2011年09月6日配信の「しみマガ」より抜粋

 北朝鮮はフィジカル、メンタル共に素晴らしく、組織力もありました。「なぜ日本はこんなに苦戦するのか? もっと楽に勝てないのか?」と感じた方もいるかもしれませんが、北朝鮮のようにタフで規律のある守備的なチームを破るのは簡単ではありません。

 昨年行われた南アフリカワールドカップでは、優勝候補のブラジルでさえ、グループリーグで北朝鮮に対して辛うじて2−1。しかも引き分けに持ち込まれる可能性も十分にあった内容でした。あの王国ブラジルが大苦戦する相手、北朝鮮。

 あるいはオランダと戦った岡田ジャパンの第2戦も同様でしょう。スター軍団のオランダが、引いて守る岡田ジャパンをなかなか崩すことができず、世界的名プレーヤーであるファン・ペルシーもファン・デル・ファールトもカイトも沈黙。辛うじて後半にスナイデルのミドルシュートが決まり、1−0でオランダが辛勝しました。

 正直、日本が北朝鮮に負ける可能性はほとんどなかったと思いますが、日本が勝つのも容易ではない、この日はそういうゲームでした。

 このような展開で、規律のある守備的なチームに対して、「前半のうちに試合を決めてやろう」などと色気を出すのは非常に危険なこと。

 規律にとって最もおいしいエサは、そのような相手が発する『色気』。北朝鮮はその隙を常にねらっているわけです。日本は我慢して、冷静に試合を運ばなければいけません。守備的なチームを相手にするときは、点を奪えそうで奪えない、ジレンマを背負うのです。

 以下はザッケローニ監督の会見コメント(スポーツナビより抜粋)。

「イタリアの格言で「一滴、一滴が海になる」という格言がある。小さいものでも、たまっていけば海になるという意味だ」
「後から入った選手がよくやってくれた。彼らが良かったのは、前半からこちらがボールを支配していたので、相手が次第に疲れてきて、後から入ってきた選手にもスペースができた。そういった意味で、最初からプレーした選手たちも称賛しないといけない」

 この試合はボクシングに例えるとわかりやすいのですが、

 日本は前半からパスを回しながらジャブを打ち続けて相手を疲れさせ、ラウンドを消化し、後半に少しずつ北朝鮮の足が止まってきたところでフィニッシュパンチをお見舞いする。

 これは試合運びのセオリーです。まさに「一滴、一滴が海になる」というわけです。

 そのフィニッシュパンチになったのは、日本が後半47分からスタートさせた怒涛のCK4連発でした。この息もつかせぬ連続パンチで、ついにタフな北朝鮮をマットに沈めました。

 北朝鮮はひたすら日本の攻撃に耐え続け、後半37分には退場で1人少なくなり……。もう、心身ともに限界だったのでしょう。

 その兆候はハッキリと現れていました。

 日本のCKのとき、北朝鮮の選手はゴール脇の水を飲みに行っています。ボールは日本側が持っているので、いつボールを蹴られてもおかしくない。そういう状況で北朝鮮の選手が水を飲みに行くのは、非常に不注意な行動と言えます。ちなみに北京オリンピックで日本の指揮を執った反町康治監督も、「CKの守備のときに水を飲むな」ということを選手に徹底させていました。

 こうしたわずかな仕草にこそ、言葉よりも確かな真実が隠されているものです。

 さらに、北朝鮮はファーポスト脇に12番のサイドバック(チャン・グァンイク)を置いていましたが、この選手にも『緩み』がありました。自分の脇にあるゴールポストに手をかけていたのです。

 これは『攻守のセオリーを学ぶ セットプレー戦術120』の監修者、倉本和昌氏&藤原孝雄氏が、スペインの指導現場で学んだことですが、ゴールポストに手をかけるという行為からは、その選手の『不安』を読み取ることができます。

 北朝鮮の12番はゴールポストを守るわけではなく、ゴールの隅に来たシュートをはじくために立っているので、本来ならポストに手をかける必要はありません。しかし、何となく手を置いておきたい。触れていたい。安心したい。これは『何かにすがりたい心情』を表しているのです。

 CKというゴールに近いシチュエーション、つまりテンションをMAXに保たなければ到底防ぐことができない状況においては、このわずかなメンタルの『緩み』が勝敗を分けます。

 12番は岡崎慎司に対して、終始激しくプレスをかけていた選手でした。終盤には相当な疲労があったのでしょう。

 このようなメンタリティーの変化が現れるポイントを意識して見ると、「守り切れるチーム」と「守り切れないチーム」の違いが徐々に見極められるようになるはず。

 水を飲んではいけないタイミングで飲んでいないか? ポストに触っていないか? さらに、もしもヒザに手をついている選手でもいれば、完全にノックアウト寸前の状態。

 このようなディテールも、試合を楽しむ観戦ポイントとしていかがでしょうか?

続きは「しみマガ」にてどうぞ!