長年浦和レッズを追い続けるフリーライター小齋秀樹さん
その小齋さんブログの最近記事を許可を頂き全文掲載させていただきます。



『走るファンタジスタ、走る』 柏木陽介

前半7分の、柏木陽介の先制弾。
あの場面で思い起こしたことが三つあった。

ひとつ目は、前日の練習後に柏木の口から漏れたつぶやき。

「今は安定して良いプレー、普通以上のプレーはできてると思う」
そう言ってコンディションの良さに触れた後、「あとは・・・、点取りたいね」と口にしていた。
もう一段階、調子を上げるための足がかりとして、彼はゴールを欲していた。


思い起こしたことのふたつ目は、7月17日の横浜F・マリノス戦での一場面。
2−2で迎えた後半の26分、カウンターから柏木→興梠→マルシオとつないで、ペナルティエリア内右、柏木の目の前にボールがこぼれる。
エコパスタジアムでの先制ゴールの場面とほぼ同じ位置から、柏木は左足でシュートを放った。
しかし、ボールは前に出て来たGKの正面に飛び、弾かれてしまう。

その絶好機に決めきれなかったことを、彼はしばらくの間悔やんでいた。

「コースがなくて難しかったとは思うけど、あそこで冷静に打てるような能力とか、当たり損なっても入る運があれば・・・」

そう言って、こう続けた。
「そういう運を引き寄せるためには、日頃からしっかりやって、自信を付けて、楽しくやるってのが一 番なのかなって思う」
清水戦でのゴールは、その前提として素晴らしい技術があったことはもちろんだが、多少なりとも幸運に助けられたようにも見えた。バウンドの仕方が少しでも違うものであったなら、GKに当たっていた可能性がある。何より、横浜FM戦では利き足でのシュートが弾かれているのに、清水戦では決して得意とは言えないはずの右足で決めているのだ。
やはり、幸運はあったと思う。
そして、その幸運を引き寄せたのは他ならぬ柏木陽介自身のはずだ、とも。


想起したことの三つ目。
こちらも、前日に彼が語っていた言葉だ。
前節の大分戦での彼のプレーとその意識について、確認させてもらったことがキッカケだった。
筆者には、大分に0−3とされてからチームを牽引した要素のひとつが、いつにもまして攻守に献身的な彼の『走り』にあったように思えた。
だから、確認の意味を込めて「走ることでチームを引っ張ろうという意識もあったのか?」と尋ねみた。

「そこはそんなに意識してないけど」と柏木。

「でも、走ることは自分の中でやらなアカンことのひとつであるし、今まで『上手い選手』とか言われてきたけど、オレは自分では『めっちゃ上手い選手』だとは思ってなくて、走る中から良いプレーができるというのが自分の長所やと思ってる。だから、それを続けないといけないってことは、ずっと思ってる」

清水戦での先制弾は、鈴木啓太から宇賀神友弥への大きな展開を機に、宇賀神→興梠→宇賀神→柏木という流れだった。
啓太から宇賀神へ長いボールが打ち込まれたとき、柏木が居たのはハーフウェイラインから自陣へ数歩入った位置。
そこからの長い疾走があったからこそ、生まれたゴールだった。

そして、そのゴール以前も以降も、柏木は走り続けていた。
彼はやはり 『走る』ファンタジスタ なのだ、との思いを新たにさせられた一戦だった。

柏木陽介という青年は自己評価が厳しい。それゆえ、悩むことも多い。
その彼が上昇気流を掴みつつある。

本人にとってはもちろん、チームにとっても吉報以外の何ものでもない。