『だから、Webディレクターはやめられない』

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野中郁次郎・一橋大学教授によると、21世紀の個人は「ナレッジワーカー」(知識労働者)として働く存在であり、企業組織で仕事をするにしても、自らが課した「規律」を守って働き、「何をなすべきか」を常に自分で考える存在であるという。そして、企業(会社)はもはやコントロールする主体ではなく、「成長したい」と考える個人に対して、そのための「場」を提供するものになるという。

 本書の行間からは、Webディレクターという、一般にはまだあまり馴染みのない「仕事」がとにかく楽しくてしかたがないという気持ちが、これでもかこれでもかとばかり伝わってくるが、著者は、まさに「ナレッジワーカー」なのだろう。本書は、「現在僕は、30歳。……この世界に入って約6年。……ようやく自分がWebディレクターとして活躍できるようになってきたかな、と感じます」と自己紹介する著者の、体験的Webディレクター論である。

 「Webディレクターという仕事」「Webディレクターとしての心構え」「Webサイト制作のコツ」が本書の主要部分だが、読み進むうちに不思議なことに気づく。小さな決断が必要だとか、実は地道で泥臭い仕事だとか、期せずして、本書が「仕事論」なっている点である。「人脈が重要だ」「待っていてはダメ」「オドオドしてはいけない」など、Webデザイナーでなくても、仕事をする上で重要な指摘が随所にちりばめられている。

 「このご時勢に、しかもWebの世界で、今の会社で一生働こうという人はほとんどいないでしょう」といいながら、「情報共有という面から」考えると「会社組織で働くほうがメリットが多い」などと指摘しているところなど、現代の若者の「仕事」に対する意識がよくわかっておもしろい。

 本書は、「Webデザイナー」という言葉を別の職種に置き換えて読んでみることもできる。「Webデザイナー」をめざしている人だけではなく、これから就職しようとしている人、仕事についてはいるけれど、なんだかしっくりこないと思っている人にも一読をお勧めしたい。(ソシム、2005年6月刊、1260円)【了】

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