賃貸?購入?高層階セレブ生活に影を落とす、タワマン「修繕費」リスク
タワマンは賃貸で住みたい
「タワマンは庶民が35年ローンを組んでまで購入すべきものではありません。一部の富裕層を除き、賃貸で居住すべきものでしょう」
こう語るのは、税理士でマンション管理士の資格を持つ宮路幸人さんだ。
マンションに入居すると、エレベーターや照明設備など共用部分の費用をまかなう管理費とともに、12〜15年間隔で行われる大規模修繕工事に備えての修繕積立金(以下、積立金)の支払いが発生する。
宮路さんの調査では、購入直後のタワマンの管理費は平均約2万円、積立金がおおむね1万円未満の計3万円弱。
「ところが積立金は段階増額方式を採用している場合が多く、年数がたつと当初の4〜5倍になるケースがあります。購入当初はマンションの修繕がほぼ必要ないことに加え、不動産会社が売らんがためにできるだけ安く設定して売り出すからです」(宮路さん、以下同)
マンションは年数が経過すると資産価値が下がるが、逆に修繕のための積立金などは上昇する。経年によって傷む部分が増え、そのメンテナンスが欠かせないからだ。
「そうなると、投資目的の富裕層は売却や買い替えなどの方向へ動きますし、住宅ローンを組んで購入した人たちも年金生活に入ってしまい積立金の値上げに応じるのが難しくなっていくのです」
積立金は2回目以降、不足する可能性が高い
それでも築12〜15年で行われる1回目の大規模修繕はどうにかしのぐことができる。建物にもまだそれほど傷みはみられないし、居住者たちも現役世代が主流だからだ。
だが、この1回目の大規模修繕をなんとかしのげたとしても、建物を老朽化から守り、資産価値を守りたければ、2回目、3回目と、10数年ごとに大規模修繕が必要。
「2回目では、基幹設備の修繕に手をつけなければなりません。エレベーター、給排水設備、機械式駐車場などで、この修繕は1回目よりずっと大規模。2回目以降は積立金が不足する可能性が高くなるのではないでしょうか」
結果的に、憧れのタワマンが廃墟化する可能性も否定できないというのだ。
「廃墟化を避けるためには、積立金の増額か、多額の臨時徴収をお願いするしかありません。しかし値上げ時には、年金生活者から“そんなにお金がかかる工事は不要”などの反対が予想されます。
必要な大規模修繕を実施せず、資産価値が下がると、余裕がある人ほど出ていってしまう。富裕層や投資目的での購入が多いタワマンの場合、それが顕著でしょう」
世帯所得が年1400万円でも購入は相当リスキー
こうした背景のもと、資産価値が下がれば即、売却できるような富裕層以外の人たちは、タワマンは賃貸がベターであると宮路さんは主張する。
「富裕層を除くタワマン購入者の多くは世帯所得が年1400万円超のパワーカップルといわれる人たち。カップルで働いていますから、購入時の世帯所得こそ平均よりかなり豊かですが、多くが多額のローンを組んでの購入です。
産休、育休で収入が下がる可能性や、決して安くはない管理費などの支払いを考えると、タワマンの資産価値が低下した場合、長期ローンを組んでの購入は相当リスキーではないでしょうか」
確かに賃貸であれば、転居はずっと簡単だ。都心のど真ん中に住む利便性や、時代の最先端をいく場所に住む満足感、プールやジムなど充実した設備目的でタワマン居住を望むなら、賃貸での入居は確かに一考すべき。
マンションの資産価値についても、こんなことを──。
「昔のように住宅不足で地価が右肩上がりの時代なら、利便性のいいマンションは資産価値がありました。しかし、少子高齢化が進み、空き家の増加が問題になるこの時代、ビンテージマンションと呼ばれる一部の物件こそ資産価値は高いですが、それ以外はいかがなものでしょうか」
タワマンは購入してはいけないものなのか。
「タワマンに限らず、住人が年をとり、居住者が入れ替わっていくマンションは売却することを前提に購入するべきというのが持論です。
どうしても購入したい場合は、住み替えを前提に売りやすい物件を選ぶことです。具体的には、都心の真ん中で駅から近く、商業施設隣接で生活に便利な場所にあるような物件ですね。理想は山手線沿線でしょう。これらの条件がそろえば、それほどリスキーではないかもしれません」
こうした都心以外なら、タワマンは賃貸で入居すべしと宮路さん。
「住宅購入はひとたび間違えると人生が狂います。タワマン購入は高額なだけに庶民には荷が重い。“終(つい)の棲家(すみか)”としてはおすすめしません」
タワマンは購入していい
「タワマンは廃墟化しない。安心して“終の棲家”として購入していい」
こう主張するのは、住宅ジャーナリストの櫻井幸雄さん。
「“積立金不足でマンションが廃墟化する”という懸念は、昭和の時代、低・中層階までのいわゆる普通のマンションの時代からありました。
