究極のコレクションアイテム「白いトレカ」 とは『無限の本棚』とみさわ昭仁に聞く
集め続けて50年。筋金入りのコレクターが辿り着いたのは「何も集めないコレクション」だった。
新刊『無限の本棚 手放す時代の蒐集論』で自身のコレクション論を語るのは、特殊古書店マニタ書房の店主であり、「日本一ブックオフに行く男」であり、当エキレビ!のライターでもあるとみさわ昭仁さん。
集めているのに集めてない。まるで禅問答のような「エアコレクション」の境地に、蒐集の鬼がどうやって辿り着いたのか。神保町のマニタ書房でとみさわさんにインタビューしました。
── とみさわさんのコレクター人生が始まったのは、『無限の本棚』によると「酒ブタ」だとか。
とみさわ 小学校低学年くらいの時に、日本酒のキャップ部分をおはじき代わりに弾いて、賭けたりする遊びをしてたんですよ。でも僕は競うのが好きじゃない性格なので、ギャンブル性の部分には大して興味がなくて、色んな柄のキャップを集めるのがすごく楽しかった。恐らくその辺が自分がコレクションに目覚めた最初。
それで、うちの真向かいにお茶屋のサトル君という仲良しの子がいたんだけど、その子が酒ブタをすごい数集めて、茶箱の中にジャランジャラン入れてて。それを見たらちょっと冷めたんだよね。
── 貨幣価値の暴落みたいですね
とみさわ あとは、仮面ライダースナック。小学校4年生ぐらいじゃなかったかな。初期の仮面ライダー大好きだったから、ライダーカードにすごい夢中になってね。
ライダーカードも一学年下のやつが凄いいっぱい持ってて、やっぱりなんか違うなって。競うのが苦手だから、負けないように集めよう! とはあんまり思わないのね。自分よりすごいのがいると、もういいや、僕が一番じゃないならいいやって。
── 「人と競うのが嫌いだけど、一番じゃないとイヤ」って矛盾しているように思うんですが……
とみさわ なんだろう、僕の中では両立しているから、不思議じゃないんだよね。誰も行かないところを行きたいだけであって、誰かを追い抜きたいわけじゃないんですよ。で、一回追い抜かれるともうつまなくなっちゃう。とても飽きっぽい性格ですね。
── 飽きっぽい性格はコレクションに限らず?
とみさわ コレクションとは別に、プラモデルにハマってた時期もあって。タミヤの1/48シリーズ。兵隊さんとか戦車とか。たぶん小学校から中学校にかけては漫画よりプラモに夢中だったじゃないかな。でも、丁寧に飾るとかまったく興味がないの。ぶつかってひっくり返して壊れたりすると、直すのめんどくさくて捨てちゃうんだよね(笑)おふくろに凄い怒られるの。
── そりゃ怒られますよ(笑)
とみさわ 手先が器用でそこそこ上手に作れるんで、おふくろも喜ぶんですよ。それが翌月無くなってるから、何なんだお前は! って(笑)そういう子でした。
── 「誰も行かないところを行きたい」という言葉がありましたが、「好きなもの」を集めていた時期から「誰も集めていないもの」を集めるようになったきっかけはなんだったんでしょうか?
とみさわ 顔出し看板を集めていた時は、好きなもので、かつ日本一になれると思ってましたね。元々国内旅行が好きで、あちこちで顔出し看板は目にしていたんですよ。最初は面白がって変な顔して写真撮っていたんだけど、これをコレクションしている人はきっといないだろうと。「顔出し看板コレクター」として集め始めて、コラムを書いたりテレビにも何回か出たんです。
ところが、いぢちひろゆきさんという、もっとすごいコレクターが現れて、写真集(『全日本顔ハメ紀行ー“記念撮影パネルの傑作”88カ所めぐり』)を見てこれは敵わないな……と。しゃかりきに旅行して彼を追い抜こうとは思わなかったし、そんな事をしたらいぢちさんも嫌な気持ちになるかもしれないし、自分も悲しい思いをしたくないから。最近はもっとすごい方(塩谷朋之『顔ハメ看板ハマリ道』)もいますよね。
── そこから先は時間とお金の勝負になってしまいますものね。
とみさわ ただ、一番になりたいという欲はあったんですよ。顔出し看板は好きでやってたけど、「誰もやってないこと」もコレクションとして新しいぞ、と。それからドリフグッズやジッポーライターを集め始めたけど、これらも元々好きだったものを集めてた。ところが、野球カードですよ。
── 『無限の本棚』によると、野球は全然興味が無かったんですよね。
とみさわ 興味が無いというか、どちらかと言えばあまり好きじゃなかった。それなのに、なんで野球カードに行ったのかというと、まずトレカを集め始めたきっかけが映画『マーズ・アタック!』(1996公開)。あれはそもそもトレカから始まった映画だから。
── 映画よりトレカの方が先なんですか?
