今シーズン、日本人大リーガーは春先から故障者が続出。まずダルビッシュがヒジの腱の断裂でトミージョン手術を受けることになり、開幕前に全休が確定した。
 さらに上原浩治と和田毅がハムストリング(大腿二頭筋)、藤川球児が腿の付け根を痛めて開幕時故障者リストに入り出遅れた。
 開幕後も故障ラッシュは続き、4月下旬に田中将大が右手首、岩隈久志が肩の広背筋を痛めてDL入り。それにより日本人の先発投手が1人もいない状態がひと月ほど続いた。
 その後5月下旬に和田毅が復帰してそれは解消されたが、その和田も6月下旬に左肩の三角巾を痛めて再度故障者リスト入り。同時期に青木宣親も死球を右足に受けて骨折し戦列を離れた。青木は7月下旬に復帰したが8月上旬に今度は死球を頭に受けて昏倒。さらに数日後に守備でフェンスに激突して頭を強打し脳震盪の後遺症に苦しむようになる。
 8月にはもう一つ、上原浩治がピッチャー返しの痛烈なゴロを手首に当てて骨折。シーズン終了まで戦列を離れることになった。
 9月になると、レッドソックスの田澤純一が登板過多から打ち込まれることが多くなったため、チームはシャットダウンすると発表。それにより、今シーズンはメジャー契約した9選手のうち、フルシーズン無傷でプレーしたのは41歳のイチローだけになった。

 これだけ故障者が多いと当然、稼働率が低くなるので、年俸の多くが“死にガネ”になる。今季、メジャー契約をした9人の日本人選手の年俸総額は6075万ドル(72.9億円)だが、死にガネになったのは、その44.4%の2700万ドル(約32.4億円)に達した。
 そこまで多くなったのはトミージョン手術でダルビッシュの年俸1000万ドル(12億円)がすべて死に金になったほか、高額年俸選手が次々に故障して、田中将大の年俸(2200万ドル=26.4億円)の25%、上原浩治の年俸(900万ドル=10.8億円)の36%、和田毅の年俸(400万ドル=4.8億円)の75%、岩隈久志の年俸(650万ドル=7.8億円)の40%が死にガネになったからである。選手に支払われたカネの44.4%が死にガネになったことは、大リーグの各球団に日本人選手に対する評価を見直すきっかけを与える可能性がある。球団経営で許容される「死にガネ率」は2割くらいまでで、それ以上になるとGMの資質を問われかねないからだ。

 懸念されるのは「日本人投手=ガラスの腕」というイメージが拡散することだ。そうなればこれまでのように日本のトップ投手にメガ・コントラクト(契約規模1億ドル=120億円以上、契約期間6年以上の超大型契約)をオファーする球団が現れなくなる可能性がある。実際、日本人投手に距離を置き始めた球団もある。
 「松坂大輔がちゃんと働いたのは6年契約のうち最初の2年だけ。ダルビッシュは2年半フル稼働したが、そのあとの1年半はゼロ稼働だ。田中将大に至ってはフル稼働したのは最初の半年だけだ。しかも松坂とダルビッシュはトミージョン手術を受け、田中も遠からず仲間入りするだろう。次に日本からどんな大物が来ようと、結果は彼らと同じになるだろう。3年5000万ドルくらいの契約ならリスクはないけど、6年1億ドル規模の契約はあまりにもギャンブルだ」(大リーグ球団の幹部スカウト)

 日本人投手は投資効率が悪いという認識が広がった場合、被害を受けるのはメジャー挑戦を予定している大物投手たちだ。
 その代表格は広島カープの前田健太と日ハムの大谷翔平だが、被害の度合いはマエケンのほうがはるかに大きいと思われる。米国では体の小さい投手は故障しやすく、投手生命も短いと思われがちだからだ。
 「大谷翔平は体が大きいし、今のところ故障歴もない。このままいけば2、3年後にメガ・コントラクトでメジャーに来ると思うよ。しかし前田は違う。スライダーは米国でも十分通用すると思うが、骨格が細いうえ、ヒジの故障歴もある。速球の威力も十分とは言えない。もし6年契約を交わしたら、きっと半分以上が死に金になるよ」(同)