中央を固めたUAEに対し、日本の攻撃はサイドからが中心に。しかし、シンプルなクロスを送って跳ね返されるばかりだった。 写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 ボールポゼッションが「68.1対31.9」、総シュート数が「35対3」、コーナーキックが「18対0」というスタッツが示す通り、日本は相手にほとんどチャンスを与えることなく試合を支配し、少なくない決定機を作り出した。
 
【マッチレポ|日本 1(4PK5)1 UAE】
 
 唯一最大の問題は、にもかかわらずたった1点しか得点を挙げられなかったことだ。決定機を手にした武藤、豊田、香川らがひとつでも決めていれば、試合は日本の勝利に終わっていた。そして内容から見れば、それが最も妥当な結果だった。
 
 しかし、どんなに良い試合をしても、ゴールを挙げなければ勝利を手にすることはできない。この試合は、そのシンプルな真理を改めて日本に突きつけるものになった。
 
 日本は試合のほとんどの時間を敵陣での攻撃に費やした。開始7分という早い時間帯に失点したことも理由のひとつだが、両チームの実力差からすれば、いずれにしても日本が主導権を握って戦う展開になっていただろう。
 
 UAEは8〜9人をボールのラインよりも後ろに戻して自陣の低い位置に守備ブロックを構築、最終ラインの背後にスペースを作らず、バイタルエリアもきっちり埋めてきた。
 
 そのため日本は、裏のスペースへの走り込みやコンビネーションによる中央突破といった得意とする攻め手をあまり使わせてもらえず、比較的スペースのあるサイドから攻撃せざるを得なくなった。
 
 両サイドバックの攻撃参加で攻撃に幅を作り出し、右サイドは酒井と本田、左サイドは乾(後半は武藤)と長友の連携で、サイドのスペースを深くえぐる場面は少なからず作った。ただ、そこからペナルティエリア内にボールを送り込んでフィニッシュに結びつける崩しのバリエーションは、それほど多いとはいえなかった。
 
 最も多く使われたのは、サイドからのシンプルなクロス。しかし、ヘディングが強いセンターフォワードや、タイミングよく縦に走り込んで頭で合わせるセンスを備えたMFがいるわけではなく、高さでもフィジカルコンタクトでも相手に分があるという状況で空中戦を挑むのは、あまり割がいい攻め方とはいえない。
 
 それでも武藤、豊田などがフリーでヘディングシュートを打つチャンスを得たが、強さ、精度ともに十分なフィニッシュができなかった。
 
 左サイドの長友は、ゴールラインぎりぎりからドリブルで侵入してマイナスのクロスを折り返すというプレーを再三狙い、数多くのコーナーキックをもぎ取った。前述のように日本のコーナーキックは全部で18回、さらにサイドからのFKも数回あった。これだけ多くセットプレーの機会を得ながら、ほとんどは単純に中央に蹴り込んでヘディングでクリアされるという結果に終わったのは、いささか残念だった。
 
 空中戦で分が悪いことは最初からわかっているのだから、もう少し別の形でこうしたセットプレーのチャンスを活かすための工夫があってもよかったと思う。アギーレ監督は就任から半年足らずで、まだそのために十分な時間を得ていないのだろうが、これが日本にとって今後の課題のひとつであることは間違いない。
 

 右ウイングの本田は、サイドからドリブルで「ペナ角」に持ち込んで、そこからコンビネーションやシュートを狙う場面を何度も見せた。だが、このプレーはややワンパターンで意外性に欠ける上に、コンビネーションで中に入り込むパートナーが近くにいないケースが多く、強引なシュートを何度か打った以外、決定機を作り出すところまでは行かなかった。
 

 左サイドからも乾、あるいは香川が同じようなパターンからの仕掛けを試みたが、相手の密度の高い最終ラインを押し広げてシュートに持ち込むことはほとんどできなかった。
 
 一方、バイタルエリアを使ったコンビネーションによる中央突破は、ずっと頻度が低かった。
 
 前述のように、相手が中央をしっかり固めてきたこともあり、コンビネーションで中央をこじ開けるのが難しい状況だったことは確かだ。とはいえ、81分に柴崎が挙げたゴールが示すように、日本はスペースがないところでも細かいパス交換による中央突破でスペースをこじ開け、フィニッシュにまで持ち込むクオリティを備えている。
 
