一貫して暴対法と暴排条例に反対する宮崎学氏(撮影/佐倉博之)

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 11月20日、福岡県公安委員会は改定暴力団対策法に基づいて工藤會(北九州市)の本部を含む4事務所に対し使用制限命令を出すことを決定した。事務所での組員の集会などを禁じる措置で、対立抗争中ではない暴力団に対する命令は全国初となる。

 17日には工藤會に対する意見聴取が行われ、県公安委が命令の理由を「一連の幹部逮捕に関して、報復行為の謀議に事務所が使用される恐れがあるため」と説明。これに対して工藤會関係者は、「幹部宅は何度も家宅捜索を受けているが、一度も銃器などは摘発されていない」「幹部の逮捕容疑については公判も始まっておらず、推定無罪の原則が意味をなさない」と反論していた。

憲法がこれほど軽んじられている時代はない

 今回の決定について、一貫して暴対法と暴排条例に反対してきた作家の宮崎学氏は、「憲法違反そのものだ」と断じる。

「工藤會の幹部が多数逮捕されている現在、謀議などできるわけもなく、単なる嫌がらせに近い。というか、『暴力団に対しては法的手続きを破って何をしてもいい』という非常に危険な流れが作られている。政府は基本的人権の尊重をはじめ、集団的自衛権、表現の自由や通信の秘密などあらゆる面から憲法を破壊する施策を急速に推し進めている。過剰な暴力団排除もその一つの例だ。憲法がこれほど軽んじられている時代はない」

 この事務所使用制限の期間は3カ月間で、必要があれば延長できるとされるが、既に延長の可能性もささやかれる。なお、使用制限を受けた事務所の一部では犬が飼われており、その世話や庭の手入れ、仏壇の管理など「暴力団的」とは言い難い日常的な行為も制限される模様だ。

 宮崎氏は「こうしたことからも、使用制限は全く意味がないことがわかる。これは単なる『ヤクザの取り締まり』の問題ではない。かつての治安維持法は、成立当初は共産主義者の弾圧が目的であったが、後に『国家の方針に従わない』という理由だけで取り締まれるようになり、重罰化が進んだ。現在の暴対法と暴排条例も同様で、既に独り歩きを始めており、『暴力団員』の家族など“周辺者”も弾圧されている。今後は誰もが“周辺者”とされて希薄な理由で取り締まられる可能性もないとは言えない」と指摘する。

「工藤會壊滅作戦」に名を借りた国民への支配が強化される時代が来るのだろうか?

 一方、工藤會はアメリカ財務省が「最も暴力的」と認定した「最強組織」であり、警察庁も放置できない状況だ。工藤會壊滅作戦の今後が注目される。

宮崎学(みやざきまなぶ)1945年京都生まれ。早稲田大学在学中は学生運動に没頭し、共産系ゲバルト部隊隊長として名を馳せる。週刊誌記者を経て実家の建築解体業を継ぐが倒産。半生を綴った『突破者』で衝撃デビューを果たし、以後、旺盛な執筆・言論活動を続ける。近著に『突破者 外伝――私が生きた70年と戦後共同体』(祥伝社)、『異物排除社会ニッポン』(双葉社)など多数。

(取材・文/DMMニュース編集部)