NZ戦で見えた「強かったころのザックジャパン」との決定的な違い
ニュージーランド(NZ)を相手に4−2。スコアからも分かるように、日本代表はバタバタとした落ち着きに欠ける試合に終始した。
日本代表のザッケローニ監督によれば、「最初の25分間は我々のいいプレイができた」とのこと。なるほど、日本の4得点はすべて17分までに入っているし、ニュージーランドには27分のFKまで、ほとんど攻撃を許していない。
だが、本当の意味で「我々のいいプレイができた」のかというと、首をひねらざるをえない。ニュージーランド代表のニール・エンブレン監督もこう語っている。
「選手はまだ若く、経験不足からミスを生んだ。1点目はコミュニケーションミス。2点目はフリーでヘディングされ、4点目はGKのミス。奪われたというより、日本にプレゼントしたゴールだった」
敵将が触れていない2点目のPKについても、審判のジャッジにアシストしてもらったようなもの。日本が高い位置から相手ボールにアプローチし、DFラインを上げて全体をコンパクトにするなかでボールを奪い、攻撃につなげるという流れになっていたのは事実だが、それは日本がいいプレイをしたからというより、相手の自滅によるものだったという印象は強い。
実際、その後はフォーメーション変更などで持ち直したニュージーランドに対し、日本は互角以下の試合しかできなくなった。いずれにしても「日本、4発快勝!」などという見出しを打てる試合でなかったのは間違いない。
ザッケローニ監督は試合を振り返り、「最初の25分間」に限らず、基本的にはポジティブな発言を繰り返した。曰く、「これまで出場のチャンスがあまりなかったメンバーをゲームで見ることができた」。また曰く、「全体に及第点のプレイをし、インパクトを与えてくれた」など。
しかし、その一方でいくつか不満が垣間見える言葉も漏らしている。イタリア人指揮官は「日本の長所は技術力」だとしたうえで、「だが、技術力単体ではなく、そこにスピードを加えないと世界レベルでは通用しない」と言い、こう続けた。
「足下、足下のパスばかりにならないで、スペースへパスすることでダイナミズを出さなければならない。今日のように10m四方で細かいパスをつなぎ続けていても何も起こらない」
そして、このことと関連づけるかのように、こんなことも語っている。
「香川(真司)と本田(圭佑)の関係だが、彼らは近い距離でプレイするのではなく、本田には(ペナルティ)エリア内にどんどん入ってほしい。香川はトップ下でも生きることは分かっているが、左サイドでも能力を発揮できる」
この試合、本田と香川を中心にして、それなりにパスは回っていた。公式記録によれば、日本のボール支配率は57.8%である。
しかし、その内容はというと、よく言えば個人個人のアイディアが融合したイマジネーションに富むものだったが、悪く言えば場当たり的で安定感に欠けるもの。そして、これこそが2、3年前の強かったころの日本代表との決定的な違いである。
当時の日本代表は縦にボールを出し入れし、相手を押し込んだうえで、さらに長友佑都、内田篤人の両サイドバックがDFラインの背後を取るような攻撃ができていた。縦方向への力強さがあり、展開も大きかった。
ところが、ニュージーランド戦に限らず最近の試合では、細かなパスワークばかりが目立ち、結果、パスが回っていても決定機にはつながらない。昨年10月の東欧遠征の2試合(セルビア戦とベラルーシ戦)などがいい例だ。
そうした現象は、いわゆる"悪いボールの失い方"にもつながる。例えば、ニュージーランド戦の49分のシーンが典型的だ。
日本は細貝萌のボール奪取から、清武弘嗣、本田圭佑、香川真司がペナルティアーク付近に集まってきてパスをつなごうとした。ところが、そこでボールを失うと、ニュージーランドの右サイド(日本の左サイド)からの危ういカウンター攻撃を受けてしまう。
全体が中央に偏りすぎた結果、サイドでの守備への対応が遅れ、相手サイドバックにドリブル突破を許したからである。
まさにザッケローニ監督が指摘している、香川と本田の距離感の悪さから生まれたピンチだったというわけだ。
だが、こうした現象は今に始まったことではない。コンフェデレーションズカップを終えたあたりですでに顕著になり、それは収まるどころか、むしろ試合を重ねるごとに拍車がかかっているようにさえ見える。
結局、唯一攻撃にダイナミズムを加えられるのは、岡崎慎司が相手DFラインの背後を狙う動きだけ。これでは、いかにも苦しい。
ザッケローニ監督が言うように、2失点はいずれも「陣形が整っている状況でやられている。注意力を高めなくてはいけない」。しかし、日本人DFの能力は世界的に見れば、良くも悪くもこんなもの。むしろマイボール時に、しっかりと試合の流れを引き寄せるような攻撃ができていないことのほうが、よほど気になる。
「個の強さを求めている」と言えば聞こえはいいが、「規律」を失い、選手個々が気ままな発想で「淡白な攻撃」を繰り返しているだけでは得点を奪えないばかりか、守備のリズムにも悪影響を及ぼしかねない。
ザッケローニ監督には言葉だけでなく、しっかり選手をコントロールしてくれと言いたいところだが、今のところ、その兆しは見えてこない。
浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki