セウォル号事故の真実に迫るドキュメンタリー映画「ダイビング・ベル」…会見で語られた企画意図“政府とメディアを告発したかった”

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韓国で2014年4月16日に起きた旅客船セウォル号沈没事故。その真相に迫るドキュメンタリー映画「ダイビング・ベル」の共同監督アン・ヘリョンがプロデューサーのファン・ヘリムとともに来日。4月21日に東京・日本外国特派員協会で上映会と会見が行われた。

タイトルの「ダイビング・ベル」とは長時間の海中作業を可能にする潜水機器の名称。事故直後、現場に駆けつけた民間業者のイ・ジョンイン社長は、この機器を使った救助活動を申し出るが海洋警察に受け入れられず、沈みゆく船を前に無駄な時間だけが過ぎていく。「告発ニュース」のイ・サンホ記者(本作の共同監督) は、混乱する現場でイ社長に密着しつつ、責任逃れする政府、真実を報じようとしない大手マスコミに焦燥感を募らせるが……。

『ダイビング・ベル』は行政による上映中止の圧力を受けながら2015年の釜山国際映画祭で上映されたが、その後、映画祭の執行委員長が更迭される事態に発展。騒動は収まらず、今年10月に行われる釜山国際映画祭の行方も注目されている。なお、アン・ヘリョン監督は日本語で質問に答えた。

政府とメディアを告発したかった 『ダイビング・ベル』の企画意図

―事故の状況の説明が少なく、映画がわかりづらいと感じたが。

アン・ヘリョン:このドキュメンタリー映画は外国の人々に見せるためではなく、韓国の国内にメッセージを送るために企画した。韓国人はこの事故や背景のことをよく知っている。映画を宣伝するときはチラシを作るし、セウォル号の事故に関心ある人が見ることを前提とした。もともとこの事故は大きすぎて上映時間77分の映画ですべてを説明することはできない。我々はダイビング・ベルを素材にして、政府関係者はなぜ自分の責任から逃げるのか、メディアはなぜ本当のことを報道しないのかを告発したかった。

生存者はいたのか?真実は誰にもわからない

―事故から3日たっても沈没する船の中に生存者はいたのか?

アン・ヘリョン:生存者が何人いたか、はっきりわかる人は誰もいない。可能性があるという前提でいろんなチャレンジが行われた。ダイビング・ベルの救難道具を持っていたイ社長は、長年、救助活動をしてきており、セウォル号のときのような深い海ではなかったが、転覆した船の中で生存者を発見して救助した経験があった。今回ももし生存者がいるなら何かできるかもしれないと思って現地に行った。確信はなかったが、可能性を信じた。生存者の有無については、我々もその真実を知りたい。当時の救助の担当者が考えていたことも。特別委員会での調査が始まったので、その結果を待っている。

釜山国際映画祭での上映のいきさつ 釜山市長のおかげで映画が有名に

―先ごろ、トライベッカ映画祭での上映が拒否された反ワクチンのドキュメンタリー映画が、それによって関心を集め、多くの観客を動員した。『ダイビング・ベル』もそれと同じような効果があったのか?

アン・ヘリョン:韓国では政府がメディアをコントロールするので、その問題を問う映画を上映することもそれについて話しあうこともできない。コンセンサスがない。そこで我々は国際映画祭で我々のメッセージを表現したいと上映に向けてのチャレンジをした。釜山国際映画祭の1ヶ月前に記者会見があり、上映作品のリストが発表された。『ダイビング・ベル』は一番最後のページにタイトルが入っていただけだったが、ある映画記者が「セウォル号についてのドキュメンタリー映画が最終日に上映される」と記事にした。そのときからすべての問題が始まった。
その時点で関係者以外は誰も映画を見ていなかった。ところがその後、釜山市長から『ダイビング・ベル』は政治的に問題のある作品なので上映しないほうがいいと言ってきた。釜山市長は映画を見ていない。どんな内容か知らないのに、政治的な問題があるという判断をどこから得たのか?私には理解できない。これは映画だけの問題ではない。彼らが守りたいのは、国民の安全ではなく政権の安定で、報道の真実がカバーされる今の状態かもしれないと思った。
逆にいえば釜山市長のおかげで『ダイビング・ベル』は韓国国民の間でとても有名になった。釜山国際映画祭が終わってすぐに劇場公開の準備をしたが、大手の系列の大劇場は、我々の映画を上映できない、興味がないと言ってきた。そのため、独立映画を専門にする小さな映画館や公民館などでの上映運動が始まった。それらが満席になり、これで私もお金持ちになれるかと思ったが、そのことを釜山市長もよくわかっているようで、その後は『ダイビング・ベル』関連のことを一切コメントしなくなった(笑) 釜山市長は本当にありがたい。釜山国際映画祭の問題のおかげで、外国の映画人にもこのタイトルが知れわたった。私の商売も成功するかもしれない(笑) 今日も東京で上映ができた。その意味では今日いらっしゃったみなさんも、その中の一人だろう。どこで『ダイビング・ベル』を知りましたか?

