『ムーミンマグ物語』講談社

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2014年は、ムーミンの原作者であるトーベ・ヤンソンの生誕100周年の年だ。各地で原画展が開催され、ユニクロではムーミンとコラボしたTシャツが期間限定で販売されている。さらには、トーベ・ヤンソンの母国フィンランドで初の長編アニメーション映画が製作され、日本でも2015年に公開されることが発表された。

そう、今ムーミンに注目が集まっている。書籍もムーミン関連商品が例年より多く出版されているような気がしているのだが、その中でも心ひかれたのは『ムーミンマグ物語』だ。

本書では、フィンランドの陶器ブランド「アラビア」で1990年から製造販売されている、ムーミンの絵が描かれたマグカップ全65個を紹介している。このムーミンマグは、単にキャラクターをプリントしているわけではなく、原作から引用された絵が使われているのだ。

本書の編集担当・横川さんに出版の経緯を聞いてみたところ、「アラビアのムーミンマグには物語背景がこめられています。それを“マグ画集”にしようと企画しました。単なる商品カタログではなく、ムーミンの原作にリンクした本をめざしました」とのことだった。なんだか奥が深そうだ。

例を挙げてみると、キャラクターマグの《スナフキン》では、絵本『さびしがりやのクリニット』の横笛を吹いている姿と、コミックス『ムーミン谷への遠い道のり』に登場する釣りをしている後ろ姿が描かれている。また2013年にリニューアルされた《ムーミントロール》では、コミックス『家をたてよう』の場面が描かれている。このように、すべてのマグカップに原作のワンシーンが活用されているのだ。

アニメでムーミンを知った私は原作を読んだことがない。せっかくなのでこの機に原作も読んでみようと思い、横川さんにマグカップのデザインのもとになった作品でおすすめのものを聞いてみた。
「難しい質問ですが『ムーミン谷の冬』をおすすめしたいです。これ以前の作品は児童文学寄りで、これ以降は大人寄りというように、シリーズ9巻の分岐点として両方のエッセンスがバランス良く込められています」

『ムーミン谷の冬』のあらすじはこんな感じだ。
毎年冬眠するムーミン一家だが、その年の冬はどういうわけか、ムーミントロール(物語の主役・ムーミンのこと。原作ではムーミントロールとして登場する)は一人目を覚ましてしまう。家族が眠る中、氷姫との遭遇、ヘムレンさんをはじめとする多くのお客さんと出会いなど、さまざまな出来事が起こる長い冬を乗り越えていく。

冬の厳しさや春の暖かさといった自然の偉大さを思い出すことができ、仲間や家族との交流に気持ちがあったかくなる。読み終わったあとには「もっと早く読んでおけばよかった」としみじみ思った。

さて、『ムーミン谷の冬』の場面が描かれているのはどのマグカップだったか。あらためて本書の巻末にある「マグのイラスト出典一覧」で探してみた。《ムーミンママ(2013年廃盤)》や《トゥーティッキ》《ミィ》《ウィンターナイト》などたくさんあった。その一つずつをみてみると「あぁ、この場面だったのか。いい場面だったよなぁ」などと分かるようになる。
単純に「デザインが好き」というだけでもまったく問題ないのだが、その背景を知ることでよりムーミンマグへの愛着が持てるようになるのではないだろうか。

「マグデザイナーであるトーベ・スロッテは、原作に対する敬意とデザインスキルの高さが本当に素晴らしいんです」と、横川さんは教えてくれた。本書内にあるトーベ・スロッテのインタビューを読むと、原作の絵をどう生かすか、キャラクターの性格が出るのはどんな顔・ポーズか、使い手が楽しめるかどうか、徹底的に考え抜かれていることが伝わってくる。だからこそムーミンマグは多くの人に親しまれているのだろう。

最後に、横川さんにムーミンマグと原作の楽しみ方を聞いてみた。「マイ・ムーミンマグを決め、その物語背景を思いながらお茶の時間を楽しむのはいかがでしょう。たとえば横笛を吹くスナフキンは、絵本のそのシーンで名言をつぶやいてるんですよ」

ムーミンマグと原作の両方に触れることで、ムーミンの世界観をより深く知ることができそうだ。マグカップを持っている人はそのマグに描かれている原作を読んでみてはいかがだろう。原作を読んだことのある人は、それが描かれているマグを探してみてはいかがだろう。

トーベ・ヤンソンの生誕100周年の今年は、ムーミンの世界を広げてみてほしい。新しい発見が必ずあり、今よりムーミンが好きになるはずだ。
(上村逸美/boox)