10月5日、北里大学特別栄誉教授の大村智氏がノーベル医学生理学賞、10月6日には東京大学教授の梶田隆章氏がノーベル物理学賞を受賞。2日連続の栄誉に日本中が沸いた。

「科学者は人のためにやることが大事だ」(大村智・北里大学特別栄誉教授)

「この研究は何かすぐ役に立つものではないが、人類の知の地平線を拡大するようなもの」(梶田隆章・東京大学教授)

ノーベル賞受賞後の会見でこう語ったふたり。方向性は異なるように見えるが、ふたりによって人類の未来が大きく開けるのは間違いない。

大村教授の受賞理由は、寄生虫病の治療薬『イベルメクチン』の開発が評価されたことだが、この薬はアフリカや中南米で猛威をふるっていた風土病『オンコセルカ症(河川盲目症)』の特効薬。

『オンコセルカ症』とは回旋糸状虫という回虫が寄生することによって起こる病気で、患者の2割が失明の危機にさらされていた。しかし大村教授の発明で、今でも年間3億の人が救われているという。

「実はこの『イベルメクチン』は犬のフィラリア症の薬としてよく知られています。この薬のおかげで助かった犬も多く、平均寿命が10年も延びました」(都内動物病院の獣医)

大村教授は愛犬家にとっても救世主であったのだ。また大村教授は優秀な科学者であるだけでなく、多彩な趣味の持ち主であることも知られている。

ゴルフも大好きで、ゴルフ場で採取した土に含まれていた細菌から『イベルメクチン』が生まれたのもあながち偶然とはいえないだろう。

また絵画にも造詣が深く、私費をなげうって故郷である山梨県の韮崎市に『大村美術館』を設立。それだけでなく、展示してある美術品ごと市に寄贈している。

そんな大村教授は15年前に最愛の妻である文子さんを亡くしている。会見で、受賞の喜びを誰に伝えたか聞かれると、「亡くなった家内に。もらいましたよ、と」と語った。

近所の住人の話では、文子さんが元気なころはふたりで仲よく外出する姿も見られ、海外に行くときも一緒のことが多かったという。今は毎朝決まった時間に散歩に出かけていたという。

「あんな偉い方なのに、会えば丁寧に帽子を取って、気さくに話しかけてくださいますし、ゴミの日はご自分でゴミを出されたりしているんですよ」(近所の主婦)

一方、56歳という若さで受賞した梶田教授の研究は、凡人には難解極まりない『ニュートリノ研究』。『ニュートリノ』とは、それ以上分割できない素粒子のひとつで、この研究は物理学の最先端を行くといっても過言ではない。

『ニュートリノ』といえば’02年にノーベル物理学賞を受賞した元東大教授の小柴昌俊さんが思い出されるが、梶田教授は小柴さんの研究を引き継ぎ、『ニュートリノ振動』という現象をとらえることに成功。かつて重さ(質量)がないとされていた『ニュートリノ』に重さがあることを証明した。

この発見が宇宙の誕生や物質の起源を解明する大きなカギになるとみられている。

そんな偉大な科学者を夫に持った梶田教授の妻・美智子さんは、テレビの取材を受けてこう語った。

「家ではあまり研究の話はしません。研究者っぽくないと思います。普通のおじさんって感じですね」

そしてノーベル賞受賞者となったふたりには、こんな共通点が。

ふたりとも東大、京大といった旧帝国大学出身のエリートではなく、かつて国立二期校と呼ばれていた地方の国立大学の出身。大村教授は山梨大学。梶田教授は埼玉大学。

「微生物の力を借りているだけ。私が偉いことをしたのではない」(大村氏)

「カッコいいものは持ち合わせていない。きちんと研究を進めてきたのがよかったと思う」(梶田氏)