韓国で5万人を動員 観客はショックを受けた

―韓国の一般人の反応は?メディアはどう取り上げたのか?

ファン・ヘリム:韓国では合わせて25スクリーンくらいで公開され、約5万人を動員した。1000万人を超えるハリウッド映画と比べるとたいしたことないかもしれないが、ドキュメンタリー映画としてはかなりいい成績だ。宣伝にお金をかけられなかったが、口コミで広まった。事故の犠牲者の遺族との質疑応答の時間を設けた回では、集まった人たちに感動を与えた。映画を見て初めて知る事実があることに、見る人はショックを受ける。私たちはこれが事実だ、これが正しいと主張しているのではない。いままで見えていないことを見たほうがいい、別の角度から見た方がいいと言っている。その後、インターネットなどでも公開され、いろんな人がこの映画を見た。映画は事件のすべてを語ってはいない。この映画が扉を開くことにより、今後もいろんな情報、現実、事実の公開につながっていくことを期待している。

政治が変われば状況も変わる 釜山国際映画祭の行方は?

―先日の選挙でハンナラ党が負けたことによって、釜山国際映画祭やメディアに変化はありそうか?

アン・ヘリョン:本当に変わった。釜山国際映画祭関連のことには一切コメントしてこなかった中央日報が「文化は遊びであれ」と言い出し、釜山市長はお金は出しても干渉はしないほうがいいという記事を昨日出した。メディアはよく知っていて、権力が弱まったと見れば攻撃を始める。選挙の影響で今後は少し変わるかもしれない。釜山で今回、国会議員が5人生まれたことにより、市長も考えが変わるかもしれない。だが、どうなるかはまだわからない状態だ。

―今後の釜山国際映画祭に関しては?

アン・ヘリョン:釜山国際映画祭の問題が語られるときは、必ず『ダイビング・ベル』の話が出る。だが、私はどんな立場の人として、どうすればいいのか。2年前も、最初に上映するときにも、映画祭の関係者に対していろんなプレッシャーあった。だが、私には何もプレッシャーもなかった。それが本当に不思議だ。台風がくるときには激しい風と雨がくるが、台風の目の中にいるときには何も感じないものだ。私は台風の外ではなく、真ん中にいる人なのかもしれない。そういうわけで、いまも釜山国際映画祭の問題については何もコメントすることがない。ただ、ごめんなさいという感じだ。

―『ダイビング・ベル』の次の作品は?

アン・ヘリョン:『ダイビング・ベル』で私は共同監督としての作業をした。イ・サンホ監督が取材した映像を、1本のドキュメンタリー映画として、物語として見せられるように整理する役割だった。イ・サンホ監督は、その後も事故に関する取材を続けている。私も興味を持ってはいるが、もう我々の仕事ではないという思いはある。我々2人がカバーできるエリアは狭く、大きな役割は果たせないかもしれない。別の人たちが別のテーマで取材してセウォル号事件を描く作品を作ったら、また別の物語ができるかもしれない。

ライター:望月美寿

「ダイビング・ベル」日本特別上映会

【大阪】
日時:4月28日(木) 19:00〜
会場:ビジュアルアーツ専門学校・大阪 VD-1校舎3階アーツホール
料金:全会場共通 前売券1,500円 / 当日券1,800円

※前売券、チケットぴあにて絶賛発売中!(Pコード:大阪466-671、東京466-672 )
※前売券が完売した場合は当日券のご用意はありません。

【仙台】
日時:4月28日(木) 19:00〜
会場:ギャラリー ターンアラウンド(タナラン)
料金:1000円+1ドリンク
問い合せ:E-mail ktok@me.com

【沖縄】
日時:5月13日(金) 18:00〜
会場:沖縄県立博物館・美術館講堂
料金:前売券 1000円、当日券 1300円
問い合せ:すでぃるMabuni-Peace Project Okinawa 2016実行委員会
E-mail:sudeiruinfo@gmail.com

『ダイビング・ベル』詳細:http://artistaction.jimdo.com/