とみさわ アメリカのチューインガムに入っていた、火星人が人類を攻撃するストーリーのトレカが最初なんですよ。それをティム・バートンが映画にして、さらにその映画のトレカが作られた。あの映画が大好きだったんでトレカを集めたんですけど、200枚も無いセットだったからすぐ集まっちゃう。
そこからトレカショップに行くようになって、あまり興味がないのにエヴァンゲリオンのトレカに手を出して、またすぐ集まって。より手応えのあるものはないかと思ったら、店の一角にアメリカのベースボールカードのコーナーがあるわけですよ。まさに新大陸発見みたいな感じで。
とみさわ 当時、メジャーリーガーは1人も知らなかったんじゃないかな……。誰を集めたら楽しいだろうと思って、月刊メジャーリーグとか買って読んだり、スカパーを契約してMLBの中継を観たりして、「カードの枚数が多くて、末永く活躍しそうな選手」を考えて。その結果、連続試合出場記録を持つ鉄人、カル・リプケン選手を集め始めたんですよ。
── 最高難易度が誰なのか勉強したんですね。
とみさわ ただ、野球カードの勉強は足りなくて、あとから知ったんだけど、人気がある選手はカードの値段が高い(笑)。しかも全部で2400枚くらいある。それをチェックリストにまとめて、最盛期は1200枚ぐらい集めたのかな。ライバルが少なかったんで、カル・リプケンのコレクターとしては間違いなく当時日本一だったけど、やっぱり野球は興味がないんですよ。
── そんなに集めていてもですか。
とみさわ 日米野球も観に行ったんだけど、売店に野球カードを買いに行っているあいだに試合が始まって、先頭打者のロベルト・アロマーが初球ホームランを打ったの見逃してるだよね。バカみたいでしょ(笑)そういう人間だから、やがて冷めるわけです。これ違うよな、って思って。
── ハッと気がついた感じですか?
とみさわ ハッと気がついたか、預金残高が減ってきたのに気がついたか……。でも、野球は興味ないけど、集めることは自体はすごく好きなんですよ。この気持ちはなんだろうと考えだして。これは野球やトレカとかの問題じゃなくて「リストの抜けを埋める」が好きなんだろうと。
── リストの抜け……?
とみさわ ショップでトレカを探して、チェックリストと照らしあわせて「持っていない番号があった!」というのが楽しいわけだから。それなら、番号だけ振られた真っ白なカードがあったとして、それが日本全国のショップに散らばっていたら……僕は集めるなと。だって楽しいもの。
── リプケンでなくても、野球でなくてもいいってことですよね。
とみさわ 僕が楽しく感じているのはそこだったんだなと考えていって、コレクターの気持ちを分析し始めたわけです。時間や財力を使う虚しさとか、ここから出てくる「エアコレクター」の話とか、コレクター人生の中で野球カードはすごく色々なことを自分に教えてくれましたね。
この少し後に、松戸の僕の実家に家族で引っ越すことになったんですよ。そこにはコレクションを置くスペースが無いから、蔵書やらレコードやらを大量に処分したの。その頃は断捨離って言葉が無かったけど、物が無くなって身軽になるとどんどん気持ち良くなってくるんだよね。なんか憑きものが落ちたような気がして、俺は物欲が無くなった、と本気で思った。
── 物欲が無くなって……そのあと、どうされたんですか。
とみさわ ……「人喰い映画」を集めはじめるんですよ。
(井上マサキ)
後編へ続く
とみさわ昭仁『無限の本棚 手放す時代の蒐集論』(アスペクト)
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新刊『無限の本棚 手放す時代の蒐集論』で自身のコレクション論を語るのは、特殊古書店マニタ書房の店主であり、「日本一ブックオフに行く男」であり、当エキレビ!のライターでもあるとみさわ昭仁さん。
集めているのに集めてない。まるで禅問答のような「エアコレクション」の境地に、蒐集の鬼がどうやって辿り着いたのか。神保町のマニタ書房でとみさわさんにインタビューしました。
争いごとは嫌い。でも一番じゃないとイヤ
