名波浩の視点
ブラジルW杯
日本代表の勝機を探る(1)

 ブラジルW杯に臨む日本代表が、本番前のテストマッチ3試合を消化。キプロス戦が1−0(5月27日/日本)、コスタリカ戦が3−1(現地6月2日/アメリカ)、ザンビア戦が4−3(現地6月6日/アメリカ)という結果に終わった。それぞれの試合を具体的に採点するのは難しいけれども、1試合消化するごとにチームの状態が上がってきたことは間違いない。そして、本番前にさまざまな問題点が浮き彫りになり、課題が見えた、ということでは非常に意味のある3試合だったと思う。

 キプロス戦は、1−0という結果も、内容も乏しかった。でもそれは、MF本田圭佑やDF長友佑都は帰国したばかりで、他の選手たちも直前の合宿でかなりハードなトレーニングをこなしてきて、コンディションが整っていなかったから仕方がないこと。

 それよりも、この試合で重要だったのは、負傷で長い間戦列を離れていたDF内田篤人、DF吉田麻也、MF長谷部誠の3人が、十分にプレイできるかどうか、ということだった。その点では、3人とも無難なプレイを見せ、見ている側に安心感を与えた。チームにとっては収穫だったと思う。

 続くコスタリカ戦では、守備面で課題が露呈した。象徴的だったのは、前半31分に先制ゴールを奪われたシーン。日本は右サイドでボールを失うと、そのまま相手に同サイドを突破され、簡単にファーサイドへクロスを上げられて失点した。右サイドバックの内田、そのカバーに入ったセンターバックの森重真人、そしてこの試合では左サイドバックに入ってファーサイドで対応した今野泰幸と、ひとりひとりの対応が緩慢で、怠慢だった。それぞれがあと一歩、あと半歩でも前に出て、相手に対して厳しく対応していれば、防げていた失点かもしれない。

 忘れていけないのは、前回の2010年南アフリカW杯。あのとき結果を出せたのは、中盤の底でアンカーを務めた阿部勇樹を中心に、相手の攻撃に対して誰もが献身的に、アグレッシブな対応ができていたからだ。常に危ないところをケアして、ボールを持った相手に対しては、激しいチェックを欠かさなかった。それが、チーム全体で連動してできていたから、不用意な失点をすることがなかった。

 だが、今回のチームはそれができていない。3戦目のザンビア戦でも、楽をしてというか、軽い対応をしてやられるシーンが随所に見られた。W杯に出てくる世界の強豪国というのは、そうした"ミス"を必ず突いてくる。

 だからこそ、ひとりひとりが緩慢なプレイをすることは絶対に許されない。組織で守るとはいえ、局面においては個々の勝負。「やばい」と思ったら、ファールしてでも止める意識というか覚悟が必要で、より集中力を高めて対処することを考えなければいけないだろう。

 前半は無得点に終わったけれども、コスタリカ戦の攻撃は良かった。ボランチの山口蛍と青山敏弘はタテパスを何本も入れていたし、ゴールは決められなかったものの、1トップの大迫勇也も、2列目の右サイドに入った大久保嘉人も、いい動きを見せてチャンスを作っていた。ずっと背後を狙い続けて、3点目の柿谷曜一朗のゴールを演出した岡崎慎司の存在感も際立っていた。

 なかでも、良かったのは、MF香川真司。得意なサイドからのカットインでチームの1点目、後半から出場したMF遠藤保仁のゴールを演出し、柿谷とのコンビネーションで、自ら逆転ゴールも奪った。それまでも、調子自体は悪くなかったけれども、緩やかに描いていた上昇曲線が、この試合でさらに1ランク上がった感じがした。よりシンプルにプレイするようになったし、かなり自信を持ってプレイしているように見えた。

 3戦目のザンビア戦でも攻撃は好調を維持していた。右サイドバックの内田、左サイドバックの長友の攻め上がり、そして彼らを使うタイミングは、長年やっているだけあって素晴らしかった。香川もさらに調子を上げてきて、最後に途中出場の大久保が決勝ゴールを決めたのも良かった。そして、心配されていた本田が2ゴールを記録。本番を前にして、中心選手の活力が戻ったことは、チームにとって大きなプラス材料になったと思う。

 欲を言えば、本田にはもう少しシンプルにプレイしてほしい。というのも、自分が決定的な仕事をしてやろうと、フワッとボールを浮かしたパスを出したり、厳しいところを突いたスルーパスを通そうとしたり、難しいプレイを試みてボールを失うことが多いからだ。

 特にここ2年くらい、前線でキープすることに力を注いでいた2011年アジアカップのときとは違って、本田は簡単にボールをはたいて、周りをうまく使うことで、たくさん点を取れるようになった。そういう意識が芽生えたことで、動き出しも良くなっていた。それは、自らが気づいて確立したスタイルだったはずで、その感覚を再度取り戻してほしい。そうすれば、もっと得点チャンスが増えると思う。

 一方、守備はコスタリカ戦と同様に、緩慢な対応で失点を重ねた。立ち上がりは日本のハイプレッシャーがはまっていたように見えたけれども、それはザンビアが様子を見ていたに過ぎなかった。ザンビアは「これならいける」と手応えをつかむと、パスを効果的につなぎはじめ、サイドバックも果敢に攻撃参加してきた。そのうえ、頻繁にサイドチェンジを繰り返すなどして、スピーディーかつワイドな展開で日本ゴールを強襲した。

 結局、日本はプレッシャーをかけながらも、アフリカ人特有のリーチの長さとか、いわゆるフィジカル能力の高さに翻弄され、「獲った」と思ったボールを奪えなかったりして苦しめられた。先制されたシーンでも、日本はゴール前に人がそろっていて、ザンビアからすれば攻撃スペースはほとんどなかった。しかしそういう状況の中でも、アフリカのチームというのは、ゴールを決めることができる。その認識が甘かった。

 CKから奪われた2失点目も、相手が"変化"をつけてきたことに対応し切れなかった。本来であれば、いちばんニアサイドにいた選手が、事前に研究していたものと違った動きを見せた瞬間に、「何かあるな」と思って、より気を引き締めて対応しなければいけなかった。だが逆に、動きが止まってしまって、豪快なシュートを決められた。セットプレイにおける"変化"は、W杯本番になれば、一層増える。それに対して、臨機応変に対応できる準備を整えておくことも大切だ。

 繰り返しになるけれども、コスタリカ戦でもそうだったように、少しでも甘い対応をすれば、世界では簡単にやられてしまう。「これぐらいでいいだろう」といった感覚で対処することがあってはいけない。過去4大会での日本の敗戦も、それが原因だった。その過ちを繰り返さないためにも、常に相手に隙を与えない対応を心がけるべきだ。

 第一、「優勝する」と口にしているチームなのだから、中途半端な対応ミスから失点して負けることがあってはいけない。ひとりひとりが楽をすることなく、90分間、集中して戦うことをイメージしておくべきだ。

 ともあれ、コスタリカ戦、ザンビア戦における守備の問題や、ザンビア戦で苦労を強いられたアフリカ人特有のプレイスタイルなど、テストマッチで発見し、体感できたことは良かった。それぞれ、選手個々、チーム全体の意識を変えることで解決できる問題。残り時間は少ないものの、日本代表にはテストマッチで出た課題を克服して、本番を迎えることを期待したい。

名波浩●解説 analysis by Nanami Hiroshi