今治西vs新田
試合前ノックを打つ今治西・大野 康哉監督
試合終了の瞬間、なんともいえぬ空気が坊っちゃんスタジアムを包んだ。2年連続17度目の今治西・優勝に対してではない。「試合内容の改善」が最後まで見られなかったことに対してである。
まずは勝った今治西。
5回まで7対3とリードして迎えた6回以降、当然長打を最初に防ぐ場面で三塁手はライン際を空け、立て続けに三塁線を抜かれて2点を失う要因を作り試合を難しくした。
9回には新田3番・眞田 康弘(2年・174センチ68キロ・右投左打・松山ボーイズ出身)が定位置すぐ横への中前打に対し、緩慢な返球の間に二塁打とした。
これらのプレーには「当初は他の選手を先発させることを考えていたが、選手たちから話があって先発させることを決めた」(大野 康哉監督)。連投の金本 遼(1年・176センチ67キロ・右投右打・今治市立北郷中出身)の負担を少しでも軽減させようとする姿勢は見えない。
「そうだよね」。試合後、筆者の指摘に対し短く返した大野 康哉監督の表情にも、明らかに悔しさが漂う。腕が全く振れていなかった新田先発・田中 蓮(2年・177センチ69キロ・右投右打・松山市立小野中出身)の不調を見逃さず3点を奪った先制攻撃は見事だっただけに、県内・四国では定評のある「堅守」とは程遠いこの試合での姿は残念を超える「無念」の一語に尽きる。
裏を返せば新田が今治西の緩みを見逃さなかったということ。県大会1回戦の西条戦の最終第4打席の中前打から9打席連続安打、11打席連続出塁(準々決勝・丹原戦3打数3安打、準決勝・小松戦4打数4安打、決勝戦は中前打・四球・二塁内野安打・左飛・中飛)の6番・黒川 貴章(1年・三塁手・178センチ69キロ・右投右打・愛媛ボーイズ出身)による壮挙を含め、彼らには一定の評価を与えられる。だが、敗因はこれも「しなければならないこと」を怠ったことによるものであることを指摘せざるを得ない。
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2年連続で秋の愛媛県大会を制し、ダイヤモンドを一周する今治西の選手たち最も象徴的なのは3点を奪い3対4と追いすがった直後の3回裏。一死二、三塁の場面で今治西・杉野 彰彦(2年・右翼手・173センチ67キロ・右投右打・今治市立西中出身)が、中前にはじき返す適時打を放ったシーン。この時、中堅手はカットマンに返し二塁走者の生還を防ぐ場面なのに、すでに三塁走者が駆け抜け、二塁走者が三塁に留まっているにも関わらず本塁へダイレクト送球。捕手が後逸しボールが点々とする間にさらに1点。打者走者も二塁へ。この回はさらに1点を奪われ、再び主導権を今治西に譲り渡してしまった。
「あの場面は間に合わないのにカットマンに返さず本塁に投げ、後逸した後にいるべき投手もカバーリングをしていなかった。ウチも含めどこも今治西に対して流れを持ってくることができなかったことは、心の弱さですね」。
新田・岡田 茂雄監督は冷静にそのシーンを振り返りつつ、敗者の責任を語る。「しなければならない」ことを怠っているチームが、それ以上に怠っているチームに漁夫の利を得る形で頂点を極める愛媛県高校野球。単純な実力不足以上に現状は深刻である。
野球の世界でも野球以外の世界でも、自らがミスをしながら相手に自分以上のミスを望む「自滅待ち」の思考では全国・世界で戦えない。世の情勢を見渡せばこれからは生きていくことすら困難となってくるだろう。
「これでいい、のか?」。いいわけがない。筆者も含め、この決勝戦で噴出した事象から目を背けず、春までに一致団結して解決策を導き出すこと。そこを真剣に議論し、取り組める下地はまだ「野球王国」にあるはずだ。
(文=寺下 友徳)
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