しかしこれは、最初の金額設定が甘すぎたのが原因。つまりは販売時、売らんがために積立金を安く設定していたことから発生した問題なのです。タワマンの場合、そういうことは今ではほとんどありません」(櫻井さん、以下同)
タワマンは高額とあって富裕層の購入が多い物件だが、富裕層であればあるほど、自らの資産価値保全については実にシビアと櫻井さん。
昭和から存在する積立金不足の問題も十分に勉強したうえで物件を検討するし、大規模修繕費が高額なことも、購入前からとうに折り込みずみだという。
こうした用意周到な人々を相手にするだけに、販売会社はあえて当初から管理費と積立金で3万円以上と高額に設定し、大規模修繕を織り込んで販売していると櫻井さん。
つまりは追加金が発生しないですむように、当初から積立金が高めに設定されているというのだ。
タワマンだけに、昭和の時代のマンションよりも入居数はずっと多い。数の多さは積立金の潤沢さにつながる。大規模修繕時に積立金が不足するようなことはないと、櫻井さんは断言する。
「事実、私が大京アステージと住友不動産建物サービスが管理受託するタワマンを調べたところ、両社合わせて40棟ほどがすでに大規模修繕をしていましたが、追加金を集めたタワマンは1棟もありませんでした」
意識の高い入居者だからこそ、対策に余念がない
では、2回目、3回目の大規模修繕も大丈夫なのか?
「確かに建物が老朽化すれば、修理箇所は多くなります。しかし、タワマン入居者には意識の高い、専門職の人が多い。例えば弁護士や建築士、税理士といった人たちですね。
こうした人たちは資産であるマンションを守りたいという意識も高く、2回目以降の対策にも余念がない。例えば管理費を節約、積立金に組み入れるなどの対策です」
前述したとおり、居住者は管理費と積立金を毎月支払うが、タワマンの場合は管理費を多く徴収する傾向があるそう。
共同施設の維持管理費やセキュリティー、エレベーターの維持管理などへの支出を賄うためで、通常、多めに見積もられているという。
「こうした管理サービス、例えば、利用者の少ない共用部分の維持費用をカットするなどで節約、お金を積立金に回すのです。そうして2回目、3回目に備える」
大規模修繕工事そのものも予算を節約
さらには大規模修繕工事そのものも、予算節約が効果的に行われているという。
例えば、タワマンはスーパーゼネコンといわれる大企業しか建設することができない。いざ大規模修繕工事となると、マンションを造った建設会社に頼みがちだ。
ところがスーパーゼネコンは、修繕工事は自分たちではやらず、下請けに任せる。こうした二重構造で、スーパーゼネコンに見積もりを頼むと極めて割高になってしまう。
これを避けるため、多くのタワマンでは1回目の大規模修繕の段階からコンサルティング会社を通して発注しているという。
「建物の監修と建物診断ができる建築設計のプロに依頼して、プロの目でふさわしい施工業者を選択、見積もりを提出させているのです」
こうした工事費用を抑える取り組みや、付帯設備として用意されたラウンジやジムなどを整理。
そうすれば、積立金の金額を上げることなく、2回目、3回目の大規模修繕に備えることは十分、可能と櫻井さん。
つまり、タワマンは積立金が足りずに廃墟化することはなく、安心して“終の棲家”にできうるというのだ。
とはいえ資産価値を保ちたい場合には、立地には注意したいという。
「タワマンはどこでも建てられるものでなく、都心や再開発エリアでないと建設はできません。こうしたエリアには規模の大きなスーパーがあり商業施設があるなど、中古になっても人気は落ちず、価格は下がりません。
ですから資産価値を考えれば、都心にある便利な場所にあるタワマンを選ぶのがベターです」
次のような理由からも、タワマンの価値は保たれると説明する。
「実はマンションに一生住み続けたいという人の比率は下がっています。住人は、将来は介護の可能性も含め、親の家を継ぐ人も多いんですね。
そうした人たちは処分しやすい家、貸しやすい家を好みます。つまりは都心のマンションです。こうしたタワマンは、揺るがぬ資産価値を持つ物件なのです」
乱立するタワマンだが購入するなら、超一等地に限るということか。
宮路幸人さん◎税理士。多賀谷公一税理士事務所所属。AFP(アフィリエイテッドファイナンシャルプランナー)資格ほか、宅地建物取引士、マンション管理士などの資格を保有。『税理士ドットコム』にタワマンに対する懸念を管理面から指摘、注目を集める。
櫻井幸雄さん◎住宅ジャーナリスト。1984年に『週刊住宅情報』記者となり、さまざまなマンションと管理組合を取材。毎日新聞で住宅コラムを連載中。著書に『知らなきゃ損する! 21世紀マンションの新常識』(講談社刊)などがある。