2022年4月から18歳は成人として認められることに。一方、高騰する大学の学費と低下する親の経済力。費用負担の比重が子どもにシフトしています(写真:kohei_hara)

6月13日、成人年齢を20歳から18歳に引き下げる改正民法が成立しました。2002年4月2日から2004年4月1日生まれまでの子どもは2022年4月1日付で全員が成人に。2004年4月2日生まれ以降の子どもは18歳の誕生日を迎えた段階で成人となります。今年度に16歳を迎える子どもたちから、成人が早まることになります。

改正後は18歳になると自分で有効な契約ができるようになり、父母の親権に服さなくなります。具体的にはクレジットカードの申し込み、携帯電話の契約、賃貸借やローンの契約のほか、住む場所や進路の決定も含まれます。

なかでも進路や居所の決定、場合によっては賃貸借の契約は、これまでも高等教育に進む学生が高校を卒業する18歳ごろに直面する一大イベントでした。これを「未成年」として経験するのか「成年」として経験するのかは、学生自身にとっても、その保護者にとっても大きな違いです。

進学の決定や必要な費用の負担については、多かれ少なかれ親子で話し合って決めるのが一般的ですが、それが自ら責任を負わない未成年の子なのか、成年の子かでは、判断基準が変わってくることもあるためです。

親が出すべきと考える人は多い

教育費の費用負担などを専門とする東京大学の小林雅之教授などが2013年にまとめた「大学進学と学費負担構造に関する研究」によると、これまで日本では「親が子どもの教育に責任を持つのは当然であるという教育観」が主流でした。

同教授の調査では、高校を卒業した子の保護者の73.9%が、大学卒業までの学費・生活費は「保護者が負担するのが当然だ」と考えており、所得にかかわらず大部分を家計から捻出していることが確認されています。ファイナンシャルプランナーである筆者も、子どもを大学まで進学させるために貯蓄したいという相談をたびたび受けます。その多くが「できるだけ子どもには負担させず、親が出してあげたい」と望んでいます。

「親が大学生の子の進学費用を出す」という考えには、高校生を取り巻く社会環境も影響しています。日本には高等教育費用を公的負担するしくみがあまりなく、諸外国と比べても私的負担が非常に大きい特徴があります。加えて全日制の高校に通っていれば、学費全額を生徒自身が稼ぐのは困難です。

大学でかかる費用は、国公立大学でも入学関連で平均約70万円、在学中に年間約109万円で、4年間で合計約500万円に上るのです。さらに進学時点で未成年であれば、親の庇護のもとにある子どもの学費を親が主体的に準備するというのはごく自然な考え方でしょう。

学費を家計のみでまかなうのはもはや困難

ところが近年、親が子どもの教育に責任を持つのは当然であるという教育観のもとで、日本の親たちが子どもの教育費を負担するという構造は崩壊しつつあります。保護者だけの負担で大学などの学費を工面するのが厳しい家庭も珍しくないのです。上述の小林教授が2016年に高卒生の保護者を対象に行った調査でも、奨学金またはローンなしで大学に進学するのは不可能とする回答が、約7割を占めています。

もちろんこれは家庭の経済状況によって差があります。別の調査では、親が低所得であればあるほど学費の全額を家計で負担する家庭は少なく、学費を全く負担しない、あるいは半分以下しか負担しない家庭が多いことがわかっています。

年収600万〜800万円の世帯でも、授業料の半分以下しか負担しない家庭は1〜2割あります。授業料の全額を家計から出す家庭が9割以上を占める年収800万円以上世帯と大きな差があることも小林教授らは指摘しています。平均水準以上の収入がある家庭でも、子どもの高等教育の費用を負担するのは楽ではないことをうかがわせます。

同時に、費用負担の比重は子どもにシフトしています。日本学生支援機構によると、奨学金を受給する学生はこの20年で2倍以上に増え、2016年度には大学生の48.9%と、2人に1人を占めています。アルバイトをしている学生も大学生の83.6%を占め、うち36%は「家庭からの給付のみでは修学不可能・困難」と回答しています。

学費だけでなく、生活費のサポートにおいても親のインパクトは縮小傾向にあるようです。全国大学生活協同組合連合会の調査では、自宅外から通学している学生への保護者からの仕送り額が月に10万円以上という学生は、1995年の62.4%から2017年には37.2%に減少しました。逆に、仕送り額が5万円未満やゼロの学生が7.3%から22.6%へ、3倍以上に増加しています。

こうした変化の一因には学費の高騰があります。国立大学の授業料は1975年度の3万6000円から2018年度の53万5800円と約15倍に、私立大学でも約4倍に増加しました。その結果、家計に対する学費の負担は重くなりました。家計の可処分所得(月額)に対する授業料(年額)の比は、国立大学で0.5倍から2倍、私立大学では1.7倍から3倍以上になったのです。

18歳成人で、子どもが担う傾向が強まる可能性もある

成人年齢が18歳に下がれば、ローンのハードルも下がります。現在、教育ローンは進学する子の保護者が借り入れることになっています。学生本人が借り入れるのは、「成人されており、勤務収入などの安定したご収入があって、独立して生計を営んで」いる場合(日本政策金融公庫「国の教育ローン」)など、例外的な扱いとされています。

これは法改正後も基本的に変わらないため、法律上は成人になってローンを借り入れる権利があっても、学業を優先する学生が容易に借りられるわけではありません。ただ、学生がローンを組みやすくなるのは確かです。奨学金とは別に、学生自身が教育ローンを組むケースも出てくるでしょう。

しかしローンのしくみへの理解や返済計画が不十分なら、すでに社会問題とされている貸与型奨学金の返還難のように、学生時代に負った多額の債務に苦しむ恐れもあります。社会変化の流れのままに子どもが過度な金銭的負担を抱えないよう、これからは高等教育の資金計画を着実に立てる能力が、親子ともに求められるのではないでしょうか。

折しも、政府は低所得者層を対象にした高等教育の無償化を議論しています。また2017年度からは、日本学生支援機構に国費を財源とした給付型奨学金と、所得に応じて返還額が決まる所得連動返還型無利子奨学金が創設されました。現在も、制度や対象者の拡充が検討されており、今後は家計にかかる高等教育の負担が軽減されていくことも期待できます。

とはいえ、公的負担の恩恵はすぐにすべての学生が、学費全額について享受できるわけではありません。当面は、家計が少なからぬ学費を負担する現状は劇的には変わらないでしょう。

大学4年間の学費は、それまでの18年間でかかる学費の総額とほぼ同額に匹敵します。人生で最も重い教育費がかかる時期は、法律上成人にはなっても経済的な自立には達していない時期と一致します。

18歳が成人になったとしても子どもと大人の狭間にいるわが子の学費を、親子のどちらがどれだけ負担するのかは非常に難しい問題です。子どもを持つ親、そして成人となる子ども自身も、これまで以上に十分に向き合う必要に迫られるでしょう。来るべき新成人に向けて、進路やかかるおカネについての意識やリテラシーを親子ともに高め、計画的に準備することが、今後ますます重要になるはずです。