7月27日、自民党総裁選への出馬を表明する谷垣禎一財務相。(資料写真:吉川忠行)

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いち早く自民党総裁選への正式出馬を表明した谷垣禎一財務相。「消費税率を段階的に10%にする」とのコメントが、翌日の新聞の見出しに踊ったことが記憶に新しい。話が税金に関わるだけに反発も考慮したのかどうか、今週初めには「子どもをたくさん産んでくれる家庭には、所得税減税と児童手当で報いる」とする“子宝税制”を提唱して話題をまいた。

 今どき「子宝とは何とも古臭い…」などと感じてしまう部分もあった。しかし、この政策はもちろん、少子高齢化社会に対応した施策であることは間違いなく、税制面だけでなく少子化や労働力の不足に対応する手立てを考えることは、われわれに最も求められるビジョンであることも確かなこと。広く少子化について考えてみたい。

 まず、谷垣財務相の提唱した政策の中身は、未だ具体的なものとは言い難いが、所得税減税の中で子ども1人当たりの減税額を決め、子どもの数に応じて上乗せする仕組みだ。これに児童手当をさらに拡充することを組み合わせて、少子化対策を整備したい考え。一般の所得税減税は累進制なので、高額所得者の方が減税額はより大きくなる。しかし、子どもの数に応じた減税制度を取り入れれば、低所得層ほどその恩恵は大きくなるという考え方である。

 制度の導入自体に異論はない。非常に歓迎する向きも多いのではないかと思う。ただ、税制面のテコ入れだけでにわかに出生率が高まるかどうかは、大いに疑問だ。

 現在、日本の合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子どもの人数)は1.29(04年)。1971年には2.16もあった出生率は既に4割以上もその数字を減少させている。皆さんご存じのように、人口の増加のために必要な出生率は2.08であり、このままでは政府のさまざまな少子化対策に関わらず、日本の人口の安定や子どものための環境整備といったものの実現はかなり悲観的だろう。

 そもそも、日本の女性が子どもを産まなくなったのは、どういう原因によるものなのか。

 一般的な指摘の中では、出生率低下の大きな要因として挙げられるのは、結婚するカップルの数そのものの低下と晩婚化の傾向(既婚者の第一子出産時の平均年齢は28.9歳)。さらに、育児に対する経済的・社会的サポート体制の未整備などが取り上げられることが多い。

 これらのどれもが当たっていると考えるし、税制による優遇や児童手当の増額も、短期にはある程度の効果があると想像する。しかし、もっと大本の社会状況も考えねばならないだろうと、強く思う。

 その一つは、フリーターの増加や非正社員の膨張による所得格差の問題。正社員に比べて極端な場合で3分の1ほどの所得で女房・子どもを養えるとは到底思えない。そして、地球規模の環境悪化問題も外せない要因ではないだろうか。「子どもを安心して育てられる環境ではない」と話すカップルの話はよく聞くし、これは最近多発する子どもを対象にした犯罪の増加とも通底する話である。

 政治家に要望したいのは、こうした社会環境に対する総合的・複眼的な視点に基づくビジョンとその実行だ。おカネの問題だけではない意識の大切さ。子どもに“未来”を与えられる為政者・行政官こそが本来の公僕であることを、強く喚起しておきたい。【了】