会場では多数の写真などのアーカイブのほか、著名デザイナーたちが山口小夜子のためにデザインした作品なども展示。
ー「三宅一生『馬の手綱』を着た小夜子」 撮影:横須賀功光 1975年ー

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猫科の動物を思わせる切れ長の瞳、日本人形のようなおかっぱの黒髪――。アジア人初のパリコレモデルとして、世界の第一線で活躍していた山口小夜子。
たとえファッションや海外事情に明るくなくても、70年代の資生堂のCMなどでの艶めかしい姿を記憶している人は多いのではないだろうか。

ハーフモデルなど欧米人風のビジュアルがもてはやされていた70年代、日本女性ならではの美しさを国内外に知らしめたのが彼女だった。
モデルや女優、デザイナーとして長きに渡り活躍したのち、ファッションだけでなく音楽や映像、演劇、朗読、ダンスなどを組み合わせたパフォーマンスにも力を注いでいたが、2007年に残念ながら急逝。東京都現代美術館で6月28日まで開催中の『山口小夜子 未来を着る人』展はそんな彼女の軌跡を紹介する展覧会なのだが、モデル自身をテーマにしたアート展というのはかなり珍しいケースではないだろうか。

会場では専属モデルを務めていた資生堂のアーカイヴなどからの写真や資料を公開するほか、著名デザイナーたちが彼女のためにデザインした作品などを、彼女のスタイルをモチーフにした“小夜子マネキン”を使って展示。また晩年に展開していた、音楽や映像、ファッションなどを組み合わせた総合芸術的なパフォーマンスを高画質映像で蘇らせるという試みも。

こういった、いわゆる回顧展的な展示のほかに注目したいのが、映像作家の宇川直宏ら、彼女とのコラボレーションを経験しているアーティストたちが“山口小夜子に捧げる新作インスタレーション”を発表していること。さらに、彼女の急逝直前に新聞紙上で往復書簡を掲載予定だったという現代芸術家の森村泰昌も加わって新作を発表しているが、セルフポートレートの手法を使った作品で世界的に知られる森村が一体どんな作品を作り上げたのかも、本展の大きな見どころの一つと言えるだろう。

イラストレーター&アートディレクターのエド・ツワキが、「小夜子さんいるなあと思った…」とツイッターでつぶやいていたように、会場のそこかしこから彼女の気配が感じられた、という感想も多い本展。なぜ山口小夜子はその死後もこれほどまでに、生命力に満ち溢れた存在なのだろうか。

「『着る』という、誰でも行っている行為をパフォーマンスや思想にまで磨き上げ、70年代から21世紀に至るまで、常に『かっこいいこと』を追求し続けたその精神は、ジャンルにとらわれず何かを表現したいと思っているすべての人に勇気を与えるのだと思います。彼女とともに歩んできた同世代はもちろん、若い世代からも、潜在的に知っていた『美』が急に姿をもって現れたと言いますか、こんな人がいたのかという熱い反応を感じます。常に未来を向いていた小夜子にふさわしく、展覧会も単なる回顧展ではない形をとっています。肉体を失ってもなお、これからを生きる私たちに霊感を与えてくれる存在であり続けていることが、彼女の最も特別な資質ではないでしょうか」(東京都現代美術館 学芸員・藪前さん)

数々の展示のほか、山口小夜子の魅力を見るだけではなく体感できるイベント「Be Sayoko! 小夜子になりたい!」も開催。“小夜子メイク”を完成させたアーティスト、富川栄(資生堂 SABFA校長)氏によるメーキャップ・ワークショップ&トーク(5月16日)や、彼女が学んだダンス・メソッド「テン・ジェスチュア」を体験するワークショップ(5月31日)といった、彼女の魅力を立体的に楽しめる企画も用意されている。

自らを「ウェアリスト(着る人)」と名乗り、急逝するまでさまざまな分野で時代の最先端を駆け抜けた山口小夜子。永遠に生き続ける彼女のスピリットを、さまざまな展示やイベントを通して感じてみてほしい。
(古知屋ジュン)

【山口小夜子 未来を着る人】
会場:東京都現代美術館 企画展示室B2F
会期:〜6月28日
開館時間:10:00〜18:00(入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(5月4日は開館)、5月7日(木)
観覧料:一般1200円、大学・専門学校生・65歳以上900円、中高生600円、小学生以下無料(保護者の同伴が必要)