努力が大嫌いな人たちに努力の大切さを語る「僕のヒーローアカデミア」3話
堀越耕平原作による人気マンガのアニメ化『僕のヒーローアカデミア』。先週放送の第3話「うなれ筋肉」は、主人公がヒーローへの道を一歩踏み出したエピソードだ。
超能力の一種である“個性”をまったく持たない“無個性”の少年、緑谷出久(いずく)。周囲にバカにされながらもヒーローを目指す出久の前に、憧れのNo.1ヒーロー、オールマイトが現れる。
無個性ながら、幼馴染の爆豪勝己を助けようと考えるより先に体が動いた出久にヒーローの資質を見出したオールマイトは、自らの個性“ワン・フォー・オール”を授けようと提案。出久は「お願いします」と即答する。
出久を待っていたのは、オールマイトが考案したハードなトレーニングだった。オールマイトの個性を受け継ぐには、入れ物である肉体を鍛えなければならない。さらにヒーローの養成機関、雄英高校の入試まで残された期間は10カ月。この間に肉体を完成させて、個性を発揮できるようにしなければならないのだ。
トレーニングの中身とは――通常の筋トレなどに加えて、資源ゴミで汚れた海岸をたった一人でキレイにすること。巨大な冷蔵庫やら何やらを片付けなければならないんだから、これはキツイ。でも、鍛えるなら普通のトレーニングだけでいいんじゃない? しかし、オールマイトはこう語る。
「最近のヒーローは派手さばかり追い求めるけどね。本来ヒーローってのは奉仕活動。地味だなんだと言われてもそこはブレちゃあいかんのさ」
損得関係なく社会に奉仕することができる。これもヒーローの条件だ。片手で冷蔵庫を潰したオールマイトの背後から朝日が昇るカットがカッコいい。
雨の日も晴れの日も、早朝からトレーニングを行い、学校に通って、さらに海岸を片付け続ける出久。夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬になり、そして試験当日の朝。出久はオールマイトに指示された以上の区画をチリひとつない状態までキレイに仕上げてみせた。冷蔵庫の重さに泣いていた出久少年は、10カ月後、小柄ながらもビルドアップされた肉体を手に入れていた。これもすべて努力を続けてきたおかげ。晴れて出久はオールマイトから個性を受け継ぎ、雄英高校の入試に向かったのであった。
前半をまるごと出久のトレーニングシーンにあて、後半を次回から始まる入試のガイダンスにあてた第3話。テーマはずばり「努力」だ。
『ソードアート・オンライン』のキリトや『魔法科高校の劣等生』の達也など、最初から無双状態の主人公が活躍するアニメが多い中、これほどまでに泥臭く努力してトレーニングする主人公も最近では珍しい。
「友情・努力・勝利」といえば、『僕のヒーローアカデミア』が連載している『週刊少年ジャンプ』の三大原則として知られている。3代目編集長を務めた西村繁男によると、すべての掲載作品にこの3つの要素のうち最低1つを入れることが編集方針になっているのだという(『さらば、わが青春の「少年ジャンプ」』より)。『僕のヒーローアカデミア』に関しては、「努力」がクローズアップされた作品だと考えていいだろう(後に「友情」と「勝利」も前面に出てくる)。
ところで、6代目編集長として部数が落ち込んでいた『ジャンプ』を立て直した鳥嶋和彦は、「友情・努力・勝利」という方針について、「ああ、全く無意味ですね。あんなのはバカが言うことですよ」と一刀両断している(伝説の漫画編集者マシリトはゲーム業界でも偉人だった! 鳥嶋和彦が語る「DQ」「FF」「クロノ・トリガー」誕生秘話)。
「『友情』と『勝利』は正しいんです。でも、『努力』は子どもは大嫌いなんです」
こう語る鳥嶋は、自身が編集を担当した『ドラゴンボール』(鳥山明)でも、悟空が努力をしているシーンをことさらに強調しなかったという。鳥嶋が言わんとしていることはよくわかる。子どもだけでなく、大人だって努力はあまり好きじゃない。好きじゃないからこそ、「努力は大切だ」と何度も強調されるのだ。昨今の最初から無敵の主人公たちは、努力が嫌いな視聴者たちのニーズを汲み取った存在なのかもしれない。
鳥嶋はさらに、「『努力』なんかじゃどうにもならない現実があることくらい、子供は小さい頃からイヤというほど知ってるよ」と指摘する。いくら努力をしたって、夢がかなうとは限らない。むしろ、かなわないほうが多いだろう。努力して試験勉強をしても、合格する人もいれば、不合格に終わる人もいるのが現実だ。
個性という格差社会の底辺にいる出久の必死の努力が実る『僕のヒーローアカデミア』は、“努力ファンタジー”とでも言うべき作品なのかもしれない。努力で夢がかなう物語がひとつぐらいないと、やってられない現実をみんな生きている。
