■岸野監督の怒号が響き渡ったロッカールーム

4月2日、惨敗を喫した川崎Fとの練習試合後、アウェイロッカールームには約1時間もの間、岸野靖之監督の怒号が響き渡った。「すぐ諦める」「最後までついていかない」「簡単に人にまかせてしまう」。戦術的な問題ではなく、精神面について選手たちを厳しく非難した。昨年は何度もこうしたシーンを目にすることがあったが、今年はこれがはじめてのこと。そこに今季の横浜FCの危うさが秘められていた。

今季の横浜FCは、昨季途中にGM兼任に就任した岸野監督が中心となってチーム編成を行った。藤田祥史や飯尾和也といった元鳥栖でプレーしていた選手に加え、藤田優人や中野洋司ら岸野監督が鳥栖を率いていたときから目をつけていた選手を補強。さらにルーキー4人も岸野監督自ら獲得に名乗り出て獲って来るなど、満足の行くチーム編成をすることができた。それは「今まで指揮を執ってきた中で一番強いチーム」という岸野監督の言葉が証明している。充実の補強ができたからこそ、「J1昇格」ではなく、「J2優勝」という目標を掲げることとなったのだ。

■選手たちを信頼するあまりに、ぬるま湯体質に逆戻り

岸野監督の表情は1年前とは大きく異なる。「今季のチームは走るベースが違う。戦えるチーム」。チーム始動から岸野監督は一貫してこう言い続けてきた。練習試合でJFLチームに連敗するなど不安の残る内容を見せてきたものの、岸野監督の表情に焦りはなかった。それは昨年とは対照的な態度だ。昨年はことあるごとに「このチームには根性がない」「負の流れが渦巻いている」と口にし、練習中に選手たちを激しく叱責したり、練習後に特定の選手を呼び出してフィジカルの改造をさせたりといった姿をよく目にした。「なんとかチームの雰囲気を変えたい」。岸野監督の強い思いが強烈に発信されていた。

しかし、今季は岸野監督が認める選手たちを揃えることができた。それゆえ、選手たちを信頼するあまり大人扱いしてきたのだろう。その姿勢が知らず知らずに以前のぬるま湯体質に逆戻りするという事態を招いてしまった。

そうした雰囲気に違和感を抱いていた選手がいた。飯尾だ。鳥栖時代、岸野監督のもとで“戦う姿勢”を植えつけられたセンターバック。昨季まで鳥栖の闘将としてチームを精神的に引っ張り続けてきた。そして今季、岸野監督からの熱烈なラブコールを受けて、移籍を決意。「飯尾はチームのために戦える選手。必ずいい影響を与えてくれる」と岸野監督からの期待を一身に受けて横浜FCへやってきたのだ。自身も「横浜FCを戦えるチームにするために、厳しくケツを叩いていきたい」と意気込みを語っていた。

■険しくなる、飯尾の表情

しかし、日を追うごとに飯尾の表情は険しくなっていった。「このチームは技術の高い選手が多いけど、大事なものが欠けている。自分を犠牲にして走ったり、球際で体を張ったり、そうした戦うところのベースが弱すぎる。このままでやばい。みんなが変わらないといけない」。開幕前からずっと飯尾は警鐘を鳴らし続けた。それは昨季岸野監督が口にし続けた言葉だ。だが、開幕戦で富山に敗戦を喫しても、震災の影響でリーグは中断期間に入ってからも、その空気が変わることはなかった。川崎との練習試合の2日前に行われた紅白戦。チームには覇気がまったくと言っていいほどなかった。全体的に切り替えが遅く、中盤のハードワークの動きは皆無であった。練習中、常に怒鳴り声を張り上げていた飯尾は練習後、苦しそうな表情で「川崎戦はコテンパンにやられると思いますよ」と口にした。

まさにその通りの展開となった。中盤の守備意識が低く、川崎のキーマンである中村憲剛や柴崎晃誠といった選手にプレスに行けず、自由にボールを動かされてしまった。連動したプレスがかからないため、DFラインは下がり、防戦一方の展開を強いられることとなった。結果、主力組同士の対戦では0対3の敗戦。「普段からやっていなんだから、こうなるのは必然なんですよ」。飯尾は強い口調で言い放った。