衆愚に流されず東京五輪エンブレム現行案を堂々と採用すべき
2020年東京五輪のエンブレムが、ベルギーのリエージュにある劇場のロゴに似ているとされる問題で、デザインを考案した佐野研二郎氏が記者会見に臨みました。
そこで説明された内容は極めて明瞭に、デザインのオリジナリティを提示するものでした。正方形の中央を抜いて作られた「丸」によって1964年大会エンブレムの「日の丸」を継承するというコンセプト。9分割した正方形に幾何学的なパーツを配置するという基本パターン。パーツの組み合わせを変えることで、アルファベットを含むさまざまなパターンへと展開できる拡張性。パラリンピックエンブレムと対になるという点。それらは「単にTとLを組み合わせただけ」のベルギー・リエージュ劇場のロゴとはまったく異なるものであり、総体としてのオリジナリティでははるかに凌駕するものだったと言えます。
そもそも、リエージュ劇場のロゴは「商標登録をされていない」ことが確認されていますし、著作物性で争うにしても「文字の組み合わせによるマーク等については著作物性がない」とするのが一般的です。ベルギー側もデザイナーであるならば、当然そうした常識を知っているはずであり、それでもなお突っかかってくるのは売名行為か金銭目当てと訝しまれても仕方ないところでしょう。
そうした先方の実態を端的に示すのが、「東京五輪エンブレムと劇場ロゴのフォントが同じである」というベルギー人デザイナー側の主張です。
フォントはほんのわずかなカーブや線の長さ・太さ、全体のバランスの違いによってさまざまに種類がわかれるものです。双方のマークに示されている「T」においては、中央の縦線と横の出っ張り部分において、「隙間がある」リエージュ劇場ロゴのTと、「ぴったりくっついている」東京五輪エンブレムのTは、明らかに別物です。東京五輪エンブレムには右肩「心臓の位置」に日の丸もついており、およそ誤認するようなものではありません。
またマーク下の「THEATRE」「TOKYO2020」のフォントも、先頭のTの字で比較するとリエージュ劇場ロゴの文字よりも東京五輪エンブレムの文字のほうが、横棒の端の処理が「先端に向けてじょじょに細くなる」「折れ曲がる部分のカーブがより緩やかで円に近い」という明らかな違いがあります。これはフォントに無頓着な一般人には「どちらも同じT」にしか見えないかもしれませんが、デザイナー同士であれば同じフォントであるなどとは恥ずかしくて言い出せないほどの大きな違いです。
ベルギー人デザイナーが自身のツイッターにアップした比較動画では、「TOKYO2020」のTの字だけを「THEATER」のTに置き換えて、さも同じフォントであるかのように見せかけています。しかし、そうした置き換えを行なったことにより、比較動画における東京五輪エンブレムはKやYの最下部についている横棒に比べて、Tの最下部についている横棒が細くなってしまっています。このような手段で類似性を主張するのは、ベルギー人デザイナー自身も「別のフォントだな」と本心では理解しているからでしょう。<ベルギー人デザイナーがツイッターに投稿した、ふたつのマークの類似性を主張する比較動画>
佐野氏は記者会見で「Didotというフォント、Bodoniというフォントから影響を受けた」と語っていましたが、このふたつの違いはわかりましたでしょうか。よく見るとDidotのほうが横棒が細くなっており、セリフと呼ばれる横棒先端の飾り部分が直角に曲がっています。このようなわずかな違いによって、Didotは女性的で優美、Bodoniは男性的で力強い、といった印象の違いを生むのです。それがフォントです。そうしたことを理解せず、あるいは意図的に無視して東京五輪エンブレムに難癖をつけてきたベルギー人デザイナーの姿勢は、デザイナーの資質としても疑義を持たれるものでしょう。
<DidotとBodoni、ふたつのフォントを説明する佐野氏>
「このエンブレム自体への好き・嫌い」は個々人で当然あるでしょう。ただ、「好き・嫌い」あるいは「五輪そのものへの賛成・反対」によって、「似ているかどうか」あるいは「パクりかどうか」についての判断を下すのは筋違いです。ましてや、佐野氏の真摯な説明に耳を傾けることも理解することもなく、思い込みや個人的感情に基づいて批判の大声を上げるのは衆愚とも言える行為です。理は東京五輪エンブレム側にあり、何ら恥じることなく、堂々と、このエンブレムを採用して問題ないのです。
「どこの誰ともわからないデザイナーが作った、どこの何かもわからない劇場の、商標登録もされていないロゴマークが、東京五輪エンブレムと一部分において似通っていた」というだけの事例を、さも大問題かのようにしているのは日本の衆愚です。組織委員会には衆愚に流されることなく、毅然とした態度で事態の収拾に臨んでもらいたいところ。
私は、現行エンブレムの採用に、積極的に賛成します。
個人的には好きなデザインではないですが、現状の「パクり疑惑」に同調することのほうが、もっと恥ずかしいからです。
<佐野氏、東京五輪組織員会による記者会見動画>
(文=フモフモ編集長 http://blog.livedoor.jp/vitaminw/)
