ちょっと大げさ)。4話で出て来たこのエピソード、お年寄りたちははたして覚えていただろうか。初出ともども2度も「?」と首をひねったのではないだろうか。
こうして、あっという間(実際は3年くらい経過している)に真田家に戻った松。“さみしさがつのるとかかとがかさかさになる”と言った梅(黒木華)が、弟の嫁になってすぐ亡くなってしまったと知ったらショックに違いない。

それから、亡くなった後はじまった黒木の主演番組「重版出来!」(TBS)が木村佳乃の出演番組「僕のヤバい妻」(フジテレビ)と放送日時(火曜日夜10時)が重なり、目下低視聴率対決中という因縁は不憫でならない。
(木俣冬)