先月も書いたとおり、私はベイスターズの次期監督に一番適任なのは、田代富雄、現東北楽天ゴールデンイーグルス一軍打撃コーチだと思っている。

田代氏の指導者としての優秀さは、彼が育てたバッターを考えれば、おのずと明らかだ。ベイスターズの打撃コーチを務めた時代に育てた村田修一、内川聖一は、いまやセパ両リーグを代表するバッターとなっている。そして今年の日本シリーズで左ふくらはぎに死球を受けながらも、足の痛みに耐えながらベースランニングをして日本中を感動させた楽天の藤田一也選手は、ベイスターズ時代も、いまの楽天でも、田代コーチの指導を受けている。楽天の田中将大投手が開幕24連勝を飾れたことの隠れた要因は、田中投手が先発した試合で、楽天の打撃陣が実によく打ったからだ。そして、その指導をしたのが、田代富雄コーチなのだ。

実は、私はテレビ神奈川の「HAMA大国ナイト」という番組で、田代氏と一緒に「ワイワイ・ベイスターズ」というコーナーを一緒にやっていた。田代氏は決して弁が立つ方ではない、ただ、その木訥としたしゃべりは、人の心を動かす力を持っている。

「田代さん、やっぱりデッドボールは本当に痛いんですか?」
「当たり前だろう。野球のボールは石みたいに固いんだぞ」
「それでもバッターボックスに立つというのは、勇気があるんですね」
「そんなことはないさ。俺は、バッターボックスに立つと、いつも足が震えていたんだ」

最後のところは、田代氏のジョークだったのかもしれない。しかし、格好をつけずに、常に本音を語る田代氏の言葉には強く共感したものだ。

その田代氏の野球指導は、精緻な野球理論に基づいたものではなく、具体的な打撃術でもない。田代氏が教えるのは野球への強い気持ちだ。具体的なフォームやバッティング技術を教えなければいけないと思っている野球ファンは多いが、そもそもプロ野球に入ってくる選手は、それまでの野球生活で頂点を極めた人たちばかりだ。だから、それぞれが自分に適したフォームや理論を持っている。それをコーチの趣味にしたがって色々といじっても、ろくなことにならない。これまでも、コーチにフォームを妙にいじられて潰された選手は数え切れないのだ。

田代コーチが教える野球への強い気持ちが、それぞれのプレーヤーの才能を一層開花させ、それがファンを感動させるプレーを生む。そして、それこそが横浜ベイスターズ本来の野球なのだ。

田代氏は、2009年5月に大矢明彦の無期限休養を受けて監督代行に就任した。しかし、当時の戦力で、しかもシーズン途中からの指揮では、チームを立て直すことができず、最下位でシーズンを終えた田代氏は監督職を解かれてしまった。

田代野球が浸透するのには時間がかかる。だから、5年契約くらいで、田代監督を復活させて欲しい。ベイスターズは強くなるだろうし、ベイスターズの試合が面白くなることは請け合いだ。