城ヶ島海域の西側から南側の沖にかけて約3kmの範囲で、1.9〜6.3mの「浅所」と「水深減少」が観測された

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神奈川県三浦半島の南端に浮かぶ「城ケ島」で、気になる異変が起きている。6月28日、海上保安庁の発表によると、城ケ島の西側から南側の沖にかけて約3kmの範囲で、1.9〜6.3mの「浅所」と「水深減少」が確認されたというのだ。

島の西側、三崎港直近の2点が浅所、南沖200〜500mの範囲に東西約1.2kmにわたって延びるのが水深減少の場所だという。これらの海底地形はなんなのか? 城ケ島海域を管理する第三管区海上保安本部によると、

「今回の発表内容は、海底へロープと重りを下ろす昔の水深測定で作った海図を、最新のマルチビーム測深機の精密データで書き換える業務を進めてきたなかで、最近わかったことです。城ケ島周辺の水深は10〜30mほどですが、これまで知られていなかった海底の高まりが新たに見つかったと考えられます」

福島県沖の放射性ストロンチウム測定など、海保の調査活動は官庁の中でも独立性が高く、発表内容の正確さが評価されてきた。しかし、この水位減少の件はどうも納得がいかない。全国各地の港湾内や沿岸航路でも、河川や海流が運ぶ土砂などによる部分的な水深減少はよく見つかるが、その規模はせいぜい数十cmから1m止まりで、今回のように大規模な海底の変化は過去に例がないのだ。特に船舶往来の激しい城ケ島の南沖に横たわる長く直線的な海底の高まりが、これまで見過ごされてきたとは考えられない。実際、現地に出かけると、前述の海保コメントに対する疑問がますます強まった。例えば城ケ島の北側対岸にある漁業基地の三崎港では、こんな話を聞いた。

「3・11の大地震直後は港内の海底も30cmほど上がったが、今は元どおりに落ち着いた。しかし魚群探知機で見ると湾外には盛り上がったままの海底が多い。海保が発表した“浅所”というのは、昔からあった根(海底岩礁)が3m以上も高くなった場所だと思う。城ケ島の南沖の水深減少ラインは、去年の暮れ頃からいつの間にか現れたようだ。今のところ操船に影響はないが、航路の真下にあるので、三崎港に出入りする誰もが2ヵ月ほど前から気づいていた」(遠洋漁業船航海士)

「城ケ島海岸と同じ三浦層群という岩場はだいたい200m先の海底まで続き、それが砂地の多い緩い斜面に変わっていく辺りで、今年に入ってから水深減少が目立つようになった。ダイビングができる場所はずっと手前なので肉眼で見た人は少ないが、幅20〜30mほどの隆起した海底が帯のように東西方向へ広がっているらしい」(地元の釣り船業者)


いずれにしろ、この大規模な「浅所と水深減少=海底隆起」は、つい最近にできたとみられる。さらに城ケ島大橋を渡り、浅所と水深減少域に最も近い島の南西海岸へ移動すると、もうひとつ驚きの新事実が浮上した。

取材当日の満潮時間(7月6日16時49分)になっても、海面がいつもより低い位置にしか上がらなかったのだ。現場にいた常連の釣り人たちに聞くと、この潮の上がりが低い現象は今年の4月頃から始まり、日がたつほど目立つようになってきたという。

念のために海洋学者の辻維周(まさちか)氏(石垣市・辻環境文化研究所長)に現場写真の鑑定を依頼すると、この海岸では潮位が50cm近く下がっていることがわかった。つまり沖合の「海底地殻変動」と連動して、城ケ島の海岸でも隆起が進行中なのだ。過去に相模湾から伊豆諸島にかけての海底地質調査を行なった琉球大学名誉教授の木村政昭博士は、こう予測する。

「おととしの巨大地震で東北地方から関東北部にかけての沿岸地域が1m以上も沈下した事実はよく知られていますが、逆に関東南部では隆起が進んだのです。これは東北地方の地殻の圧力が減った結果、今度は相模トラフのプレート境界でストレスが高まったことを意味し、前々から心配されてきた房総半島南方沖や相模湾内を震源とする巨大地震の発生につながる危険性があります。

ただし、それ以上に私が注目しているのは富士火山帯全域でのマグマ活動の高まりです。その地下からの強い圧力が三浦半島の地殻を押し上げており、巨大地震よりも先に富士山と箱根の噴火活動が始まることが心配されます」

事実、3・11から地震発生の危険度が増しているという三浦半島陸上の活断層群の向きは、城ケ島南沖の水深減少ラインとほぼ平行に走っている。また、7月3日には相模湾中央の海底で関東大地震を連想させるプレート境界型地震が起き、同10日には箱根・富士火山に近い相模湾西部でも最大震度4(湯河原町)の地震が起きた。

近い将来、首都圏を襲う大災害を、城ケ島沖海底の奇怪な変動は予告しているのか……?

(取材・文・撮影/有賀訓)