普通自動車運転免許の取得には、俗に「一発免許」と呼ばれる方法がありますが、初心者には到底おすすめできません。もちろん、そこにはもっともな理由があります。

「一発免許」は本当に得なのか?

 春休みや夏休みなど学生が長期休暇に入ると、自動車教習所は大いに混み合い、料金を高めに設定しているところもあります。

 ただでさえ自動車教習所はお金がかかるものです。普免(普通自動車運転免許)を取得しようとした場合、AT限定か否かでも値段は異なってきますが、安くて20万円前後が底値のようで、おおむね30万円前後が相場のように見受けられます。合宿をしつつ短期間集中で普免取得を目指す、比較的安価な「合宿免許」も、宿泊費込みで20万円前後というのが相場のようです。

学生の長期休暇シーズンは自動車教習所の稼ぎどき。写真はイメージ(画像:写真AC)。

 一方、俗にいう「一発免許」という方法もあります。これは各都道府県の公安委員会が管轄する「運転免許試験場」にて、自動車教習所を介さず直接「技能試験」と「学科試験」を受けるというものです。

 道路交通法に定められた「指定」を受けている自動車教習所は、その卒業認定をもって上述の「技能試験」が免除されますが、「学科試験」は運転免許試験場で受験する必要があります。言ってしまえば、運転免許試験場での技能試験さえ合格することができれば、高いお金を払って自動車教習所に通う必要はないのです。東京都の場合、普免の「一発免許」本試験にかかる手数料は、受験料と試験車使用料、免許証交付料とで、あわせて5150円です(2017年2月現在。別途、取得時講習受講料が必要です。また仮運転免許証が必要など、受験には条件があります)。

 そのようなわけでこの「一発免許」、一見かなりお得に見えますが、実はそうとも限りません。というのも、理由は後述しますが、まったくの初心者が「一発免許」で普免を取得するのは現実的ではないからです。

 では、なぜ「一発免許」なる制度があるのでしょうか。

初心者に「一発免許」がオススメできないワケ

 いわゆる「一発免許」は、過去にクルマを運転した経験のある人が、改めて普免の交付を受ける際に受験する、といったケースなどに有用な制度です。たとえば自宅敷地内で農作業のため長年軽トラックを運転していた、といったような、運転技術そのものにはなんら問題がない場合などが考えられます。

 ほか、運転免許試験場で技能試験を受けるケースとしては、運転免許の取り消し処分を受け改めて取得する場合や、運転免許を失効させ技能試験免除条件に合わなくなった場合、外国で運転経験がある場合などが考えらえます。

 しかし、そのような「過去に普免を持っていた受験者」を含めても、運転免許試験場における技能試験の合格率は高くないそうです。フジドライビングスクール(東京都杉並区)の田中さんは「おおむね2割程度」といいます。まったくの初心者による「一発免許」受験が現実的でないのはこのためです。

 もちろん「技能試験」は何度でも受験できますが、合格できずにずるずると何度も受け続けるといった事態に陥らないとも限りません。そうした場合、自動車教習所に入校し、改めて1から始めるしかないのでしょうか。

自動車教習所にも種類がある

 ひと口に「自動車教習所」と言っても、実は種類があります。前述の、卒業認定をもって技能試験が免除される自動車教習所は、一般に「公認自動車教習所」、道路交通法上では「指定自動車教習所」と呼ばれます。それ以外はすべて、一般に「非公認自動車教習所」と称されるものです。

 また非公認自動車教習所にも種類があり、「届出自動車教習所」、「特定届出自動車教習所」、そしてそれ以外の教習所とに分類されますが、いずれも普免取得の際は、運転免許試験場にて技能試験を受ける必要がある点は変わりません。

 前出のフジドライビングスクールも、そうした非公認の教習所に分類されます。同校は運転免許試験場での技能試験に向けた教習を1回単位で行っており、自らを「運転免許を失効や取り消しなどで再取得される方、また外国免許の切り替え試験を受験される方を対象」とした「非公認自動車教習所」と説明しています。つまり前述のような、過去に普免を持っていて、かつどうしても技能試験に合格できない場合の、受け皿的な役割も果たしているといえるでしょう。

 では、まったくの初心者が同校で教習を受け、「一発免許」に合格できるものなのでしょうか。同校の田中さんは「可能性はなくはないですが、おすすめはできません」と断言します。

「大学受験でいえば予備校のようなもので、運転免許試験場での技能試験に合格できるテクニックやコツはお教えできますが、学科であったり、路上の一般常識といった部分をお教えする時間がないからです。ですから学生さんなど初めて運転免許を取ろうとする人は、最初は公認の教習所に通い、交通全体の教育を受けていただきたいと思います」

 ここまで主に「技能試験」について述べてきましたが、当然ながら、普免を取得するには運転免許試験場で学科試験にも合格する必要があります(すでに二輪免許、大型特殊免許を所持しているなど、免除される場合もあります)。加えて田中さんもいうように、路上には、試験に出なくとも知っておくべきことがあります。

「多少高くとも、『公認』に通う価値はある」と、「非公認」の田中さんも話します。やはり最初はお金がかかったとしても、指定自動車教習所などを検討したほうがよさそうです。

【写真】教習車といえばあのクルマ

マツダ「アクセラ」は国内教習車の約3分の1とシェアトップ(2015年9月、マツダ調べ)。写真は2014年6月5日、同車累計生産1万台達成記念式典の様子(画像:マツダ)。