そこで説明された内容は極めて明瞭に、デザインのオリジナリティを提示するものでした。正方形の中央を抜いて作られた「丸」によって1964年大会エンブレムの「日の丸」を継承するというコンセプト。9分割した正方形に幾何学的なパーツを配置するという基本パターン。パーツの組み合わせを変えることで、アルファベットを含むさまざまなパターンへと展開できる拡張性。パラリンピックエンブレムと対になるという点。それらは「単にTとLを組み合わせただけ」のベルギー・リエージュ劇場のロゴとはまったく異なるものであり、総体としてのオリジナリティでははるかに凌駕するものだったと言えます。
そうした先方の実態を端的に示すのが、「東京五輪エンブレムと劇場ロゴのフォントが同じである」というベルギー人デザイナー側の主張です。
フォントはほんのわずかなカーブや線の長さ・太さ、全体のバランスの違いによってさまざまに種類がわかれるものです。双方のマークに示されている「T」においては、中央の縦線と横の出っ張り部分において、「隙間がある」リエージュ劇場ロゴのTと、「ぴったりくっついている」東京五輪エンブレムのTは、明らかに別物です。東京五輪エンブレムには右肩「心臓の位置」に日の丸もついており、およそ誤認するようなものではありません。
またマーク下の「THEATRE」「TOKYO2020」のフォントも、先頭のTの字で比較するとリエージュ劇場ロゴの文字よりも東京五輪エンブレムの文字のほうが、横棒の端の処理が「先端に向けてじょじょに細くなる」「折れ曲がる部分のカーブがより緩やかで円に近い」という明らかな違いがあります。これはフォントに無頓着な一般人には「どちらも同じT」にしか見えないかもしれませんが、デザイナー同士であれば同じフォントであるなどとは恥ずかしくて言い出せないほどの大きな違いです。
ベルギー人デザイナーが自身のツイッターにアップした比較動画では、「TOKYO2020」のTの字だけを「THEATER」のTに置き換えて、さも同じフォントであるかのように見せかけています。しかし、そうした置き換えを行なったことにより、比較動画における東京五輪エンブレムはKやYの最下部についている横棒に比べて、Tの最下部についている横棒が細くなってしまっています。このような手段で類似性を主張するのは、ベルギー人デザイナー自身も「別のフォントだな」と本心では理解しているからでしょう。<ベルギー人デザイナーがツイッターに投稿した、ふたつのマークの類似性を主張する比較動画>
Théâtre de Liège vs Tokyo 2020
#Tokyo2020 #ThéâtredeLiège #plagiat? pic.twitter.com/u64MpWBAI2
— Olivier Debie (@OliDebie) 2015, 7月 28
佐野氏は記者会見で「Didotというフォント、Bodoniというフォントから影響を受けた」と語っていましたが、このふたつの違いはわかりましたでしょうか。よく見るとDidotのほうが横棒が細くなっており、セリフと呼ばれる横棒先端の飾り部分が直角に曲がっています。このようなわずかな違いによって、Didotは女性的で優美、Bodoniは男性的で力強い、といった印象の違いを生むのです。それがフォントです。そうしたことを理解せず、あるいは意図的に無視して東京五輪エンブレムに難癖をつけてきたベルギー人デザイナーの姿勢は、デザイナーの資質としても疑義を持たれるものでしょう。
<DidotとBodoni、ふたつのフォントを説明する佐野氏>
五輪エンブレム制作者の佐野研二郎氏が5日午前、都内で会見。「そもそも見てないので模倣ではない。全くの事実無根」と盗用を否定した。 http://t.co/vRl45ip6w3
— BLOGOS編集部 (@ld_blogos) 2015, 8月 5
「このエンブレム自体への好き・嫌い」は個々人で当然あるでしょう。ただ、「好き・嫌い」あるいは「五輪そのものへの賛成・反対」によって、「似ているかどうか」あるいは「パクりかどうか」についての判断を下すのは筋違いです。ましてや、佐野氏の真摯な説明に耳を傾けることも理解することもなく、思い込みや個人的感情に基づいて批判の大声を上げるのは衆愚とも言える行為です。理は東京五輪エンブレム側にあり、何ら恥じることなく、堂々と、このエンブレムを採用して問題ないのです。
「どこの誰ともわからないデザイナーが作った、どこの何かもわからない劇場の、商標登録もされていないロゴマークが、東京五輪エンブレムと一部分において似通っていた」というだけの事例を、さも大問題かのようにしているのは日本の衆愚です。組織委員会には衆愚に流されることなく、毅然とした態度で事態の収拾に臨んでもらいたいところ。
私は、現行エンブレムの採用に、積極的に賛成します。
個人的には好きなデザインではないですが、現状の「パクり疑惑」に同調することのほうが、もっと恥ずかしいからです。
<佐野氏、東京五輪組織員会による記者会見動画>
(文=フモフモ編集長 http://blog.livedoor.jp/vitaminw/)