まるで宝石のようなガラスペン。驚くほど文字が書きやすいです。

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最近はパソコンばかりで文字を書く機会が減っている。それでも一度はと憧れるものがある。それがガラスペンだ。

数年前からじわじわ続いている文具ブーム。その中でも高級感があり、かつ人生に一本だけでもと思えるガラスペン。西洋生まれのように思えるが、実は明治時代に日本で生み出された日本産。
しかし使うのが難しそう、お手入れが難しそうと尻込みしてしまう人も多いはず。そこで、京都でガラスペンを作り続ける職人さんに会いに行ってみた。

それは、ガラス工房ほのお。現役でガラスペンを作り続ける菅清風さんはなんと御年94歳。
ガラス職人として60年の経歴を持ち、ガラスペン作りはもう40年以上にもなるという。
制作時間は、1本4時間ほど……とはいえ細いガラスの棒を1200℃のバーナーで加熱しながらペンを作り出すのは、体力と集中力を要する。それでも作り続けるのは「ガラスペン作りが好きだから」と菅さん。
実は菅さんの本職はネオン職人。
「本職は別にありますから、ガラスペンは趣味でやっています。もし壊れたら送っていただければ無償で直します。一生使い続けて欲しいので」
と、ガラスペンへの愛情が凄いのである。

ガラスペンといえば使い方が難しそうだが、実は意外なまでに簡単。ペン先をインクにつけると、先の切れ目にシュッとインクが吸い上げられ、葉書一枚くらいなら一回の吸引だけで書くことができる。真っ直ぐ立てて書けば太く、横にすると細くと、線の太さも自由。しっかり吸引されるためインクも垂れない。ここまでしっかり書けるのは、ペン先に独自の技を加えているからと菅さんはいう。
さらに使い終わればそのまま置いてもいいし、洗いたければ水でペン先を濡らして布で拭き取るだけで簡単に取れる。だから別の色を使いたい時も、絵筆感覚で使えるというわけだ。

硬質ガラスを用いることで、加工は難しくなるが強固で先が摩耗しないペンに仕上がった。そんな菅さんの作るガラスペンの種類はさまざま。ペン先にこだわり、漫画家のために先の細いものも特別に制作した。インクをすっと吸い込むペン先は他では真似のできない、まさに職人芸なのだという。

昔はぽっぺんや砂時計も作られていた菅さん。
「とにかくガラスが大好き、独創的なもの、人に真似ができないものが好き」と言う。ぽっぺん作りは今はやめたものの、ガラスペンは今でも毎日作る。注文されたものを作るだけでなく、日々新しい使いやすいガラスペンも生み出している。これほどまでの腕を持ちながら「まだまだ満足はしてない。やれることは多い」
と言う菅さんはまさに職人。
そんな彼の作る妥協のないペンに惹かれた人は多い。有名人、芸能人、各国の要人。菅さんの机の上には、驚くほどのお礼状の数々。
そのペン跡を見るだけで「どのペンを使って書いたか分かります」と、菅さんは嬉しそうに言う。

メールに慣れてしまい、面倒臭いと思いがちな手紙。一度書くと消せない、手も疲れる。だからこそ届く想いもあるのではないか、と菅さん。

今からは暑い暑い夏。暑中見舞いや残暑見舞いをこんな涼しいペンで書けば、少し気持ちが涼やかになるかもしれない。
(のなかなおみ)