 サイドからの崩しが総じてそれほど効果的とはいえなかった事実を考えても、もう少し中央突破にトライしてもよかったのではないかという印象はある。
 
 気になったのは、ザッケローニ監督時代にしばしば決定的な場面を作り出してきた、本田と香川が絡んでのコンビネーションによる突破がほとんど見られなかったこと。これは、本田を右ウイング、香川を左インサイドハーフという離れたポジションに置いているのが一番の理由だろう。
 
 本田と香川が、日本で最もクオリティの高いプレーヤーであることは誰もが認めるところ。この2人が絡みにくい配置になっている現在の布陣は、チームが備えているクオリティを最大限に活用するという観点から見ると、必ずしも最良のソリューションとは言えないようにも思われる。
 
 さらに言えば、本田も香川も、本来はトップ下のスペースで前を向いてプレーすることで持ち味を最大に発揮するプレーヤー。2人をトップ下に置くのは難しいにしても、少なくともどちらか1人はよりゴールに近いところでプレーさせ、そこにもう1人が絡んで行くような形を作れる布陣を敷いたほうが、彼らがより多くフィニッシュに絡めるようになるのではないかと思う。
 その観点からすると、本田、香川の2人をともにゴールから遠いところに置く現在の4-3-3システムが、このチームにとって果たしてベストかどうかは疑問だ。
 
 本田は所属するミランでも同じ4-3-3の右ウイングとしてプレーしている。今シーズンはオフ・ザ・ボールで裏のスペースに走り込む動きなど、ウイングとしての新しいレパートリーも身につけつつある。
 
 とはいえ、持ち味を最も発揮するのは、やはり中央に入り込んで前を向いた時だ。ゴールに近いところでプレーしたほうが、より決定的な場面に絡める。この大会でも、そういう形からここまでゴールを挙げてきたわけで、このシステムで戦うならば右ウイングでの起用が最良の落としどころだろう。
 
 それと比べると、香川のインサイドハーフ起用には疑問が残る。この試合でのパフォーマンスは決して悪いものではなかった。
 
 彼はテクニックとダイナミズムを合わせ持ったプレーヤーであり、攻撃的なインサイドハーフとしてプレーすることは十分に可能だ。しかし、最大の持ち味であるペナルティエリア内での突破力、ゴールセンスとシュート力を活かす上では、インサイドハーフはゴールから遠すぎ、かつ守備の負担が大きすぎるポジションだと思う。
 
 4-3-3とは言っても、右ウイングの本田、左ウイングの武藤や乾は、いずれも外を起点に2ライン(MFとDF)間に入り込んでプレーする頻度が高く、純粋なウイングのようにオフ・ザ・ボールで裏に走り込むプレーは少なかった。
 
 それならばむしろ、本田と香川をトップ下に並べた4-3-2-1のほうが、2人の持ち味をより引き出してさらに多くの決定機を作り出し、彼らがフィニッシュにからむ頻度も高められるのではないかと思う。
 
 とはいえ、総合的に見れば、日本が勝って当然という内容の試合だったことに疑いはない。敗因をひとつだけ挙げるとすれば、決定力不足というひと言に尽きる。
 
 決して日本の試合内容が悪かったわけではないし、チームとして目指す方向性も正しいように思われる。ただ、このチームのポテンシャルをさらに引き出す余地がまだ残っているように見えたことも確かだ。
 
分析:ロベルト・ロッシ
取材・構成:片野道郎
 
【ロベルト・ロッシ】1962年3月16日生まれのイタリア人監督。現役時代はMFで、元イタリア代表監督のアリーゴ・サッキや前日本代表監督のアルベルト・ザッケローニに師事。99年に引退し、2001〜08年はインテルなどでザッケローニのスタッフ(コーチ兼スカウト)。その後は下部リーグで監督を務め、現在はフリー。