「来年もアベノミクスは買いです」

2013年12月30日の東京証券取引所の大納会に、現職首相として初めて出席した安倍晋三首相は上機嫌で語った。2013年の株式市場は日経平均株価が今年最高値で取引を終え、年間上昇率が53%に達する空前の上げ相場を演じた。それがアベノミクスによることは、誰もが認めるところだ。

安倍首相の鼻息に、「総理が株を買えとはやしていいのか」「暴落でもしたら賠償請求で訴えられるんじゃないか」(政界関係者)などという皮肉な声もかき消された形だ。

名目成長率が実質を下回る「名実逆転」

安倍内閣は新年の展望でも強気だ。2014年度の政府経済見通し(2013年12月21日閣議了解)によると、2014年度の物価変動を除いた実質経済成長率は1.4%。個人消費や設備投資が伸びることにより「堅調な内需に支えられた景気回復」(甘利明経済財政・再生相)が維持されるとのシナリオを描いた。

実質1.4%成長は2013年度の2.6%より減速するが、名目では、消費増税分が膨らむため2.5%から3.3%に上昇すると予測。この結果名目成長率が実質を下回る「名実逆転」が17年ぶりに解消すると見込む。この結果、2014年度の名目GDPは500.4兆円とリーマン・ショック前の07年度以来、7年ぶりに500兆円を超える。

2014年度の実質成長率を項目別にみると、個人消費は消費増税の影響があるものの、雇用や賃金の改善で0.4%増、企業の設備投資は投資減税などの効果で4.4%増。輸出は世界経済の緩やかな回復で5.4%増えると見込んでいるが、貿易赤字は引き続きエネルギーの輸入が高水準であることから10兆円と2013年度とほぼ同等と予測。消費者物価指数は2013年度の0.7%上昇が、2014年度は3.2%の上昇を見込む(消費増税の影響を除く実質は1.2%程度)。

政府と民間の違いが最も目立つのは個人消費

こうした政府の見立ては民間エコノミストに比べ、かなり楽観的だ。民間41人の予想を平均したESPフォーキャスト調査で、2014年度の実質成長率は0.8%。政府見通しを0.6ポイント下回る。

政府と民間の違いが最も目立つのは個人消費だ。政府は「働く人の数や賃金が順調に伸びて、増税後も消費は落ち込まない」(内閣府)として、プラス0.4%を見込む。政労使代表による「政労使会議」が賃上げの方向を確認、低所得者への現金給付も決まっており、政府のシナリオは経済対策や賃上げ促進といった政策の効果を大きく見ているのだ。

これに対し、民間平均の個人消費の見通しはマイナス0.7%で、実に41人中39人がマイナスを見込んでいる。「消費増税前の駆け込み消費の反動に加え、消費税増税による物価上昇で消費が落ち込む」(エコノミスト)という見方が強く、賃金の上昇には時間がかかるとの声が多い。

逆に外需の寄与度は、民間0.5ポイントに対し、政府はプラス0.2ポイントと、官民が逆転する。政府は8月時点で内需の寄与度0.4ポイント、外需0.6ポイントと、「外需主導型」を想定していたが、円安でも輸出は思うように伸びないことから外需頼みのシナリオを内需主導に変更した形だ。

公共事業を軸とする5.5兆円規模の経済対策に期待

その内需で政府が大きく見るのが、年末にまとめた公共事業を軸とする5.5兆円規模の経済対策の効果。GDP押し上げ効果は、民間の0.5ポイントに対し政府は0.7ポイントと高く見ているのだ。ただ、東日本大震災の復興やこれまでの経済対策で膨らんだ公共事業予算は、人手不足などでこなしきれず、国の2012年度決算で3.8兆円を2013年度に繰り越した。今回の対策による押し上げ効果が計算通りいくかは予断を許さないというのが大方の見方だ。

政府は2014年末には消費税率を2015年10月から10%に引き上げるかどうかを判断する。2014年4月の消費増税による落ち込みをうまく乗り越えて成長軌道を維持できなければ「財政健全化に不可欠の10%への増税判断にも影響しかねない」(経済官庁)。増税回避にでもなろうものなら、「財政悪化懸念から国債が暴落するなどアベノミクスは崩壊する」(財政審議会委員)との最悪のシナリオが現実味を帯びてくるかもしれない。手詰まり感が表面化する前に民間の活力を引き出しせるか、すべてがそこにかかっている。