まとめ買い需要などで大型化が進む冷蔵庫において、課題となっているのは“おいしく保存”すること。その鍵を握るのがチルドルームだ。冷蔵よりも低い約0〜2℃で保冷するのがチルドルームだが、マイナスの室温にしながらも凍らせない機構を備えることで冷蔵室よりも長期間保存でき、冷凍室よりも劣化させず保持できるようにしている。手法はメーカーにより異なるが、今回はパナソニックが採用している「パーシャル」という保存方法についてレクチャーを受けてきた。どれほど“おいしさ”に差がでるのだろうか。

最上位モデル「NR-F611WPV」を用いて解説する。サイズは740(幅)×1,828(高さ)×733(奥行)mmで、定格内容積は608L

パーシャルと冷凍はどう違う?

「NR-F611WPV」には冷蔵室、チルド室、冷凍室、野菜室が用意されており、冷蔵室は約3〜6℃、チルドは約0〜2℃、冷凍室は約-18〜-20℃、野菜室は約3〜8℃とそれぞれ室温が異なるのと同時に、保存期間も変わってくる。たとえばイワシを保存した場合、冷蔵なら約3日、チルドでは約4日しか保存できないのに対し、冷凍は約1か月保存しておける。長期間保存しておくためには冷凍を選ぶしかない。

「NR-F611WPV」の冷凍室の容量は125L。100%全開になるように引き出せるので、奥に入れたものも取り出しやすい

冷凍室に入れた食品はカチカチに凍る

冷凍室に入れた食品はカチカチに凍る

冷凍室は保存期間を延ばせるが、味は劣化してしまう。なぜなら、食材の細胞が破壊されるからだ。食材の細胞のまわりには外液(水分)があり、冷凍するとその外液が凍る。水を凍らせると膨張するように、食材の外液も膨張するため細胞が傷つく。解凍時にドリップが出るのは、凍った時に細胞が傷ついたことが原因だ。これにより、味だけでなく食感も落ちてしまっていた。

凍らせた食材を解凍するとドリップが出てしまう(右)。また、解凍に時間がかかるため、レンジを利用すると火がとおってしまい、さらに味が損なわれることも(左)

つまり、細胞破壊せずに保存できればおいしさは保持できるというわけだ。しかし、冷蔵では保存期間が短か過ぎる。そこで利用したいのが、パーシャル保存。パーシャルとは部分的に凍らせる「微凍結」状態にする保存方法のことで、冷蔵と冷凍の中間の温度帯となる約-1〜-3℃で保冷される。食材の細胞のまわりにある外液が少し凍る程度で留まるため、“細胞は傷つかずに済む=おいしさも維持”となるそう。もちろん、冷蔵よりも低温度なのでイワシの場合約7日間の保存が可能に(冷蔵室では約3日間)。このようなパーシャル保存できる機構はチルド室に装備されており、チルドかパーシャルかを選択できるようになっている。

冷蔵庫の一番下にあるのがチルド室

冷蔵室の一番下にあるのがチルド室

チルド室は、チルド(約0〜2℃)かパーシャル(約-1〜-3℃)に切り替えできる

チルド室は、チルド(約0〜2℃)かパーシャル(約-1〜-3℃)に切り替えできる

ワイドな横幅で、30Lの容量を確保。魚を丸ごと入れても余裕だ

ワイドな横幅で、30Lの容量を確保。魚を丸ごと入れても余裕がある

パーシャル/チルド室の庫内には温度センサーが搭載されており、ドアを開閉しても室温を一定にできるようにしている。また温度ムラができないように、冷気は天面からシャワーのように降り注ぐ

中央にあるのがパーシャル保存されたささみ。一見、冷蔵室で保冷されていた左のささみと同じに見えるが、触ってみると表面がわずかに凍っていることを感じる。パーシャル保存は冷凍(右)のようにカチカチにならないので、解凍せずに包丁で切ったり調理できるのも魅力だ

冷蔵、パーシャル、冷凍した際に食材の細胞がどのようになるのかを図解したもの。パーシャルはほぼ冷蔵と同じような状態で細胞が維持できている。冷凍したものは細胞の中まで凍ってしまい、細胞が壊されてしまう

パーシャル保存と冷凍保存の味の差は?

パーシャル保存でどれほど味が変わるのかを、焼いた牛もも肉でチェック。冷凍室とパーシャル室に7日間保存されたもので味比べしてみた。

焼肉用の厚切り肉。どちらがパーシャル保存か見た目ではわからない

焼肉用の厚切り肉。どちらがパーシャル保存か見た目ではわからない

薄切り肉も、見ただけでは保存方法は判断できず

薄切り肉も、見ただけでは保存方法は判断できず

このように外観からはパーシャルか冷凍かは見当もつかないが、食べるとその差は明確! 冷凍保存した肉はパサパサとした食感で、噛んでいても引っかかりを感じた。いっぽうパーシャル保存した肉は柔らかく、噛むとおいしさがギューっと出てくる(つまりは旨味が残っているということかも!?)。ちなみに、赤いシールの付いているほうがパーシャル保存だ。

筆者が食べ比べで感じた味の差は、“味博士”と呼ばれる鈴木隆一氏が代表取締役社長を務める味覚に関する研究を行うAISSYでも証明された。味覚を分析する専用装置を用いて調査したところ、パーシャルと冷凍、そしてチルドではコクと旨味に有意差(95%以上の人が認識できること)が出たという。

試食したものと同じように、それぞれの部屋で7日間保存した後の味覚調査の結果。冷凍よりもチルドのほうが旨味やコクは高いが、パーシャルはさらに高い数値に。ちなみに、0.2以上の数値差が出ないと有意差にはならない

牛もも肉のほかに、豚ロース肉(7日間保存)とまぐろ(3日間保存)の味覚調査も実施。いずれも有識差となる0.2以上の差が旨味とコクで表れた

実は、パーシャル保存は新搭載の機能ではない。1984年に日本で初めてパーシャル機能付き家庭用冷蔵庫を発売したのはパナソニック。30年以上前から採用されている保存方法だ。今回、そのパーシャル保存が進化。食品の鮮度劣化の要因の1つとされる酸化を防ぐため、素早く冷却する「オート急冷」を装備した。「オート急冷」とは冷気の吹き出す量を従来の約1.3倍とすることで、まず最初に食品の表面を微凍結にして食品内への酸素の侵入を防ごうというものだ。「オート急冷」により、買った日の鮮度維持がより長くできるという。

「オート急冷」は一定時間急速に冷却された後、通常の微凍結に自動で切り替わる

「オート急冷」は一定時間急速に冷却された後、通常の微凍結に自動で切り替わる

※パーシャル保存(微凍結パーシャルと称されている)が搭載されている同社冷蔵庫(WPV・XPV・PVタイプ)でも、「オート急冷」が装備されていないこともある。非搭載となるのは「NR-F560PV」「NR-F510PV」「NR-F470PV」「NR-JD5100V」。


>> 凍らせずに約-3℃で保冷する「微凍結パーシャル」で味が変わるのか試食チェック! の元記事はこちら