彼のような選手はもう現れないだろう。ゴン(中山雅史・札幌)がついに現役引退を発表したね。Jリーグ誕生とともに急成長を遂げてきた日本サッカーの中心にいて、クラブでも日本代表でも強烈なインパクトを残してきた。誰もが認める日本サッカー界の功労者だ。2009年末の札幌移籍以降は、ケガとの闘いでほとんど試合に出られなかったけど、よく45歳まで頑張った。ひょっとすると、ケガをごまかしながらなら、もう1年くらい引退を先延ばしできたのかもしれない。でも、彼のプライドがそれを許さなかったのだろう。心からお疲れさまと言いたい。

ゴンはいつも「自分はうまくない」と言うけど、本当にうまくない(笑)。僕がゴンを最初に見たのは、彼がまだ筑波大学の学生だったときのこと。まだFWではなくDFとして起用されていて、基本的な身体能力が高く、当たりも強かったけど、プレーはとにかく雑だった。また、日本代表に呼ばれるようになってからも、例えばウオーミングアップ時のボール回しでは、ほかの選手たちに狙われ、遊ばれていることもあったね。いずれにしても、体力が衰えたら厳しく、長く一線で活躍できるとは思っていなかった。

でも、ゴンはそんな僕の予想をあっさりと裏切った。Jリーグでは黄金期の磐田で得点王を2度獲得し、J1通算157得点は史上最多。1998年にはMVPに輝いた。なかでも印象に残るのは、98年4月に記録し、ギネスブックにも掲載されている4試合連続ハットトリックだ。僕も長い間、サッカーに携わっているけど、そんな記録は後にも先にも聞いたことがないよ。

特に長身というわけではない。足が速いわけでもない。そして、技術もない。そんなゴンがこれだけ点を取れたのには、大きくふたつ理由がある。

まず、ひとつ目はストライカーとして点を取ることだけに集中していたこと。ファイターだった。技術がないからこそ、ゴール前で体を張って、何度も何度も飛び込み続ける。最近はペナルティエリアから離れ、ゴールに背中を向けてのポストプレーやつなぎのプレーばかりするFWも多い。でも、ゴンはよけいなことをせずに、頑丈な体を最大限に生かすべくゴール前でチャンスを狙い続けた。相手DFにとって一番いやなタイプのFWだ。

そして、ふたつ目の理由はやっぱり、メンタルの強さ。98年フランスW杯で日本人初得点を決めた後、骨折しながら最後までプレーしたのは今でも語り草だ。常に気持ちを前面に出し、何度止められても諦めず、泥くさく体を張り続ける。口で言うのは簡単だけど、なかなかできることじゃない。だから、彼のプレーには見ていて“納得感”があったし、ファンの心を打った。相手DFから激しいファウルを受けることも多いのに、警告をほとんど受けないフェアネスを持ち合わせていたことも付け加えておきたいね。

今後、彼が何をするのかはわからない。ひたすら現役にこだわってきただけに、今は本人も悩んでいるんじゃないかな。人気者でトークも上手なので、芸能界からのオファーもあるだろう。でも、普段の彼はむしろ寡黙でシャイ。自分を安売りする必要はない。45歳、指導者としてのキャリアをスタートするにはだいぶ遅くなってしまったけど、ぜひ持ち前のガッツで日本サッカー界にその貴重な経験、そして“魂”を伝えてほしい。

(構成/渡辺達也)