── とみさわさんのコレクター人生が始まったのは、『無限の本棚』によると「酒ブタ」だとか。
とみさわ 小学校低学年くらいの時に、日本酒のキャップ部分をおはじき代わりに弾いて、賭けたりする遊びをしてたんですよ。でも僕は競うのが好きじゃない性格なので、ギャンブル性の部分には大して興味がなくて、色んな柄のキャップを集めるのがすごく楽しかった。恐らくその辺が自分がコレクションに目覚めた最初。
それで、うちの真向かいにお茶屋のサトル君という仲良しの子がいたんだけど、その子が酒ブタをすごい数集めて、茶箱の中にジャランジャラン入れてて。それを見たらちょっと冷めたんだよね。
── 貨幣価値の暴落みたいですね
とみさわ あとは、仮面ライダースナック。小学校4年生ぐらいじゃなかったかな。初期の仮面ライダー大好きだったから、ライダーカードにすごい夢中になってね。
ライダーカードも一学年下のやつが凄いいっぱい持ってて、やっぱりなんか違うなって。競うのが苦手だから、負けないように集めよう! とはあんまり思わないのね。自分よりすごいのがいると、もういいや、僕が一番じゃないならいいやって。
── 「人と競うのが嫌いだけど、一番じゃないとイヤ」って矛盾しているように思うんですが……
とみさわ なんだろう、僕の中では両立しているから、不思議じゃないんだよね。誰も行かないところを行きたいだけであって、誰かを追い抜きたいわけじゃないんですよ。で、一回追い抜かれるともうつまなくなっちゃう。とても飽きっぽい性格ですね。
── 飽きっぽい性格はコレクションに限らず?
とみさわ コレクションとは別に、プラモデルにハマってた時期もあって。タミヤの1/48シリーズ。兵隊さんとか戦車とか。たぶん小学校から中学校にかけては漫画よりプラモに夢中だったじゃないかな。でも、丁寧に飾るとかまったく興味がないの。ぶつかってひっくり返して壊れたりすると、直すのめんどくさくて捨てちゃうんだよね(笑)おふくろに凄い怒られるの。
── そりゃ怒られますよ(笑)
とみさわ 手先が器用でそこそこ上手に作れるんで、おふくろも喜ぶんですよ。それが翌月無くなってるから、何なんだお前は! って(笑)そういう子でした。
野球に興味がないのに野球カードを集め始めた
── 「誰も行かないところを行きたい」という言葉がありましたが、「好きなもの」を集めていた時期から「誰も集めていないもの」を集めるようになったきっかけはなんだったんでしょうか?
とみさわ 顔出し看板を集めていた時は、好きなもので、かつ日本一になれると思ってましたね。元々国内旅行が好きで、あちこちで顔出し看板は目にしていたんですよ。最初は面白がって変な顔して写真撮っていたんだけど、これをコレクションしている人はきっといないだろうと。「顔出し看板コレクター」として集め始めて、コラムを書いたりテレビにも何回か出たんです。
ところが、いぢちひろゆきさんという、もっとすごいコレクターが現れて、写真集(『全日本顔ハメ紀行ー“記念撮影パネルの傑作”88カ所めぐり』)を見てこれは敵わないな……と。しゃかりきに旅行して彼を追い抜こうとは思わなかったし、そんな事をしたらいぢちさんも嫌な気持ちになるかもしれないし、自分も悲しい思いをしたくないから。最近はもっとすごい方(塩谷朋之『顔ハメ看板ハマリ道』)もいますよね。
── そこから先は時間とお金の勝負になってしまいますものね。
とみさわ ただ、一番になりたいという欲はあったんですよ。顔出し看板は好きでやってたけど、「誰もやってないこと」もコレクションとして新しいぞ、と。それからドリフグッズやジッポーライターを集め始めたけど、これらも元々好きだったものを集めてた。ところが、野球カードですよ。
── 『無限の本棚』によると、野球は全然興味が無かったんですよね。
とみさわ 興味が無いというか、どちらかと言えばあまり好きじゃなかった。それなのに、なんで野球カードに行ったのかというと、まずトレカを集め始めたきっかけが映画『マーズ・アタック!』(1996公開)。あれはそもそもトレカから始まった映画だから。
── 映画よりトレカの方が先なんですか?
