宇佐美貴史の2度目のブンデスリーガ挑戦が始まっている。7月1日にアウクスブルクから正式発表がされ、39番の新ユニフォームとともに写真に収まると、その2日後に行なわれたプレシーズンマッチ、ゾントホーフェン(5部)戦に途中出場してさっそくゴール。13日に行なわれたイラーティッセン(4部)戦では先発出場してアシストを記録するなど、順調に歩みを進めている。

 聞くところによると、宇佐美の今回の挑戦には本田圭佑の「檄」に近いアドバイスが刺激ときっかけを与えているようだ。日本代表の常連になるにつれて、欧州組に囲まれる時間は長くなる。自然と今回の再挑戦という判断に至ったのかもしれない。

 ただ、もともと宇佐美は、2013年にガンバ大阪に戻った時から欧州への再挑戦を視野に入れていた。「それがいつのタイミングになるのかはわからないが......」という言い方を、以前、インタビューを行なった際にしていた。ロシアW杯を視野に入れながら、ガンバ大阪の状況も考慮しつつ、さらに自分の年齢とも相談して今回のタイミングということになったのだろう。この5年に限っていえば、一度帰国し、欧州に再挑戦する選手は初めてとなる。

 移籍したアウクスブルクは今季、監督が交代し、ディルク・シュスター(48歳)が指揮をとる。昨季まではダルムシュタットを率いて、34年ぶりに1部リーグを戦ったクラブを残留(14位)に導いた。

 ちなみに昨季までアウクスブルクを指揮していたマルクス・ヴァインツィアルは、引き抜かれる形でシャルケの監督に就任した。カルロ・アンチェロッティに決まる前はバイエルン・ミュンヘン監督就任の噂も出たほど、ドイツ国内では注目の監督だ。そのヴァインツィアルは現役時代の98〜99シーズンにバイエルンに所属。だが試合出場は叶わなかったようで移籍している。もし残っていれば、宇佐美の心境を理解してくれるドイツ人だったかもしれない。

 とはいえ、監督が交代し戦力もある程度新しくなるという意味で、自らも新戦力として加わるには悪くないタイミングだ。アウクスブルクという場所も悪くない。ミュンヘンからICEという新幹線で約1時間。街は小さいが古くて美しく、落ち着いた環境で暮らせるはずだ。おそらくかつて在籍した細貝萌からも情報を得ているだろう。1からトライするには悪くないチームである。

 そもそも宇佐美の突破力、スピード、センスといったポテンシャルに対しては、最初にドイツに渡る前から高い評価が与えられていた。加えて10代でバイエルンというブランドクラブに獲得されたということは、それ自体が実績である。

 それでもバイエルンで1年、ホッフェンハイムで1年、合計してたったの2年でドイツを去ることになったのは、それぞれ異なる理由がある。バイエルンから出されたのはその時点での彼のプレーに関する問題であり、ホッフェンハイムを出たのはコミュニケーションの問題だと見る。

 バイエルンでは、重要なプレシーズンマッチ、アウディカップの決勝バルセロナ戦で先発フル出場を果たすなど、着実にアピールし、チャンスも与えられていた。そして公式戦でもチャンスは巡ってきた。11〜12シーズンの開幕戦でボルシアMGに敗れ、迎えた第2節ヴォルフスブルク戦。宇佐美は69分、トーマス・ミュラーとの交代でピッチに立っている。アウェー戦でスコアは0−0。2連敗は絶対に避けたい状況での投入だから、期待値の高さがうかがえた。

 試合は後半ロスタイムに入り、バイエルンが待望の先制ゴールをあげる。だがその直後のことだった。宇佐美が自陣でボールを持ち仕掛けるのだが、すぐに奪われてしまう。このプレーが原因で、マリオ・マンジュキッチにシュートまで持っていかれた。

 名門、強豪とは厳しいもので、ミス、特に禁じられたミスは絶対に許されない。このシーンでいうと、自陣で身勝手に仕掛け、しかも相手のポジショニングへの甘い判断からボールを奪われてシュートまで持っていかれたということに対して、指揮官ユップ・ハインケスは容赦なかった。試合終了目前でありながらすぐさま交代を命じた。宇佐美にとって途中出場途中交代という、ほろ苦いでは済まされないデビュー戦となった。

 その後、おそらく挽回するチャンスはあっただろうが、リーグ戦で次にチャンスが巡ってきたのは第32節。ガンバの至宝にとっては苦しい1年となった。

 続いてのホッフェンハイムでは、チームの不調と相次ぐ監督交代という不運はあった。だが、そのチームを立て直すほどの活躍ができなかったことも確かだ。第27節(2013年3月16日)に途中出場してからシーズンが終わるまでの2カ月間、宇佐美はまた試合に関わることができなかった。

 ホッフェンハイムでの宇佐美は、指揮官に自分の改善点を聞いたり、要望を伝えるために話をしにいったり、彼なりの努力をしていたと思う。だが、どことなくチームの中でうまくいっていないのではないかと感じられることもあった。

 移籍の噂が出始めたシーズン終盤のホーム戦、スタジアムに取材に行っても宇佐美の姿はなかった。ベンチ外選手は、試合後にロッカールームに顔を出すのが恒例だが、そのグループにもいなかった。不満、苛立ち、孤独もあったのだろうが、せめてチームの一員として行動することは、チームメイトの信頼を得る第一歩のはずだ。それができないあたりに、コミュニケーションの問題があったのではないかと推測してしまうのだ。

 2度目の渡独にあたり、ドイツ語の習得が課題だという声もちらほら聞く。もちろんドイツ語ができるにこしたことはないが、言葉そのものは日常生活レベルで構わないだろう。難しい話はチームが通訳などの専門家を入れるはずだし、それを要請したっていい。ピッチ上のことは言葉がなくてもわかるのがサッカー選手だ。

 それよりも必要だと思うのは、相手に興味を持ち、受け入れる姿勢だ。バイエルン時代は同僚をリスペクトしすぎ、ホッフェンハイム時代は距離を置いた。そしてアウクスブルクも、子供の頃から育ったガンバのように、何事もあうんの呼吸でわかってもらえるような環境ではない。気を遣って話しかけてくる選手など皆無とは言わないが、少ないに違いない。

 もちろん、そんなこと本人が一番わかっているはずだ。だからこそ、宇佐美が何をどう表現していくか。楽しみな2度目のチャレンジである。

了戒美子●文 text by Ryokai Yoshiko