爪で黒板を引っかく音はなぜ不快なのか〜全米音響学会報告
今回は神無久さんのブログ『サイエンスあれこれ』からご寄稿いただきました。
■爪で黒板を引っかく音はなぜ不快なのか〜全米音響学会報告
爪で黒板を引っかく音や、フォークで皿を引っかく音、発泡スチロールをこすり合わせたときの音、どれも想像しただけでぞっとするという人は多いのではないでしょうか?
でも不思議なことにその理由を明確に説明できた研究はこれまでありませんでした。今週から米・サンディエゴで開催される、全米音響学会大会において、独・マクロメディア大学のMichael Oehler氏とオーストリア・ウィーン大学のChristoph Reuter氏が、その謎を解明するようです。
今回は、Science誌のニュースサイト『ScienceNOW』に10月28日付で掲載された、下記参考資料を元に、一足先にその内容をご紹介します。氏らはまず、これら不快な音の原因となっている音の成分を特定しようとしました。特定の周波数帯だけ除いた音や、雑音成分だけを除いた音を被験者に聞かせ、どのくらい不快かを評価してもらったところ、周波数帯に関しては2000−4000Hzが最も不快と感じることがわかりました。
不快な音の雑音成分に関しては、不思議なことに、これを除いても不快感に差がなかった、つまり、不快感の原因は、全周波数帯を通して一定な強さをもつ雑音成分ではなく、固有の周波数をもつ音の成分であることがわかったのです。これらのことから、不快な音の原因は、特定の周波数帯をもつ音が外耳道の中で増幅されるためで、その成分を多く含む音が不快な音として感じられやすいということのようです。なぁーんだ。大した話じゃなかったな。と思われた方、実はこの話にはまだ続きがあったのです。
実験では、被験者に前述した音響成分を変えた音を評価してもらう際、音源に関して本当のこと、つまり爪で黒板を引っかいた音などと伝えたグループと、現代音楽の楽曲が音源だとウソを伝えたグループに分けたのです。すると、現代音楽だと伝えられたグループは、本当のことを伝えられたグループより、不快感の評価が低くなったのです。つまり、思い込みも不快感の原因だったというわけです。なぁーんだ。大した話じゃなかったな。と思われた方、では最後にとっておきのお話を。被験者は、主観的な音の評価をしている間、受けたストレスを客観的にも測定されていました。例えば、心拍数、血圧、発汗量など。そして、ほとんどの場合、被験者の主観的な評価と、客観的な測定結果のうち、発汗量を示す皮膚表面の電気伝導度は、統計的に有意な一致を示したのです。ところが、ウソの音源情報を伝えられたグループは、主観的評価では不快感を低く評価していたにもかかわらず、この客観的測定は、常に不快だと感じていることを示していたのです。つまり、思い込みで、脳はだませても、身体は正直に反応していたというわけです。実に人間とは複雑な生き物のようですね。なぁーんだ。大した話じゃなかったかな。最後まで。
参考資料:「Cover Your Ears!」 by Kim Krieger 2011年10月28日 『ScienceNOW』http://news.sciencemag.org/sciencenow/2011/10/cover-your-ears.html
執筆: この記事は神無久さんのブログ『サイエンスあれこれ』からご寄稿いただきました。