とみさわ アメリカのチューインガムに入っていた、火星人が人類を攻撃するストーリーのトレカが最初なんですよ。それをティム・バートンが映画にして、さらにその映画のトレカが作られた。あの映画が大好きだったんでトレカを集めたんですけど、200枚も無いセットだったからすぐ集まっちゃう。
そこからトレカショップに行くようになって、あまり興味がないのにエヴァンゲリオンのトレカに手を出して、またすぐ集まって。より手応えのあるものはないかと思ったら、店の一角にアメリカのベースボールカードのコーナーがあるわけですよ。まさに新大陸発見みたいな感じで。
とみさわ 当時、メジャーリーガーは1人も知らなかったんじゃないかな……。誰を集めたら楽しいだろうと思って、月刊メジャーリーグとか買って読んだり、スカパーを契約してMLBの中継を観たりして、「カードの枚数が多くて、末永く活躍しそうな選手」を考えて。その結果、連続試合出場記録を持つ鉄人、カル・リプケン選手を集め始めたんですよ。
── 最高難易度が誰なのか勉強したんですね。
とみさわ ただ、野球カードの勉強は足りなくて、あとから知ったんだけど、人気がある選手はカードの値段が高い(笑)。しかも全部で2400枚くらいある。それをチェックリストにまとめて、最盛期は1200枚ぐらい集めたのかな。ライバルが少なかったんで、カル・リプケンのコレクターとしては間違いなく当時日本一だったけど、やっぱり野球は興味がないんですよ。
── そんなに集めていてもですか。
とみさわ 日米野球も観に行ったんだけど、売店に野球カードを買いに行っているあいだに試合が始まって、先頭打者のロベルト・アロマーが初球ホームランを打ったの見逃してるだよね。バカみたいでしょ(笑)そういう人間だから、やがて冷めるわけです。これ違うよな、って思って。
── ハッと気がついた感じですか?
とみさわ ハッと気がついたか、預金残高が減ってきたのに気がついたか……。でも、野球は興味ないけど、集めることは自体はすごく好きなんですよ。この気持ちはなんだろうと考えだして。これは野球やトレカとかの問題じゃなくて「リストの抜けを埋める」が好きなんだろうと。
── リストの抜け……?
とみさわ ショップでトレカを探して、チェックリストと照らしあわせて「持っていない番号があった!」というのが楽しいわけだから。それなら、番号だけ振られた真っ白なカードがあったとして、それが日本全国のショップに散らばっていたら……僕は集めるなと。だって楽しいもの。
── リプケンでなくても、野球でなくてもいいってことですよね。
とみさわ 僕が楽しく感じているのはそこだったんだなと考えていって、コレクターの気持ちを分析し始めたわけです。時間や財力を使う虚しさとか、ここから出てくる「エアコレクター」の話とか、コレクター人生の中で野球カードはすごく色々なことを自分に教えてくれましたね。
この少し後に、松戸の僕の実家に家族で引っ越すことになったんですよ。そこにはコレクションを置くスペースが無いから、蔵書やらレコードやらを大量に処分したの。その頃は断捨離って言葉が無かったけど、物が無くなって身軽になるとどんどん気持ち良くなってくるんだよね。なんか憑きものが落ちたような気がして、俺は物欲が無くなった、と本気で思った。
── 物欲が無くなって……そのあと、どうされたんですか。
とみさわ ……「人喰い映画」を集めはじめるんですよ。
(井上マサキ)
後編へ続く
とみさわ昭仁『無限の本棚 手放す時代の蒐集論』(アスペクト)
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