セリーグのオーナー会議の決定事項を携えて、文部科学省にお伺いを立てにいく加藤良三コミッショナーは、まさに子供の使いと言う感じだった。彼はセパ両リーグを統べるプロ野球最高の権威である。それが、両リーグの意見をまとめることさえできず、片側のリーグの走り使いとなって、差し戻されることが明らかな書類を持ってマスコミ注視の中、文部省を訪れたのである。

恐らく、この元駐米大使は内心「これほどの屈辱はない」と感じながら一連の茶番劇を演じたのであろう。高木文相(悪代官みたいに底意地の悪そうな顔だ!)にその場で報告を一蹴され、マスコミに囲まれながら、空疎なうすら笑いを浮かべるその顔には、米大統領とも差しで交渉することのできた大物外交官の面影はなかった。

文部省にはプロ野球選手会の新井貴浩会長が同行した。報告のあと、沈痛な表情で会見に応じた新井貴は「このままではプロ野球がだめになってしまう」と語った。はるかに若く、野球しかしてこなかったはずの青年の方が、エリート外交官よりも事態を正しく理解し、野球界全体の迷走に対し深い憂慮を示していたのである。

加藤コミッショナーは、この門前払いの結果を持ち帰って26日のオーナー会議で報告、事態を検討するのだそうだ。

答えは見えている。パリーグと歩調を合わせて4月12日の開幕とし、東電、東北電のエリア内ではナイターを行わない。それしかない、明白なのだ。復興の象徴として、プロ野球が早期に開催されるのは望ましいことだが、それは日付にこだわるものではない。可及的速やかに、ということだ。

しかし、それをこのプロ野球の最高権力者は決定できない。なぜなら、彼には実質的な権力はまったくなく、あからさまにいえば球界の盟主のいいなりだからだ。80歳過ぎの頑迷な老人の指令に唯々諾々と従う存在だからだ。ここまで恥をかいて、この人は何を守ろうとしているのか。あるいは、現役時代から上司や役所の言うことを素直に聞いてきただけの人物だったのか。

オーナー会議の席上、老人の意向を受けたこれも傀儡のオーナーは、またぞろ愚かしい案を出すのではないかと思う。下手をすればパリーグに対し、新リーグ結成をちらつかせるかもしれない。つまらない意地と面子が、プロ野球を深い混迷に陥れている。

対照的にパリーグはここ数年、MLBの経営を参考にしつつ、リーグ全体としての繁栄を考える政策を次々と打ち出してきた。観客動員が伸びただけでなく、選手育成でも、マーケティングでも成果を上げている。プロ野球はいつまでも企業の宣伝部ではいけない、という意識が定着しつつあるように思える。リーグとして個別の利害を越えて行動することの大切さを知っている。

滝鼻オーナーは、「政府が決めることじゃない」と息巻いて、パリーグに対しても交流戦の見直しさえちらつかせている。まともな企業のトップとは思えない発言だ。これも老人の耳に達することを意識しての発言だろう。ジャーナリストとしての矜持はなくなったのだろうか。

野球が好きでもなく、ナショナルパスタイムに尊敬の念も抱かず、あたかも男芸者を抱えるようにしか思えない老人は、この際退場すべきである。
敏腕の記者であったはずの老人は「晩節を汚す」と言う言葉を知っているはずだ。加藤良三コミッショナーともども、人間は引き際が肝心だと心底から知るべきだ。

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