日中有事にアメリカは動くか? 元アメリカ陸軍大尉・飯柴智亮インタビュー
「まさか武力衝突まではないだろう」というのと同じくらい、日本人がなんとなく思っているのが「いざとなったら米国が助けてくれるだろう」ということ。でも、それは本当なのだろうか? 元アメリカ陸軍大尉・飯柴智亮氏に緊急取材した。
■中国軍は民間人を装ってやってくる?
―本日はお忙しいなか、ありがとうございます。早速ですが、尖閣有事における状況として、
(1)中国軍が尖閣諸島に攻めてきて占領されそうだが、自衛隊ががんばって阻止している。
(2)しかしながら奮戦及ばず、いったん中国軍に占領される。
(3)その占領された尖閣諸島を日米合同で再び奪還する。
といった段階が考えられます。大尉どの、日本が困っていたら、もちろん米国は助けてくれるでありますよね?
飯柴(以下、I) ちょっと待ってください。いくらクリントン国務長官が「尖閣は日米安保条約の適用範囲内」と明言したとはいえ、何かあれば米軍がすぐ駆けつけてくれると思ったら大間違いです。
―そ、そんな〜!
I まずは日本が独自の防衛行動をとった後で、ようやく米軍に最小限の出動を要請できるわけです。それに、もし米軍が支援に駆けつけたとしても、米国の国益を最優先に動くので、必ずしも日本の国益と一致するとは限りません。
―では、米軍は自衛隊を見殺しにするでありますか?
I “見殺し”は人聞きが悪いですが、米軍が動くのは日米安保条約第5条、つまり軍事力による侵攻があった場合のみです。
―中国軍が尖閣諸島を奪ったら、まさに軍事侵攻であります。
I 確かにそうなると米軍も動かなくてはなりません。ただ、中国もそれを理解していますから、現時点で中国海軍が直接出てくる可能性はほとんどないでしょう。
―じゃあ、ひと安心ですね。
I いや、待ってください。可能性のひとつとして、私服で民間船に乗ってきた中国人らしき集団が魚釣島に上陸し、ドサクサまぎれに島を要塞化してしまうケースも考えられます。一見、民間活動家のようですが、実は武装した人民解放軍の特殊任務部隊でしょう。
―そんなときは、どうすればいいでありますか?
I 大変だとは思いますが、海保、警察、海自の皆さんでがんばって撃退してください。
―えーっ、まだ米軍は助けてくれないのでありますか?
I そこは微妙です。米国がその状況を「中国による日本国領土への武力侵攻」だと判断すれば、事態は変わってくるでしょう。
■局地戦をするより海峡封鎖が効果的
―すると、いよいよ米軍出動ですね。ありがとうございます。お疲れさまです。さあ、すぐ侵略者を追い払ってください!
I 待ってください。この場合、中国側の作戦は「島の死守(HoldStrong Point)」「接近阻止(AntiAccess)」「領域拒否(Area Denial)」となります。これに対して島を奪還しようと無理に接近しても、ムダな被害が出るだけです。
―じゃあ、指をくわえて見ているだけでありますか?
I まあ、待ってください。われわれの狙いは、中国の本当の目的をかわすことにあります。
米軍は対中関係を長期的に有利にもっていくため中国の海上補給ルートを断ちます。日本、韓国、フィリピン、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナム、オーストラリアなどの友好国に協力要請して、マラッカ海峡をはじめ、中国にエネルギー資源を運ぶ海峡を封鎖します。これで中国を兵糧攻めにするのです。
―なるほど。油がこなくなれば、「こりゃたまらん」と中国も諦めるわけでありますね。
I 通常なら、これで尖閣から離れていくでしょう。ただし、まだ油断は禁物です。「せっかく占領したから」と、“活動家”たちが魚釣島に居座るかもしれません。
―居座るやつらにはミサイルをガンガンぶち込み、沖縄駐留の米海兵隊をすべて投入する強襲上陸作戦で蹴散らしましょう!
I いやいや、待ってください。もっと静かにやりましょう。相手は“民間活動家”なのですから。
仮に作戦名を「オペレーション・レッドクリフ」、担当する部隊を「タスクフォース・ウー(呉)」、魚釣島への上陸部隊を「チーム・ファンガイ(黄蓋)」とします。上陸部隊は2個小隊(48名)。メンバーは第7艦隊傘下・極東地域担当の海軍特殊部隊SEALチーム5から選抜します。全員がアジア系で、DLPT(Defense Language Proficiency Test)レベルII+以上の中国語を話せることが絶対条件です。上陸部隊長(海軍大尉)のコールサインはファンガイ6。
ちなみに、6というのはその部隊の司令官のことで、82空挺師団だったら師団長のコールサインはオールアメリカン6です。
―カッコいいであります!
I 魚釣島は謎の中国人活動家に占領されていると仮定。私服だが武装しており明らかに軍人。
まともに揚陸艇で攻めると激しい交戦になるし、地形的に空からの降下は困難。よって、五星紅旗を掲げた偽装中国漁船に乗り込み、仲間が来たと油断させて島の西側に上陸します。まずカツオブシ工場跡付近の敵をナイフ、消音銃で片づけ、PL(フェイズ・ライン)1まで確保するのです。
―さすがに仕事が早いです。
I ただし、米軍はやみくもに特攻するようなマネはしません。特殊部隊員の養成には莫大な資金と時間がかかっており、そう簡単に死なせるわけにはいかないんです。
上陸前には上空から偵察機が情報支援し、万が一に備えてAC130ガンシップが待機しています。そしてEW(電子情報戦)サポートも専用航空機が上空から行ない、それらをAWACS(早期警戒管制機)が統制します。
―島の東側にいる敵はどうするでありますか?
I PL1を越えて、標高151高地、標高258高地、屏風岳(びょうぶだけ)東側の3チームに分かれて散開し、消音スナイパーライフルで射殺します。
屏風岳チームは東岬(あがりさき)付近を掃討し、遺体を海に投棄。151高地と258高地のチームは、それぞれ島の南北の海岸沿いに残敵を掃討しながら上陸地点に戻ります。
―帰りは泳ぐでありますか?
I 泳ぎません。船に隠してあったSDV(SEALs専用の小型潜水艇)に乗り込み、沖合で待機中のバージニア級原潜にピックアップしてもらいます。
おそらく公式発表では、「魚釣島を不法占拠していた中国人活動家らしき者たちは、海岸で高波にさらわれて全員溺死」といった内容になるのでしょう。めでたく尖閣は日本の実効支配に戻ります。
―米軍はホントに、これくらい働いてほしいであります!
(取材・文/本誌軍事班[取材協力/世良光弘 小峯隆生])
●飯柴智亮(いいしば・ともあき)
1973年生まれ、東京都出身。北ミシガン州立大から米陸軍に入り第82空挺師団に所属。2002年からアフガン派遣。情報担当将校として大尉で除隊。現在は米国で軍事アドバイザーとして活躍。著書に『日米同盟崩壊』(小社刊)など