ここ数日、統一球の質が今季から変わったということが話題となっている。しかしこれに対しては加藤良三コミッショナー、そして統一球を製造しているミズノ社共に否定をしている。この両者が完全否定しているのだから、統一球の質を変えたということはないのだろう。一部では両者が嘘の発表をしているとの言葉も浮かんでいるが、しかしここで嘘をつく必要などないのでは、と筆者は考えている。やはり両者が変わっていないと断言しているのだから、統一球の質はやはり変わっていないのだろう。

とは言え統一球導入から、今季は確かにホームランの数が増えてきている。詳しい数字などはスポーツ新聞の記事等をご参照いただければと思うが、ジャイアンツの18試合で24発というのは、確かに多いようにも感じられる。これは144試合なら192本というペースとなり、2008年ライオンズが記録した年間198本塁打にも匹敵する。ただ世間はこの話題に熱を上げているが、筆者自身は格別思うところはない。なぜなら統一球元年の夏から、筆者はこのような状況になると言い続けてきたからだ。日刊埼玉西武でももちろん書いてきたわけだが、その他野球現場や、週刊FLASHの中村剛也選手の特集記事に於いても語り尽くしている。統一球元年から筆者は、統一球を導入した影響は2〜3年でなくなると言い続けてきたのだ。そのことを覚えてくれていた方々からは本当に有り難いことに「お話されていた通りになってきましたね」と、多くのメッセージを頂戴している。

さて、ここで統一球というものを簡単におさらいしておきたい。プロ野球で使われている硬式球は、実際には公式球と呼ばれている。この公式球に規定されている反発係数は0.41〜0.44となっている。この数字が大きくなるほどボールの反発力が増し、打球が遠くまで飛んでいくということになる。2010年まで用いられていた前公式球の反発係数は0.44という数字に近づけられていたのだが、統一球は0.41という数字に限りなく近づけられている。ミズノ社のプレスリリースを読み返しても、統一球の反発係数は規格値下限0.4134に限りなく近づけていると発表している。つまり2011年から統一球にボールが変わったと言えど、ボールに対するルールは一切変わっていないのだ。多くの選手は口々に文句を言っていたが、ルールが変更されていない以上、文句を口にするというのはプロとしては一流らしからぬと言えないだろうか。

統一球が飛ばないとされている理由は、実は反発係数だけにあるわけではない。福岡工業大学の方々が発表している統一球の空力特性に関する論文があるのだが、それによれば統一球の空力特性は前公式球と比較すると、飛翔軌道(打球の飛距離)は2m短くなるという物理的検証結果となっている。ミズノ社は統一球の反発力は前公式球と比較すると飛距離は1m短くなると発表している。これももちろん物理的根拠がある上での発表であるわけだが、正直な話、1m程度の違いを選手が明確に感じ取れるとは思えない。だが空力特性の変化と合わせると飛距離は3m違ってくる計算となり、3m違えばやはり飛距離の違いを実感することはできるだろう。

プロのスポーツ記者が書いている統一球に関する記事を読むと、日米親善試合で統一球とMLB球を打ち比べると、実際に打った選手はMLB球の方が「明らかに飛ぶ」と言っていたと明記されている。だが実際に何人くらいの、どのレベルにある選手がそう言ったかまでは書かれていない。これがもし、オーダー9人中4〜5人が口を揃えたのならば信憑性もあるわけだが、もし9番打者1人がそう語っただけならば、信頼に値する情報とは言えない。そして公式球とMLB球には明らかな違いが一点存在する。それは質の安定だ。日本の公式球は中国で生産されているわけだが、しかしNPBの指導のもと非常に丁寧に作られている。そのためボールの質が非常に安定し、どのボールを使っても反発係数や空力特性にほとんどは見られない。

