ささいなことで急に怒りだしたり、何気ないことが逆鱗に触れて頭が瞬間沸騰してしまう人は世の中に少なからず存在するものです。人の「怒りやすさ」と「頭の良さ」の関連について調査した最新の研究からは、「怒りやすい人は自分のことを実際よりも賢いと考えている」という実態が明らかになっています。

Why do angry people overestimate their intelligence? Neuroticism as a suppressor of the association between Trait-Anger and subjectively assessed intelligence - ScienceDirect

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160289618300102

Angry people are more likely to overestimate their intelligence, study finds

https://www.psypost.org/2018/08/angry-people-are-more-likely-to-overestimate-their-intelligence-study-finds-51890

この研究はポーランドのワルシャワ大学の科学者であるMarcin Zajenkowski氏らの研究チームが行ったもの。「怒りやすさ」と「賢さ」という2つの観点を結び付ける関係が明らかにされたこの研究についてZajenkowski氏は、「最近のプロジェクトでは、怒りとさまざまな認知機能との関係を調べました」と述べています。

Zajenkowski氏は過去の文献をリサーチした中で、「怒り」は「悲しみ」や「不安」「気分停滞」などネガティブな感情とは異なるものであることを確認していたといいます。怒りは、より相手に働きかける志向を持つ「アプローチ・オリエンテッド」なものであり、楽観的なリスク認知と全体的に楽観的なバイアスがかかったものであるというのがZajenkowski氏の研究による結論です。



By Patrik Nygren

その後の研究では、528人の学生が被験者として実験に参加しています。まず被験者は、自分がどの程度頻繁に、そしてどの程度怒りやすい気質であるかを尋ねるアンケートに回答。次に、自分にはどの程度の知力(intelligence)が備わっているかを尋ねるアンケートに答えた後に、実際の知力テストを受けました。

これらの結果を総合したところ、最初のアンケートで「怒りやすい」と答えた人の多くは、自分の認知能力を高めに見積もる傾向があることが判明したとのこと。一方、怒りやすい傾向を持つ人の中でも神経質な傾向を持つ人は、実際の状況よりも自分の認知能力は低いと考える傾向にあることもわかったそうです。



By Anita Hart

研究チームは、この傾向を説明するキーワードとして「ナルシシズム(自己愛)」という概念があげられると指摘しています。Zajenkowski氏はこの点について、「怒りやすい気質の人格であるほど、『narcissistic illusions(自己愛的な幻想)』と結び付いている」と述べています。

今回の研究では「怒りやすい人ほど、より自己愛が強く、自身の知力を高めに見積もっている」ことが判明したのですが、一方で、その「怒りやすさ」は実際の知力レベルには関連が認められないという点を把握しておくことが重要であるとのこと。研究からは「怒り」と「自己愛」という2つの要素の関連が認められましたが、実際にどのような仕組みでこの2つの要素が相互に作用しているのか、その詳細はまだ明らかにはされておらず、今後の詳細な研究が待たれる段階です。

今回の研究で調査されなかったこととしては、「実際の怒りの勢いによって認知力がどのように影響を受けるか」という点が挙げられるとのこと。今回は、怒りは個人的な特徴の一つとして評価を行っていますが、怒りは多くの場合、一時的な感情の表れです。今後は、「簡単には怒らない気質の人が実際に怒っている時において、自分の知力についてどのように認識しているのか」という点についても調査を行うことで、怒りやすさと知力の関係を多面的に理解するための研究が求められることとなるとのことです。



By Jim Cortez