「殺人でもこんなに重くない」 識者も驚く福岡ひき逃げ高裁判決
高裁で下された判決は、なんと地裁判決の3倍の懲役20年――。福岡の3児死亡ひき逃げ事件の控訴審は、司法関係者が「殺人より厳しい」と驚くほどの結果になった。しかし、ネット上では、「当然だ」との声が強い。最高裁で争われても、厳罰化の流れは変わらないのか。
ネットでは「当然だ!」の声多く
過失の脇見運転でなく、故意の酩酊運転だ。福岡高裁が2009年5月15日に下した控訴審判決は、こんな言い方に要約できそうだ。
新聞各紙に報じられた判決内容によると、福岡市職員だった今林大(ふとし)被告(24)は06年8月25日、焼酎ロック8、9杯など多量の酒を飲み、視覚に異常が生じていることを自覚しながら車を運転。脳機能が抑制されて前方注視が困難のまま、時速約100キロで車を走らせ、間近まで認識できずにRV車に追突。その結果、橋から転落させて家族5人を死傷させたとした。
そのうえで、高裁は、検察の主張する危険運転致死傷罪を適用して、懲役20年の判決を言い渡した。この事件で、検察は、ひき逃げと合わせて最高刑の懲役25年を求刑していた。
08年1月8日の福岡地裁判決では、酒酔いはひどくなく、長い間脇見をしてしまったとして、業務上過失致死傷罪を適用。この罪では最高刑の懲役7年6か月の判決を言い渡していた。
地裁判決について、高裁では、今林被告が走っていた道路の左側が下がっており、ハンドル操作が必要のため長時間の脇見はできないはずだと指摘。その事実認定は誤っているとして、判決を破棄した。
この事件では、幼児が3人も犠牲になるなどしたため被害者感情は強く、ネット上でも、被告への厳罰を望む声が強い。今回の高裁判決についても、歓迎する声の方が多く、ヤフーの時事通信記事では、「一審判決甘すぎ。当然だ!」「3人死なせておいてそれでも懲役20年はぬるいような気がします」といったコメントが上位を占めている。
弁護士「強い違和感を感じる」
今回の高裁判決は、ネット上などでは受けがよい一方、司法関係者の間では、戸惑いが広がっているようだ。
産経新聞の2009年5月15日付記事では、交通事故裁判に詳しい高山俊吉弁護士が「非常に問題の多い判決で強い違和感を感じる。厳罰化をにらんだ結論ありきの判決ではないか」と言っている。
メディアコメントも多い日大大学院法務研究科の板倉宏教授(刑法)は、判決について、「25年いっぱいの懲役刑はありえないことですが、それでも、かなり厳しい判断だと思います」と感想を話す。
この事件は、結果的にひき逃げしたとしても、殺すために故意に追突したという殺人案件ではない。板倉教授は、「殺人でも、こんなに重くなりません。懲役10数年になることが多いです。傷害致死3人でも、懲役20年はなかなかありません。遺族や市民の処罰感情を反映したものでしょうが、自動車の事件に限って重い感じがします。(高裁は)危険運転致死傷罪を適用する前提で事実認定したとしか思えませんね」と言う。
被告側は、高裁判決を不服として上告する方針。しかし、板倉教授は、「最高裁で判決がひっくり返るケースは、あまり多くありません。懲役20年より減刑される可能性がないわけではありませんが、今回は被害者の数が多いので、そのままの量刑になる可能性が強いでしょう」と話している。
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