一方コスタリカで生産されているMLB球の質はまさにバラバラだ。つまり中には飛ぶボールもあれば、飛ばないボールも存在しているということになる。だがこれもまた野球と言えないだろうか。当時マリナースに所属していたイチロー選手は以前こんなことを話していた。「バットの細かいところまでは気にしない。しっかりとした技術があれば道具が変わっても結果は変わらない」、一言一句は異なるとは思うが、確かに彼はこのような趣旨のコメントを残している。つまりプロとして一流の技術を持っていれば、バットが変わってもボールが変わってもそれに対応することができ、どんな状況下であっても結果を出すことができるのだ。

NPBで統一球の見直しを強く求めている一部の選手たちには、ぜひイチロー選手を見習ってもらいたい。結果が出ないから変更を求めるのではなく、変更を求めるのならば結果を出してからにして欲しい。結果を出した上で「俺は統一球だろうがMLB球だろうが何でも打てるけど、でも球界のためには統一球は少し見直した方が良い」と言えば、これほど説得力のある声はないのではないだろうか。

さて、ここまではボールだけの話となっていたが、昨季からバットの規格が変更になったことを覚えている方はいるだろうか。実は2012年から直径7cm以下と定められていたバットが、6.6cm以下に変更されたのだ。これは検証により、太いバットよりも細いバットの方が折れにくいという明確な結果が出たためだ。この変更によりバットの太さを変えた選手は多い。ライオンズで言えば中村剛也選手が6.7cmだったバットを6.6cmに変更している(詳細)。ホームランバッターではないバットの面でボールを打つタイプの打者は、通常は太目のバットを使っている選手が多い。ということは、非力な打者ほどバットの変更を余儀なくされたということになるだろうか。これに関しては統計や詳細な情報などがないため何とも言えないわけだが、あくまでも一般論で考えればそういうことになる。

ではバットを細くするとどのような現象が起こるのか?まず単純に考えられることは、バットが細くなった分、ヒットを打つためにはより高いミート力が求められるようになったということだ。そしてもう一つはバットが細くなった分、スウィング時の空気抵抗が小さくなり、スウィングスピードが上がることになる。例えばまったく同じ140kmのストレートを打った場合、バットのスウィングスピードが125kmなのと、127kmなのでは当然打球の飛距離は後者の方が長くなる。この点も今季のホームラン増に繋がっていると筆者は考えている。

しかしそれならばバットの規格が変わった昨季のホームラン数の少なさという点に矛盾が発生するわけだが、これはまさに選手の技術の問題だ。統一球が導入された2011年は、前年までと比べると明らかにホームランの数が減った。それは選手に対して強烈な印象を与えていたのだ。つまり選手の頭の中に「統一球=まったく飛ばない」という固定観念が生まれてしまった。これにより打撃に悩む選手が急増し、その悩みが迷いとなり、急激な投高打低現象が起きてしまった。だがこれは投手力が劇的に向上したわけではなく、あくまでも打者の技術に迷いが生じていたための現象だ。だが統一球が導入され、バットの新規格も2年目となり、この環境に打者たちも慣れて違和感を覚えなくなったのだ。

そして統一球元年であっても48本塁打を打った中村剛也選手、打率.338の内川聖一選手、.340の阿部慎之助捕手らが存在していることにより、選手たちも「技術があれば統一球でも結果を残せるんだ」という考え方に変わってきた。それが昨季終盤以降、秋季キャンプ、春季キャンプ、現在までの流れになっていると筆者は見ている。そして必ずこういう流れになると言い続けてきたからこそ、筆者は今季のホームラン増には何の違和感も感じていないのだ。

ただし、統一球は国際試合への対応力を深めるためという名目で導入されたボールだ。それなのにWBCではボールの対応に苦慮する選手が続出した。この点に関しては今後、少しずつ状況を見極めていくということが大切だと思う。いきなりボールの表面の質を国際球と同じにしてしまうと、投手の故障リスクが劇的に上がってしまう。パフォーマンスが低下するだけならばまだしも、故障のリスクを劇的に上げてしまうことだけは絶対に許されることではない。そしてそれは加藤コミッショナー自身、重々承知されている点だと思う。だからこそ筆者は統一球に関しては、自らの名前を全球にサインするほど強い責任感を示している加藤コミッショナーに全幅の信頼を寄せたいと考えているのである。