株の儲け方「凡人」と「一流」の違いはどこにあるか

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わが家の家計に稲盛和夫なら何とアドバイスするだろうか――。経営者の勉強会「盛和塾」で直々に哲学を学んでいる2人のファイナンシャル・プランナーに徹底取材した。

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Q. 「株価が急上昇中の注目企業」と「経営方針や事業内容に共感する企業」、どちらの株に投資するか。

【ヒント】短期的に株で儲けようと思ったら前者が魅力的だが、以前、大手証券会社で仕事をしていた税理士の伊藤正孝氏によれば、「株は“勝つ人”と“負ける人”がいるゼロサムゲームの世界。アマチュアの個人とプロの機関投資家とでは、知識の量と情報の速さで大差があり、個人はなかなか勝てない。短期勝負では、総じて損をする結果になるでしょう」。保険コンサルタントの佐々木昭人氏の顧客も、「(短期売買では)損した人のほうが多い」。稲盛流の株式投資は、後者を選ぶのが正解だ。その極意を解説してもらおう。

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■FP 佐々木昭人氏・伊藤正孝氏の回答

A. 「お金でお金を稼いではならない」。盛和塾での稲盛和夫塾長の言葉に、伊藤正孝氏は新鮮な驚きを覚えたという。

「証券会社で仕事をしていたのはバブル期で、お金でお金を稼げといわれました。会社の従業員が働いて利益を稼げば、銀行がお金を貸してくれる。それを株や不動産などに投資して稼ぐ。そうして稼いだお金はありがたみが薄いので、使うときも湯水のように使う。お金でお金を稼ぐようになると、従業員たちも仕事へのやる気がなくなる。そんな例を多く見ました。個人も同じです。短期売買で儲かると、湯水のように使い、働く意欲も失せていく。最後は知識の量と情報の速さに勝るプロの機関投資家とのゼロサムゲームに負け、損することになるのです」

これが凡人の株式投資。一方、稲盛哲学では、単に知識や情報を持つだけでなく、「こうありたい」という一本筋のとおった信念がともなうと、知識は「見識」に変わるとされる。見識を持つ一流人の株式投資はどんなものか。伊藤氏が話す。

「それは、企業を応援する意味での投資です。目指す大義、社会貢献への考え方、飽くなきチャレンジ精神……など、共感できる企業を応援するために中長期的に株を持つ。そうした企業は持続的な成長も期待できるはずです」

では、株式投資に回す資金はどう捻出すればいいのか。佐々木昭人氏も、「企業応援型の運用」をすすめる点では同意見だが、その資金は「なくなってもいいお金でやるべきだ」という。

「住宅購入費用や子供の将来の教育費、老後の資金といった、目的が決まっているお金を増やす手段としては、株式投資は不適切だと思います。減るリスクがあるからです。仮に減ってもさほど困らない資金を使うべきでしょう」

佐々木氏自身は、NISA(少額投資非課税制度=株や投資信託などの運用益や配当金が一定額非課税になる)の利用を始め、日本株の投信で運用しているそうだ。

「利回りより、“頑張れニッポン”の応援です。非課税期間の5年後、増えていたら、2020年の東京オリンピックの観戦費用にする。遊ぶお金なので、仮になくなっても困りません」

稲盛氏はよく、中国古典から引用するが、儒教の教典「四書五経」の一つ、「書経」の中のこんな言葉を多用する。「満は損を招き、謙は益を受く」。株も、短期売買で儲かっても、おごり高ぶるものは損をし、一方、中長期的な視野を持ち、謙虚なものは利益を得る。これが稲盛流の株式投資の極意だ。

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 【稲盛哲学】満は損を招き、謙は益を受く⇒お金でお金を稼いではならない

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佐々木昭人
ファイナンシャル・プランナー。ロムルス代表取締役。
1972年生まれ。生命保険の営業を経て、2007年より現在の事務所を立ち上げ、生命保険のコンサルティングを行う。09年より盛和塾新潟に参加している。
 
伊藤正孝
税理士、ファイナンシャル・プランナー。
1960年生まれ。プライス・ウォーターハウス・クーパースを経て、2004年に伊藤正孝税理士事務所を立ち上げる。稲盛氏の勉強会「盛和塾」では盛和塾横浜の元会計担当事務局を務めた。

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(ジャーナリスト 勝見 明=文 相澤 正=撮影)