本は重くてかさばるため、書籍としての形に愛着がないのであればPDFやJPEGなどのデジタルデータに変換してPCなどで読めるようにした方がなにかと便利です。しかし、データ化するには本をスキャンする必要があり、スキャンするためには本を一度バラバラにしなければきれいにスキャンできません。

ところが、今後は本を切断したり裁断したりすることなく、そのままデータ化する「非破壊自炊」の時代かもしれません。

◆「自炊」とは?

by 池田隆一

本をスキャンしてデータ化することを、“自分で(データを)吸い出す”ことから「自炊(じすい)」と呼びます。マンガや雑誌をネット上でやり取りするためにスキャンする行為が発祥だと考えられています。スキャナーが登場した頃から本をスキャンするという発想はありましたが、1冊まるごとスキャンしてデータ化するツワモノはそれほど多くありませんでした。

発祥ゆえにネットスラングとして扱われていた「自炊」ですが、「自分の蔵書をデータ化して本の整理をする」という考えの人も現れ、また、2010年春にiPadが登場して本をデータ化して読むということが広がった結果、一般的にも使われるようになりました。iPad登場以降はヨドバシカメラが電子書籍を「自炊」する方法を紹介した特設ページを作ったり、自炊の際に使う裁断機の刃の切れ味を復活させるサービスが始まったりしました。


語源には「自分でデータ化する」という意味が含まれていますが、本を送るとスキャンして電子書籍化してくれる「BOOKSCAN」のようにデジタルデータ化作業を代行してくれるサービス(自炊代行業)も登場。BOOKSCANの場合、本を送ってからデータ化されるまでに3ヶ月待ちだったり、一時期は会員登録すらできないほどの人気を集めました。


◆“破壊自炊”の問題点
「本をスキャンする」といっても、ぺらぺらの紙をコピーするわけではないためそう簡単にはできません。最も簡単な方法は図書館でコピーを取るように、読み取りたいページを開いてスキャンすること。この方法だと、中綴じやあじろ綴じの本や雑誌はページをいっぱいに開けるため容易にスキャンできますが、文庫本や新書に多い無線綴じや平綴じは本の背が邪魔になってきれいにスキャンできません。また、スキャン元の本も傷めてしまいます。

そのため、きれいにスキャンするためには本の背をカットし、バラバラにする必要があります。ポピュラーな方法としては、PK-513Lで背をカットしてバラバラにし、ScanSnapでPDFかJPGにするというのが知られています。裁断は一瞬で、スキャンも高速で終了するため、文庫本や新書であれば1冊5分もかからずに作業は完了します。

プラスステーショナリーの断裁機「PK-513L」


富士通のカラーイメージスキャナ「ScanSnap」


しかし、本をバラバラにしてスキャンしたときの問題点は、スキャン後の本はもう実質的に読めないということ。裁断済みの本を売買できる「裁断本.コム」のようなサービスを使えば別ですが、町の古本屋では買い取ってくれません。


また、貴重な書籍を解体するというのはたとえ利便性が向上したとしてもなかなか踏ん切りが付かないもの。データ化してちゃんとバックアップも取っておきたいが、もうこの本は二度と手に入らない、というケースなど、悩みは尽きません。

◆本を解体しない“非破壊自炊”
そこで出てくるのが「非破壊自炊」です。先ほど挙げた、本をスキャナに押しつけるのも非破壊自炊の一つにあたります。しかし「非破壊で、かつきれいにスキャンする」という方法も古くから存在しています。

それは、本をめくりながらカメラで撮影していくというというもの。たとえば本を1時間で1000ページスキャンできるスキャナ「BookDrive DIY」はV字形の台の上に本を置き、固定した2つのデジカメで見開きのページを一気に撮影できます。しかし、問題は機材が大きいということ。値段も約40万円と、気軽に購入できるものではありません。


Googleブックスもこの方法を採っていますが、使用している機器はページの自動めくり機能が付いているもので、だいたい1000万円クラス。とても一般人が真似できるものではありません。

しかし、スキャナが進化して自炊がカンタンになったように、カメラや周辺環境が進化して、もっと安価で手軽に非破壊自炊を実現できるようになりました。

前提となるのはムービー自炊。「とにかく楽に自炊したくて」というyonta24さんがまとめていますが、要するに「本をめくる様子でムービー撮影する」という方法です。iPhone 4Sのカメラが高機能になったことで文字が読めるレベルの動画が撮れるようになり、実用レベルに達したもので、以下がその方法。

【楽ちん非破壊自炊】ムービー自炊の方法とは? - YouTube


ただし、ムービー自炊は「指定のページに飛べない、しおりが出来ない(途中で読み終える時は、何分何秒だったかをメモします)、ファイルサイズがでかい、大判の本で文字が小さい時は読めるかどうか微妙」という問題をはらんでいます。これを解決したのが「ページをめくる動作を検知して、止まったと判断した時に撮影してカメラロールに保存する」というアプリ、Jiucie

これによって「ページをめくる様子をムービーで撮影し、そのあとアプリがページごとに切り分ける」という方法が誕生しました。実際にこの方法を試したもとまか日記乙によると、1冊10分で自炊ができたとのこと。

たった10分でiPhone 4Sを使って「iPad向け電子書籍」を非破壊的自炊する方法 - もとまか日記乙

必要機材は主にiPhone 4Sとそれを固定するものだけ。Jiucieを使うと撮影したムービーをページごとの画像に切り分けてくれるので、必要があればPDF化するアプリを使えば本のPDF化までが完了する、というわけです。同様のアプリがAndroid向け、さらにはWindowsやMac向けにも出てくれば、動画を撮れる環境であればすぐに自炊可能になります。

大事な本は何かあったときのためにバックアップを残したいけれど、バラバラにするのはちょっと……と考えていた人も、これであれば手軽にできるはず。また、AmazonのKindleが年内に日本でも展開を始めますが、過去に出版された書籍のすべてについて電子データが残っているわけではなく、絶版になって部数も少ない希少な本であれば裁断するわけにもいかないため、将来的には電子書籍化する方法としてこの「非破壊」はメジャーになるはずです。

・オマケ
ちなみに、東京大学工学部計数工学科の石川奥研究室では、ページをめくっているところも全て含めて超高速で撮影し、紙の変形を推定して平坦な状態に補正可能なデータ化する「ブックフリッピングスキャニング」という技術を研究しています。こちらがそのデモンストレーションの様子。

Book Flipping Scanning - YouTube


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