さて、本日放送の第4話「スタートライン」は、出久たちが模擬バトルに挑むお話。激しいバトルが楽しみだ。それではご唱和ください、「Plus Ultra!(さらに向こうへ)」。
(大山くまお)
超能力の一種である“個性”をまったく持たない“無個性”の少年、緑谷出久(いずく)。周囲にバカにされながらもヒーローを目指す出久の前に、憧れのNo.1ヒーロー、オールマイトが現れる。
無個性ながら、幼馴染の爆豪勝己を助けようと考えるより先に体が動いた出久にヒーローの資質を見出したオールマイトは、自らの個性“ワン・フォー・オール”を授けようと提案。出久は「お願いします」と即答する。
トレーニングの中身とは――通常の筋トレなどに加えて、資源ゴミで汚れた海岸をたった一人でキレイにすること。巨大な冷蔵庫やら何やらを片付けなければならないんだから、これはキツイ。でも、鍛えるなら普通のトレーニングだけでいいんじゃない? しかし、オールマイトはこう語る。
「最近のヒーローは派手さばかり追い求めるけどね。本来ヒーローってのは奉仕活動。地味だなんだと言われてもそこはブレちゃあいかんのさ」
損得関係なく社会に奉仕することができる。これもヒーローの条件だ。片手で冷蔵庫を潰したオールマイトの背後から朝日が昇るカットがカッコいい。
雨の日も晴れの日も、早朝からトレーニングを行い、学校に通って、さらに海岸を片付け続ける出久。夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬になり、そして試験当日の朝。出久はオールマイトに指示された以上の区画をチリひとつない状態までキレイに仕上げてみせた。冷蔵庫の重さに泣いていた出久少年は、10カ月後、小柄ながらもビルドアップされた肉体を手に入れていた。これもすべて努力を続けてきたおかげ。晴れて出久はオールマイトから個性を受け継ぎ、雄英高校の入試に向かったのであった。
「努力」は子どもは大嫌い
前半をまるごと出久のトレーニングシーンにあて、後半を次回から始まる入試のガイダンスにあてた第3話。テーマはずばり「努力」だ。
『ソードアート・オンライン』のキリトや『魔法科高校の劣等生』の達也など、最初から無双状態の主人公が活躍するアニメが多い中、これほどまでに泥臭く努力してトレーニングする主人公も最近では珍しい。
「友情・努力・勝利」といえば、『僕のヒーローアカデミア』が連載している『週刊少年ジャンプ』の三大原則として知られている。3代目編集長を務めた西村繁男によると、すべての掲載作品にこの3つの要素のうち最低1つを入れることが編集方針になっているのだという(『さらば、わが青春の「少年ジャンプ」』より)。『僕のヒーローアカデミア』に関しては、「努力」がクローズアップされた作品だと考えていいだろう(後に「友情」と「勝利」も前面に出てくる)。
ところで、6代目編集長として部数が落ち込んでいた『ジャンプ』を立て直した鳥嶋和彦は、「友情・努力・勝利」という方針について、「ああ、全く無意味ですね。あんなのはバカが言うことですよ」と一刀両断している(伝説の漫画編集者マシリトはゲーム業界でも偉人だった! 鳥嶋和彦が語る「DQ」「FF」「クロノ・トリガー」誕生秘話)。
「『友情』と『勝利』は正しいんです。でも、『努力』は子どもは大嫌いなんです」
こう語る鳥嶋は、自身が編集を担当した『ドラゴンボール』(鳥山明)でも、悟空が努力をしているシーンをことさらに強調しなかったという。鳥嶋が言わんとしていることはよくわかる。子どもだけでなく、大人だって努力はあまり好きじゃない。好きじゃないからこそ、「努力は大切だ」と何度も強調されるのだ。昨今の最初から無敵の主人公たちは、努力が嫌いな視聴者たちのニーズを汲み取った存在なのかもしれない。
鳥嶋はさらに、「『努力』なんかじゃどうにもならない現実があることくらい、子供は小さい頃からイヤというほど知ってるよ」と指摘する。いくら努力をしたって、夢がかなうとは限らない。むしろ、かなわないほうが多いだろう。努力して試験勉強をしても、合格する人もいれば、不合格に終わる人もいるのが現実だ。
個性という格差社会の底辺にいる出久の必死の努力が実る『僕のヒーローアカデミア』は、“努力ファンタジー”とでも言うべき作品なのかもしれない。努力で夢がかなう物語がひとつぐらいないと、やってられない現実をみんな生きている。
さて、本日放送の第4話「スタートライン」は、出久たちが模擬バトルに挑むお話。激しいバトルが楽しみだ。それではご唱和ください、「Plus Ultra!(さらに向こうへ)」。
(大山くまお)